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オカルト探偵・須世理琴音の不可思議事件覚帖  作者: 硯見詩紀
プロローグ
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プロローグ

 澱みなく流れる清流のような風が、少女の腰まであろう長い黒髪をさらさらと靡かせた。


 そんな風に吹かれて靡いた長い黒髪は艶やかでなめらかな絹糸のようで、艶美や美麗という言葉では表現し尽くせないほどに美しかった。あまりの美しさにふと触りたいという衝動に駆られたが、ろくに会話もしたことのない女子の髪を触ろうなんて失礼極まりないので、その衝動はグッと堪えた。


 堪えたのだが、次に彼女の顔を見たとき、俺はまた衝動に駆られた。ずっと見ていたいと言う衝動に。髪が美しければ、その顔も美しい。美人だった。


 その肌は沫雪のように白く、目鼻立ちは完璧という言葉が似合うほどに完璧で、欠点なんて見当たらなかった。唇は桜の花弁をくっ付けたかのように色鮮やかで、その形は太くもなく薄くもなく大きくもなく小さくもなく言うなれば程よい形だ。とはいえ、髪同様に彼女の顔をずっと見ているわけにもいかず、その衝動はこれまたグッと堪えた。


 ならば、身体の方はどうだろう。そう思い、視線を落とす。別段、太っているわけではない。むしろ痩せ形の方だろう。おっと、俺はここで彼女の欠点を見つけてしまった。ここまでは完璧だった彼女。だが、彼女、お胸の方が些か寂しいではないか。いや、まあデカけりゃいいってわけじゃないが。


 俺がそんな彼女に出会ったのは、高校二年生の春とも梅雨とも言えない五月中旬の頃だった。ちょっとした用件で、彼女を訪れたのだ。


 彼女の噂は友人から聞いていた。でも、彼女の噂はとてもじゃないがオカルトチックで、俺は半信半疑だった。だが、彼女と関わった人間は口を揃えて「すごい」と言うらしい。


 そりゃあ、高校生探偵と言えば聞こえはすごい。でも、探偵は探偵でも、その専門とするジャンルがおかしい。迷子ペット専門の探偵。浮気調査専門の探偵。殺人事件専門の探偵。はは、全然違う。彼女の肩書は、オカルト探偵。オカルトを専門とする探偵らしいのだ。


 まあ、オカルトを信じていた時代は俺にもあった。魔法とか超能力とかあればいいなぁ、と思っていた。恥ずかしながら、自分は他の一般人とは一味違うなんて思っていた時代もあった。だが、いくら願ったって魔法も超能力も使えないし、そんな現象に出会うこともない。


 でも、彼女は違うのだ。彼女曰く、魔法は存在するし、その他オカルトも存在するらしい。科学では解明できないオカルトはあるのだ、と言い張るのだった。


 俺は、そのとき思ったね。ああ、こいつはあれだ。不特定多数の思春期が罹るあの病気を今でも拗らせているんだ。


 ああ、こいつ中二病なんだな。


 でも、だ。でもなんだ。可愛い妹のため、俺は彼女に依頼をしなければいけなかった。彼女曰く、この手の事件解決に関しては、自分が一番の探偵らしい。って、そういうの専門の探偵がお前だけだからなんじゃねぇの。


 まあ、そんなわけで、俺は彼女との邂逅を果たしたわけだが、まさかこの邂逅が俺の世界観を揺るがしかねないことになるとは思わなかった。


 彼女を中二病呼ばわりしたことを、早々に撤回する破目になったのだから。


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