第1章<悪魔は少年と踊る2>
声の主は僕の背後にある塀に腰かけ、ぷらぷらと足を振っていた。見た感じでは僕と同じくらいの年齢に見える少女だ。長くて綺麗な髪をポニーテールに纏め、大きくて輝いている瞳を持っていて……「死ねばいいのに」とか呟いていた僕がそう考えていいのかと感じるほどに穢れを知らなさそうで、可愛かった。
……いつの間にいたんだろう。
僕と少女の座る塀とは2mと離れていないうえに、さっき塀のそばを通ったときは誰もいなかったと思う。のぼったような物音は聞こえなかった。
少女は「よいしょっと」というこれまた可愛らしい掛け声と共に塀から降りると、僕に詰め寄ってくる。
「ねぇ、殺したいって、本気で思ってるの?憎くて仕方がないの?」
愛らしい外見からいきなり紡がれる残虐な言葉は、ちぐはぐなはずなのに妙にしっくりきて、僕は恐ろしさを感じた。
「ねぇ……ねぇってば!」
「う、うん……」
思わず頷いてしまう僕。これには瞬間的に「しまった」と思った。
あいつらに対して『殺したい』と思っているのは事実だが、初対面でいきなりそんなことを肯定されて、少女は僕を軽蔑していないだろうか。僕の頭の中を荒木たちの蔑んだ目が駆け巡る。
しかし少女の対応は僕の予想のはるか斜め上を行くものだった。
「そっかそっかぁ!憎くて殺したくて仕方がないのか!」
「……へ?」
何故か瞳を輝かせ、身を乗り出す少女。
「原因はいじめだね…うひゃぁ、これは酷い……」
少女がぐしゃぐしゃの僕の生徒手帳片手に呟く。
……あれ?生徒手帳ってさっきまで僕が手に持ってなかったっけ?それなのに、いつの間に少女の手に渡ったのだろうか…。全然気付かなかったが、さっき少女にいきなり話しかけられた時に驚いて落としてしまったのかもしれない。今後うっかりには気をつけよう。
「そのいじめ、やめさせてあげようか?」
「え……」
少女は僕を正面に見据えると、唐突に訊いてきた。少女に見つめられると僕はまるで魔法にかけられたかのようにその瞳から、言葉から、目が離せなくなった。同時に疑問が浮かび上がる。
「…どうしてそんなことしてくれるの?」
「んーとね、ビジネスなの。人助けのビジネス!みんなを幸せにしてお金がもらえるって、なんかすごいと思わない?」
少女は幸せそうに笑った。
僕にはその笑みが、酷く薄ら寒いものに感じた。
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悪評来たら多分落ち込みますけど、もっと上手くなるためには必要だと割り切る所存デスヨ!