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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
第二章 翡翠の姫、襲来
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第2話

 誰もいなかった。


 周りには無機質なビルが建ち並ぶ。俺は、これまた無機質なアスファルトの道路の上に呆然と立っている。風はない。光はある。太陽も確認した。でも、暑くない。涼しくもないし、寒くもない。


 ――ここは、どこだ?


 見たことはある。駅前に続く、いつもの道。須世理探偵事務所に続く、いつもの道。それなのに、誰もいない。どこでもない。見慣れた道なのに、新鮮な感じがする道。


 ――ここは、どこだ?


 何度でも問う。誰でもない誰かに。何もない虚空に。何でもない何かに。


 ――ここは、どこだ?



『じゃじゃん! はーい、それでは早速問題でーす』



 と、刹那。空から降り注ぐように声がした。その声は女のものだ。


「誰だ?」


 俺は、そう質問をした。


『そう簡単には、正体を明っかしませーん。さぁ、新人ワトソン君? あたしのクイズに答えてね』


 俺の質問には答えずに、天の声は言葉を紡ぐ。


『問題です。コイはコイでも、泳げないコイってなーんだ?』


「?」


 いきなり始まった謎かけ。俺は突飛なことで、呆然とする。


『制限時間は一五秒。このくらいあれば余裕で解ける、超簡単な問題だよー』


 は? ……意味が分からん。何もかもがいきなり過ぎる。俺はどうすればいい?


『残り一〇秒。ほらほら、早く解かないと目的地には行けないよー』


 天からは、そんな声が降りかかる。なんだ? 解けばいいのか?


 コイはコイでも、泳げないコイ。鯉……コイ……こい……恋。ああ、これだな。正解はこれだ。この謎かけは、パンはパンでも食べられないパンは何だ? と同じ系統の謎かけだ。


『五、四、三――』


「――恋愛の恋……」


 カウントダウンが終わる前に、俺はそう答えた。


『……』


 一瞬の沈黙。そして、


『正解! 大正解ーっ!! ……って、まあこのくらいは解けてもらわなきゃ困るよねー。これが解けないワトソン君なんて、とっとと辞めちゃったほうがいい』


 さらりと酷いことを言う。にしても、どうして俺がワトソン君――助手であることを知っているのだろうか? 須世理の知り合いか何かか?


「おい。お前、須――」


『はいはーい。それじゃあ、今日はこの辺でさようならー。そして、また明日会いましょう。ばいばーい』


 俺の質問をぶった切って、天の声が言った。


「ちょ、質問に――」


 と、刹那。周りの空間が、グニャリと歪曲する。だが、それも一瞬だ。少しの違和を感じが、気付いたときには元に戻っていた。元のビル街。元の空。元の太陽。人も行き交ういつものストリート。そこから異常は排斥されて、すべてがいつも通りになっていた。


「……何だったんだ?」


 ぼそっと、呟いてみる。呟いたところで、先ほどの現象の意味は分からない。何がどういう原理で、どのような現象が起こったのだろうか?


 ……いや、今の俺ならはっきり分かる。俺がさっき体験したあれは、おそらくオカルト。何かしらの魔術によって引き起こされたオカルト現象だ。


 まあいい。さして問題もなかったし、あまり深くは考えまい。


 とにかく、俺は須世理探偵事務所に向かう途中なのだ。早く須世理の所へ行かなければ。早くしないと、須世理のお怒りを受けてしまう。助手が、重役出勤をするわけにはいかないからな。


 俺は、足早に先を急いだ。


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