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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
第一章 Qが意味するクエスチョン
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第10話

 結局、須世理琴音は魔術について詳しく教えてくれなかった。


 須世理は、俺に言ったのだ。


『とりあえず、魔術というものが存在する。それだけ知っていればいい。今のところはね』


 そして、翌日。その放課後。俺は帰り支度をして、友人の国狭槌穂高と一緒に帰ろうとした。そのとき、俺たちのクラス――二年二組の教室に一人の美少女が入って来た。彼女の闖入により、クラスにいた男子、それに女子すらもそちらに注視する。


 須世理琴音。


 彼女は、艶美な長い黒髪を、翼のように翻しながら、歩く。こちらに歩く。そして、俺の眼前に立つ。


「行くわよ、杵築くん」


 と、須世理は見つめていると思わず吸い込まれそうになる瞳をこちらに向けて、唐突にそう言った。


「は?」


 俺は、何も聞かされていない。確かに、須世理は昨日、クイックシルバーの魔術を行使している魔術師を突き止めるとか何とか言っていたが、それについて俺は何も聞かされていない。


「いいから、行くよ」


 言って、須世理は俺の手首を掴んだ。と、そこでクラス内がざわつく。なんか、誤解されているような……。


「お、おい、出雲?」


 と、横にいた穂高がおどおどしく訊く。


「お前、須世理さんとそういう関係だったのか? そりゃ、お前に須世理探偵事務所を教えたのは俺だけど……まさか、そんな、こんな関係になってるなんて……っ!?」


「い、いや、お前何か勘違いしてるだろ? 俺とこいつは、あれだ。依頼主と探偵の関係だ。やましいことは一つもないぞ」


 そう言って、誤解を解こうとした。だが、誰かが何かを勘違いしたようで、どこからかこんな声が聞こえた。


「ねえ、下僕と女王様の関係だって?」

「いや、違うだろ。奴隷と主の関係だろ?」

「いやいや、違う。マゾヒストとサディストの関係だろ?」


 一体、何をどう聞いたら、そんな解釈に至るのだろうか? 俺は、お前らの耳が不思議で仕方ないのだが。


「とにかく行くわよ。きづ……じゃなくて、下僕くん」


「おい! お前、今言い直したよな!? 一瞬、杵築って言いかけて下僕に言い直したよな! つーか、なんでそういう悪ふざけするのかなっ!?」


 須世理の悪ふざけにより、周りはさらにざわつく。


「ほら、やっぱり下僕と女王様の関係だったじゃん」

「てことは、つまり、マゾとサドの関係でもあるわけだな」


 完全完璧に勘違いされた。


「だから、違うって!」


 と、俺が声を荒げると、穂高が俺の肩に手を置く。


「心配するな、出雲。お前がどんな性癖を持っていようと、俺はお前の親友だぜ☆」


 見えないはずの星が見えた気がした。つーか、なんか超ムカつく! そのいけ好かない言い方やめろよなっ!?


「穂高、信じてくれよ。俺は変態なんかじゃないぞ」


「変態はみんなそう言うんだよ」


「だから変態じゃねぇ!」


「ギャーギャーうるさい」


 と、横合いから須世理が言う。


「ほら、行くわよ」


 須世理は、俺の手を強引に引っ張り、そのまま俺を引きずる。俺は引きずられながらも、とにかく自分が普通であることをギャーギャーと主張したのだが、クラスの奴らは俺を生暖かい視線で見送った。


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