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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
第一章 Qが意味するクエスチョン
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第3話

 放課後。その件の探偵事務所へ赴くため、俺は駅前へ来ていた。


 今になって思ったのだが、金は取らないとか謳って実は法外な金を取る悪徳探偵事務所じゃないだろうか。いやでも、穂高の言うことだ。嘘ではないだろう。それにそもそも、学校の掲示板に悪徳業者のポスターが貼ってあるわけがない


「ここ、か」


 独りごちり、目の前のビルを見上げる。さほど大きなビルではない。個人で所有しているビルなんだろうか。そのビルの二階の窓。そこにデカデカ……じゃなくて、なんともまあ控えめに『須世理探偵事務所』と塗装がされていた。入口の案内板を見ても、須世理探偵事務所は二階のフロアにあると分かる。俺は、それを確認してビルに入る。そして、二階に上がり、須世理探偵事務所の扉を開け――と、開ける前にまずはノックだな。俺はノックをする。


 ――コンコン。


「はい、どうぞ」


 扉越しから、入室を促す凛然とした声が聞こえた。今度こそ俺は扉を開ける。


 開けた瞬間、気圧か何かの影響でふわっと風が吹く。その風の所為で、俺の目の前にいた少女の長い黒髪がさらりと靡いた。その靡きようと言ったら、綺麗としか表現できない。優しく輝き、柔らかく靡く。そして何より美人だった。絶世の美女という言い回しを再確認させるほどに美人だった。


 ――不覚にも、俺は彼女に見蕩れてしまった。


「ようこそ。須世理探偵事務所へ。私が、所長の須世理(すせり)琴音ことねです」


 目の前の美少女は笑みを浮かべてそう言った。


 美少女は、俺と同じ制服を着ている。つまりは学生で、俺と同じ学校に通う生徒。そんな彼女が、探偵事務所の所長? つーか、高校生で探偵事務所を開いていいのだろうか。あと、〝須世理〟は普通に〝すせり〟でよかったらしい。


 にしても、須世理琴音。こいつ、どっかで見たことあるような、ないような。まあでも、これほどの美人だ。一回見れば忘れないだろう。同じ学校だから、校内のどこかで見かけたのをうっすらと憶えていたのだろう。


 とりあえず、自己紹介だ。


「あ、えと、杵築出雲です。二年生です」


「二年生……。なんだ、私と同じか」


 ……二年生だったのね、須世理さん。敬語で自己紹介した自分が恥ずかしく感じた。同学年だと知っていれば、フランクに自己紹介していたのに。


「で、杵築くん。用件は何? 依頼? 相談事?」


 矢庭に、須世理はそう訊いてきた。


「ん、ああ。ちょっと、相談を」


「そう。じゃあ、適当なとこに座って」


 そう言って、須世理は俺を談話のために設けられた椅子へと座らせた。


「待っててね。今、コーヒーを淹れるから。あ、紅茶の方がよかった? それともほうじ茶?」


「コーヒーでいいよ」


「そう」


 須世理は、給湯室へと消えていった。


 しばらくして、須世理が給湯室からコーヒーをお盆に載せてやって来た。そして、「どうぞ」と言いながら須世理は俺の前のテーブルにコーヒーを置き、彼女自身は自分のコーヒーを持って俺の対面に座る。ずずっと、須世理はブラックのままコーヒーを啜り、


「で、どんな相談?」


 早速、そう尋ねてきた。思った以上に単刀直入である。俺は、相談をする前に訊いておきたいことがあるのだが……。


「あのさ。相談をする前に確認するけど、ここはオカルト専門の探偵事務所って解釈でいいんだよな?」


「ええ。その解釈で間違いないわよ」


 さらっと須世理は答えた。マジなんだ。まあいい。そうと分かれば相談だ。


「えーと……これは、俺の妹のことなんだが……」


 超自然的な現象を真面目に話すのは恥ずかしい気がした。でも、恥ずかしがるな。目の前の美少女は真面目な顔で俺を見ている。大丈夫、彼女は別に俺をからかっているわけではない。そんな悪意、彼女からは感じられない。


「妹の部屋が、誰の手にもよらず荒らされるんだよ」


 言うと、須世理は顎に手を当てて考えるような仕種をする。


「それ、ほんとに誰の手にもよらないものなの? あなたの妹さんが夢遊病で、無意識のうちに行われたものとかじゃないの?」


「妹曰く、ごとごとっていう音が聞こえて、目を覚ましたら、そこはもう荒らされていた……とのことだ。それに、実際に見たらしい。独りでに箪笥が開いて、無造作に中身が放り出される瞬間を」


「そう。……被害は、箪笥の中身が放り出されるだけ?」


「まあ、あとは本棚の本もそうだな。それと、鏡とか壁に落書きがされる」


「落書き?」


「ああ。よく分からんマークみたいなものだ。ほんとによく分からん。意図が分からん。そんな落書き」


 ぐむ、と。須世理は黙りこくり、顎に手を当て、考える仕種を見せる。俺はそんな須世理を眺めながら、コーヒーにシュガーとクリームを加え、それを一口だけ飲む。


「……ポルターガイスト現象」


 須世理が呟く。俺はその呟きに対して、こう言った。


「妹曰く、そうらしいけど、実際どうだか分からん。まあ、お前がさっき言った通り、夢遊病だからなのかもしれんな」


 須世理は、相槌すらしなかった。俺の言葉を無視して、また考え込む。……埒が明かない。


 オカルト探偵でも、解けない謎はあるらしい。まあ、ここへ赴いたのはそもそもダメ元だったわけだし、こいつに期待はしていなかった。これ以上、世話になるのも迷惑だろう。


「あー、悪かったな」


 俺はそそくさと席を立つ。


「とりあえず、お前の言った夢遊病ってのを信じて、まずは妹を病院にでも連れて行ってみるよ。迷惑かけたな。じゃあ、俺は帰るよ。コーヒー、ありがと」


 俺は、そのまま扉の方へ歩いた。そして、ドアノブを握ったそのとき――


「ちょっと待って」


 そう呼び止められる。俺は、再び須世理の方を向いた。


「私は別にあなたの妹が夢遊病だと断言したわけではないわよ」


「そりゃあ、そうだろうけど、このままじゃ埒が明かない」


「意外に、酷いことを言うのね。……まあいいわ。私には、今二つの考えがある。一つは、あなたの妹が夢遊病である説。そしてもう一つは、本当にポルターガイスト現象が起こっている説。私としては、後者の可能性が高いと思うの」


「なんでだ?」


「夢遊病の原因は精神的なストレスであることが多い。あなたの妹は、今何歳?」


「中二だから……一四だな」


「一四歳の女の子が精神的なストレスに苛まれるものかしら?」


「まあ、ないだろうな。特に、俺の妹は卓球部でレギュラーだし、勉強もそれなりにできる。ストレスを感じることはないだろう」


「私も、中学生が夢遊病を引き起こすくらいのストレスに苛まれるというのはどうかと思うの。まあ、あなたの妹さんがいじめに遭っているとか言うのなら話は別なんだけど」


「それはない」


「そうね。卓球部でレギュラー。尚且つ、勉強もできる。そういうスペックを持った子は、基本的にクラスの中心だものね」


 俺の妹がクラスでどんな立ち位置なのかは知らないが、まあ須世理の言う通りなのだろう。家でもよく友達ときゃっきゃうふふと電話しているのを見かける。そんな子がいじめに遭っているとはまず考えにくい。そして、夢遊病になるほどのストレスを感じているとも言い難い。


「だから、お前はポルターガイスト現象だと思うわけか?」


「ええ」


 ……でも、だ。正直な話、俺はその手の事柄には懐疑的な人間だ。ポルターガイストとか、俺は信じていない。俺は思うのだ。この現象は科学的に解明できるものなんじゃないかと。夢遊病以外にも科学的ななんとやらがあるのではないかと。


「あなた、オカルトとか信じない性質の人?」


 と、矢庭に訊かれた。俺の怪訝な表情を読み取ってのことだろうか。


「ま、まあ、信じてた時代もあったが……それも昔のことだな。信じてないよ。悪いけど」


 つーか、この歳でオカルト信じてますってのは、中二病以外の何ものでもない。


「オカルトに懐疑的なら、なんで私の所に来たのよ?」


「そりゃ……まあ、妹がお化けの仕業だーって言うから、俺もそう信じざるを得ないっていうか。まあそんなのとこ」


 そう言うと、須世理が半眼で俺を見つめる。なんだ? その下卑た物を見るような目は?


「なんだよ?」


 少し不機嫌に俺は言う。すると、須世理は冷淡な声で、


「シスコンなの?」


 と言った。その目は未だに俺を蔑んでいる。にしても、


「何言ってんだよ。妹のためにお兄ちゃんが頑張るのは当たり前だろうが」


「……あ、そう。そういうことね」


 なんか、勝手に納得しちゃってますけど……まあ、いいか。


「で、どうするの? もし、あなたが依頼をするのなら、私はあなたの悩み事――厳密に言えば、あなたの妹さんの悩み事だけど――を解決してあげるわよ」


 解決してあげる、って。その言い方だと豪く自信満々に聞こえるんだが?


「解決できる自信があるのか?」


「その現象が本当にオカルト的なポルターガイスト現象なら、絶対解決できる」


「絶対? お前、今絶対って言ったな?」


「ええ」


「お前、絶対ってのは一〇〇%ってことだぞ? ほんとに絶対に解決できるのか?」


「女に二言はないわ」


 ……おいおい、マジかよ。こいつ、本当に本当の絶対にこの不可思議事件を解決できると言うのか? こんな中二病が?


「何を悩んでいるの? 誰かから聞いてないの? 私は別にお金を取るなんて真似はしないのよ。あなたが私に依頼をしても、あなたは私にお金を支払う必要はない。もし、私に依頼したことが無駄だったとしても、あなたは損をしないでしょう」


 ああ、そう言えばそうだった。こいつは、金を取らないんだった。


 そして、須世理の言う通りだ。須世理に依頼して調査をお願いしたとしよう。それでもし、その調査が無駄となったところで、俺はどんな損をする? オカルト探偵が解決できなかったそのときは、妹の周りで起こるポルターガイスト現象はオカルト的ではなく科学的なことであると分かるし、そうすればどんな人に事件解決を斡旋すればいいのかも分かる。別段、損をすることはない。事件解決の第一歩のために、須世理に依頼をするというのは一つの手だろう。


「よし、分かった。じゃあ、とりあえずお前に依頼をするよ。妹の身の回りで起こるポルターガイスト現象を解き明かしてみてくれよ」


 俺は挑発的にそう言って、お辞儀の代わりにけしかけるような視線を須世理に送った。須世理はそんな俺の視線を意に介さず、琴の音のように凛然とした声で言う。


「分かりました。あなたの依頼、お受けいたしましょう」


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