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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
第一章 Qが意味するクエスチョン
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第11話

「どうしてくれるんだよ。みんなから変な誤解をされたじゃねぇか」


 とぼとぼ、と。道を歩きながら、俺は不満げに呟く。


「何よ。私とそういう関係を疑われるのが、そんなに嫌なの?」


「そりゃ、さすがに下僕と女王様だとか、マゾとサドとかって関係性を疑われるのは、さすがに嫌だ」


「そう。私はいいわよ。女王様でも」


「聞こえがいいもんな、女王様は。でも、下僕は嫌だよ。絶対に嫌」


「なら、私が下僕であなたが王様だったら?」


「俺にそんな趣味はない。それともあれか? お前は、俺にいじめられたいのか?」


「ふん。そんなの死んでもごめんよ」


「だろうな」


 お前が、そんな変態だったら俺はマジで引く。


「ところで」


 俺は、須世理に訊きたいことがある。だから、話を変えて、それを訊く。


「俺たちは、どこへ向かっている?」


「結祈ちゃんの中学校よ」


 須世理がさも当然のようにそう答えた。


「何しに?」


「昨日言ったでしょう。ポルターガイストを終わらせるためには、その元を断たないといけないって。だから、その元を見つけに」


「え? その元である魔術師とやらは、中学校にいるのか? てことは、中学生?」


「可能性としては一番高い。そうでしょう?」


 そうでしょう? と言われても、何がでしょう? 俺が釈然としない顔をしていると、須世理が口を開く。


「犯人は、なぜ結祈ちゃんを狙ったのかしら?」


「え? さ、さあ?」


「さあって、少しは考えなさいよ。……ていうか、こんなの簡単じゃない。結祈ちゃんに対して何かしらの嫉妬もしくはそれに準ずる感情を抱いていたからよ」


「はぁ? 結祈は誰かに恨まれるような子じゃないぞ?」


 可愛い妹が、誰かに恨まれるようなこと妬まれるようなことをするか? いやいや、そんなわけはない。あんな性格のいい子がそんなことをするわけがない。


「そうね。結祈ちゃん自身は、何も気付いていないでしょうね」


「どういうことだ?」


「結祈ちゃんは頭もいいし、卓球部ではレギュラーらしいわね」


「そうだな」


 兄の俺が言うのも何だが、あいつはセンスの塊だ。勉強ができるのは昔からだ。だが、卓球はあいつが中学入学から始めた部活。あいつは、ものの一年で他の経験者や先輩を押し退けレギュラーになった。個人戦でも、よく何かしらの賞を貰って帰ってくる。


「しかも、始めて一年足らずでレギュラーになったセンスの塊。――他の経験者や先輩からしてみれば、嫉妬の対象でしょうね」


「なるほど……」


 努力だけでは才能には及ばない。一応、これでもできる妹を持つ兄だ。才能人に嫉妬するその気持ち、分からなくもない。


「天才は無意識のうちに周りの人間を破壊する、ってことだな」


「ええ、そうね。……そう、なんでしょうね」


 須世理が、ふと伏し目がちになり、アンニュイな表情をした。


「どうかしたか?」


 その表情が気になったので、問うてみる。


「いえ、何でもないわ」


 須世理が突き放すようにそう言った。あまり深追いはしない方がいいだろう。そんな気がする。


 しばらく歩き、俺と須世理は立ち止まった。目の前には、俺にとっては懐かしの母校であり、妹にとっては今現在通っている中学校があった。


「中学校とか、久しぶりに来るな」


「あなたは、ここの出身?」


「ああ」


「なら、案内よろしくね」


「任せとけ」


 そして、何故か須世理が俺の手を握る。


「え、ぇえ?」


 あからさまに動揺したのは俺だった。いや、だってさ、手だぜ? 手首じゃなくて、手を握ってきたんだぜ?


「ちょ、え? 何?」


「動揺しない」


「は? いやだってっ」


「高校生が、許可もなく中学校の中に入るのはさすがにダメでしょう?」


「そりゃ、まあそうだろうな」


 学校というのは、基本的に部外者は入れないようになっている。許可を取ればいいのだが、取るにしてもそれなりの理由が必要だ。理由もなく許可を取ろうなんて、そんなことできるわけもない。それで、須世理は何故俺の手を握る?


「だから、私たちは気付かれるわけにはいかない。高校生が中学校を歩き回っているとなれば、いろいろと厄介になる。――せっかくだから、あなたに見せてあげるわ。魔術を」


 須世理がそう言った。


 魔術。詳しいことは分からないが、結祈の部屋で起こったポルターガイスト現象の原因であるアレだ。魔術と言うくらいだから、そりゃあポルターガイスト以外のこともできるのだろうとは思う。俺が思うに、全能性があるもの――それが魔術なのではないだろうか。


「今から、私とあなたの姿を消す。いい? 私の手を離さないでよ? 離したら、私の魔術の恩恵を受けられない」


 須世理が俺の手を握ったのはそのためらしい。俺を透明化魔術の庇護下に置くため。


「無駄に動揺とかしないでよね。ほんと」


 そう言った須世理の頬は少し上気していた。お前も内心、動揺してるだろ。思ったところで、口にはしないけど。


「行くわよ」


 須世理の声に従って、俺たちは中学校内に侵入した。


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