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「召喚士様、一度村へ戻っても構いませんか?同胞が心配です」
そう言うリアンの言葉に、俺も気になっていたため引き返すことにした。とは言ってもひとまず逃げることに徹したので村からはだいぶ離れてしまった。リアンは、「召喚士様、お疲れでしょうから乗ってください。そちらのほうが早いです」と、背中に俺を乗せてのしのしと歩き始める。その道中、リアンが口を開いて俺に問う。
「召喚士様、あの退魔の力は一体?とても強いものだと感じましたが…」
あぁ、あの力なぁ…と呟くように言えば思い出すのは前にここへ来た時のこと。俺は、弱くて何もできなくてただ召喚獣に頼ることしかできなくて、割と落ち込んでた時期があった。
当然、元々いた世界で魔法や術もなければ格闘技を習う機会があるほど行動力がある奴でもなかった。自慢といえばパチンコの看板に追いかけられてしばらく逃げ切ったことくらいだ。
そんなわけで、昔も今も俺はとんでもなく弱くて召喚獣に契約書へサインをさせることすら最初はままならなかった。当然、優しい者も中にはいるが当時は選ぶ暇も、時間も、俺の目もなかった。泣きそうになりながら召喚獣を捜し歩いたのは今や懐かしい思い出であり、その後働きに出た営業の仕事でも心が折れない程度の役には立っている。
その中で、一番最初に俺と契約をしてくれた召喚獣がいた。そいつは、俺のあまりにも弱いことに興味を持ち、特別な何かがあると契約を結んでくれた。何が得意なのかと聞けば召喚獣には珍しい、サポート魔法を得意とすると言って俺にあらゆる魔法から守ってくれるまじないをかけてくれたのだ。
別れる最期に、そいつは
『ご主人、それはあなたが今後、またこの世界へ来るときに自動であなたを守ってくれる。ただし、おそらくその時には効果は薄まり…魔法にしか反応しなくなるだろう。私がいつまでもご主人を守りきれるわけではないからな。効果は敵意を持つ魔法だけだから気を付けい』
と、だけ言って笑った。
俺のこれは、当時のとある1匹の召喚獣の優しさなのだ、とエピソードも加えて話せばリアンはそうですか、とだけ返事を返し、それっきり話すことはなかった。
村に着き、あたりを見回せば狼たちがこちらの様子をちらちらと伺いながらもやがて脅威がなくなったことを悟ると一斉に出てくる。勇者はなんとかなった、と伝えればその盛り上がりも一等あがり、
「さすが召喚士様です!」
「リアン様もご無事で!」
「言い伝えは本当ですね!」
などと大量の称賛の声に耳が痛くなってくる。考えてもみてほしい、周りは狼だらけで人間は俺だけだ。どう考えても捕食される前の獲物にしかみえないだろう?そんなことを考えながらもみくちゃにされていれば、顔面にべチャッとなにかがくっついた。とてもモフモフしている。
「おじちゃん!あのね!あ、ごめんねちょっと顔動かしてモフモフしないで。あのね、おじちゃん!町にね、勇者がたくさん来てるらしいんだ!
おじちゃん、魔王さんに会ったことあるんでしょ?勇者は魔王さんのお家の往き方知ってるからとっても役に立つと思うよ!僕、おじちゃんが困ってるってみんなに聞いたよ!魔王さんは色んなこと知ってるからきっとおじちゃんが困ってることもどうにかしてくれると思う!」
「おぉ!そうか!ありがとな!」
確かに魔王の居場所は知らない。前回は会合を開いたら来てくれたから知る必要もなかったからだ。ふむ、と
少し考えて、リアンを見ればこくりと頷く。
「魔王は、おそらく何かを掴んでいるでしょう。けれど、何も備えずに行くのは危険です。魔王のところへ行く前に、少し別種族ですが知恵を貸してくれる者を知っていますのでその者に会っていきましょう」
「決まったな」
にっこり笑った俺にリアンも再度頷く。「村の皆に伝えてきますので少々お待ちを」と言ったリアンにひらひらと手を振って、ふと、それに気づく。自分の右手についた大きな切り傷に。
切り傷は、俺の手のひらを大きく切り裂いていて、見た目もグロイ。
「うーん…やっちまったなぁ…」
本来ならば、大きく切られたその傷から絶え間なく流れるはずの赤い血液が、一切流れないその現象に苦笑いしてしまう。そう、やってしまった。俺は、傷を負ってしまったのだ。
リアンは回復系統の魔法が使えるとは思えない。なら、とりあえずは我慢である。ポケットに乱雑に突っ込んでいた皺くちゃのハンカチを取り出して手にぐるぐると巻き付けてやる。血は、未だ滲まない。
そのことに、俺は大きくため息をついた。
(──さっきの、たぶん魔法が飛んできたときにでもあたったかなぁ…)




