第4話
「で、お前は一体何をしている?」
かくして、俺の依頼を受けてくれることになった須世理琴音であるが、彼女はどういうわけかいきなりキャリーバックを用意して、荷物をそれに詰め始めた。そして、準備ができたのか、
「さ、行きましょう」
と、唐突に言って、歩き出す。いやいや、だから!
「お前は一体何をしている!?」
須世理は首だけをこちらに向け、億劫そうに答える。
「あなたの家に行くのよ」
「その荷物は何だ?」
「しばらくは、あなたの家に泊まらせてもらうわ」
……は? 泊まる?
「え、なんで?」
「その方が、調査しやすいじゃない。違わない?」
違わない? とか言われても分からない。俺は、お前がどんな調査をするのか全く知らないのだから。つーか、だ。年頃の女の子が年頃の男の子の家に泊まるというのは、そもそもあっていいことなのか?
「あ、そうか。あなたの親御さんに許可を貰わないといけないのね? じゃあ、杵築くん。早速、親御さんの許可を取ってくれる?」
「いや、別にそれはいいよ。両親は共働きで、滅多に家に帰って来ないから。それよか、お前の方はいいのかよ?」
「え? 何が?」
須世理は首を傾げる。何がって……そりゃあ……、
「だって、男の家に泊まるんだぜ。お前の親は、快く思わないだろ?」
「大丈夫よ。私、一人暮らししてるし。両親は、放任主義の人なのよ」
「いやでもだな……」
お前は、あれなのか? 何も感じないのか? 男と女が一つ屋根の下で寝泊まりするんだぞ。変に意識しない方がおかしい。
「あなたは、そんなに私を家に行かせたくないの? 見られたくないものでもあるの?」
「いや、そうじゃねぇよ」
「ならいいじゃない。他に何か不満が?」
「不満も何も、年頃の男女が一つ屋根の下で寝泊まりするんだぞ? それっていいのか」
「何を言っているの? あなたはいつも妹さんと一つ屋根の下で暮らしているじゃない。なら、私と寝泊まりしてもさして問題はないわ。別に同室で寝るわけでもないんだし」
意味分かんねーよ。妹は家族で、お前は他人だ。同じ女でも家族と他人じゃ、意識のしようが違うではないか。同室で寝ようと寝まいと。
「行くわよ。早く行かないと陽が暮れる」
そう言って、須世理はキャリーバックを一瞥して、何も持たずに先を行く。あー、俺にバッグを持てと言うのだな。そして、俺ん家に泊まるっていうのも決定事項となったらしい。まあ、俺は依頼をした身である。ああだこうだと文句を言うのは、失礼というものだ。
「はあ」
と、溜息を吐いて、俺は須世理のキャリーバッグを持ち、彼女の後を追った。
外へ出ると、陽は暮れかかっていて、空は全体的に紫がかっていた。明るいのはせいぜい山際くらいだ。
「ほら、あなたが先陣を切りなさいよ。私、あなたの家知らないんだから」
須世理が偉そうに言った。俺は「へいへい」といい加減に返事をして、先陣を切る。
あ、そうだ。妹の結祈に連絡しないと。もう一人分の晩飯を作ってくれ、と。