第12話
須世理の透明化の魔術は本物だった。俺たちは誰にも声を掛けらずに、中学校内を歩いている。校内にいる生徒や教師も俺たちのことは全く見えていないらしく、こちらを気にすることすらしていない。
俺たちが向かっているのは体育館だ。この時間帯なら、結祈の所属する卓球部は体育館で部活をしているはずである。体育館までの案内は、俺が先導した。
そして、ひとしきり歩き、俺たちは体育館に到着した。中に入ると女子バレーボール部の甲高い声や男子剣道部の野太い声が木霊している。卓球部は……隅っこの方で卓球台を三台ほど出して、ポコスカとピン球を打ち合って練習をしていた。ポコンポコンポコン、と。小気味好いリズムを奏でている。
隣の須世理を見遣ると、彼女は空いている方の手を顎に当て、卓球部の方を見つめていた。須世理の視線を追ってみると、そこには複数人で素振りをしている卓球部員がいた。まあ、台は三台しかないわけだ。何人か、溢れてしまうのは仕方ない。台を使って練習のできない奴らは、ああやって素振りをする外ないのだ。
……そういえば、結祈はどこにいるかな? そう思い立ち、結祈を捜す。結祈は簡単に見つかった。三つの台のうちの一つで、練習をしていた。さすがはレギュラー選手だ。ちゃんと台を使えている。結祈の相手をしているのは結祈よりも大人びているからたぶん先輩だ。先輩と互角に打ち合うとか、お兄ちゃんはキミを誇りに思うよ。さすが我が妹。
――あっ。
結祈のラケットが空を切った。結祈が空振りをしたことにより、ピン球が後ろへ転がる。結祈は急ぎ足で、それを取りに行った。そのピン球は、素振りをしていた一人に拾われる。ボブカットで可愛らしい女の子だった。もちろん、我が妹には劣るが。我が妹・結祈は、そのボブカットの子からピン球を笑顔で受け取った。そして、そのまま踵を返し、結祈はまた練習に戻る。
俺はそのときふと感じた。結祈にピン球を渡したあの子の笑顔がどこかぎこちない。無理に笑っているように見えた。
「ああ、あの子ね」
と、隣の須世理が言う。須世理の口角がどことなく上がっているように見えた。――どうやら、何か分かったようだ。
「出るわよ。杵築くん」
「お、おう」
俺たちは、様々な部活動の掛け声が木霊する体育館を後にした。




