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第二話


「ところで、新型のスーツの調子はどう?」

「ヘキサですか?」

「ええ。君が前に使ってたのって、二世代前のテトラだったと思ったけど」

「アレと比べるのは失礼って感じるくらい凄いですよ。色々強化されてて……。前のは着てるのが分からなくなる程度のパワーアシストでしたけど、今のはもう自分の体重とか四肢の重さすら感じなくなるレベルですからね。……これはこれで今までにない新感覚なんで、慣れるまではちょっと気持ち悪かったりしたけど……」

「みんながショウ君みたいにすぐに慣れてくれると良いんだけどねぇ……」


 まるで水の中を漂ってるみたいだって言う人もいれば、宇宙空間を漂ってるみたいだって言う人もいる。ただ、総じて、この重力を感じられなくなったような状態で、まともに戦ったりするのはおろか、動く事すらまともに出来ないって人が大半って有様らしくてな……。

 未だに、このタイプのスーツを着てまともに動けるのって、俺か、俺が教育を担当してるカズマの奴くらいしか居ないんだよな……。


「開発部門も育成部門も、ショウ君には色々とお世話になりっぱなしね」


 本来の仕事の規格外犯罪者……。人造人間だったり、強化人間だったり、スーツを悪用して暴れてる馬鹿だったりと、普通の警察組織とかが主力な治安維持部隊では対処が難しいレベルの犯罪者のことなんだが、そういった連中を“狩る”のが俺たちHEROSの主な仕事になるのだと思うのだが……。

 世代的に考えると、俺も強化人間としてはそろそろ二世代前くらいの時代遅れなタイプになってきてるからなぁ。もしかしなくてもそろそろポンコツ扱いの方に入ってるはずだし、良い加減、第一線から引くことも考えなきゃいけなくなってきてるはずなんだけど……。


「そろそろ裏方にまわして欲しい所なんですけどね」

「あら。若い子に面倒事、全部押し付けるつもり?」

「いや。そういう訳じゃないですけど……」


 最新型の強化人間の中に、二世代前の旧式が一人ってのも……な? ベテランの意地ってやつもあるから、若い連中に早々遅れをとるつもりはないんだが、これはこれで色々と肩身が狭いもんなんだぜ?


「まだ現役で十分通用してるじゃないの」

「そんなのヘキサのお陰ですよ……」


 かつては中身まで最新型だったのかもしれないけど、それも今となっては過去の話。もはや旧式に分類されているのに、そんな自分が未だに現役の第一線でやれているのは、全てはこのヘキサ型……。第六世代の戦闘用強化スーツのお陰だった。


「勿論、サポートしてくれている皆にも感謝してますけどね」

「ショウ君は上手いこと補助要員の火力を利用してるそうね」

「足りない部分は色々頭使って補ってやらないとね」


 ホントはカズマみたいに自分の力だけで戦えるのが一番なんだろうけどな。


「まだまだ若い連中には負けてやらんぞってことね」

「いやいや。足りない能力を知恵と経験で補うのに必死なだけですから」

「……ほんとは、それが一番重要な要素なんだけどね」


 たしかに身体能力とか防御力とか攻撃力とか足りてない部分は、俺みたいに装備品で底上げしてやれば、それなりにどうにかなったりするモンなんだけど、戦い方とかの経験則とかは、単純にデータとかじゃ引き継ぎ出来ないないからなぁ……。


「貴方の戦闘経験という名の経験値(データ)は、組織としては何よりも重要視してる知的財産なのよ。ベテランなんだから、これからも第一線で皆んなを引っ張っていって貰わないといけないし、個人戦力としても、まだまだ第一線で頑張ってもらわないといけないんだから。それに後継者だって、カズマ君の他にも色々と育成してもらわないと困るのよ?」


 二十歳も半ばで後継者を何人も育てろとか言われるんだから、どれだけこの世界の研究が花盛りで、世代交代が早い状態にあるかってことが良く分かるってなモンだよなぁ。


「後継者ねぇ……」

「こっちとしては君の後釜に据えるのはカズマ君しかいないと思ってるんだけど?」


 ……カズマか。あいつは強化人間としては最新型の第五世代。俺の二期後のタイプってことになる。そんなカズマは俺の担当してる強化スーツ、ヘキサ型の次々世代。二世代後の最新型スーツ、オクタ型の研究と開発を担当しているそうだ。いわゆる期待の新人ってヤツだな。


「彼はどう?」

「良いですよ」


 そう断言できるくらい有望株だった。久々の、と付く程に。


「前のヘプタをテストしてた子は調整の方が色々とマッチしてないっていうか、スーツの設計思想と本体の性能が噛み合ってなくて色々ピーキー過ぎたみたいで、ちょっとアンバランス過ぎて色々と残念な結果になってましたからね……」


 事ある毎にスーツがブッ壊れたり、本体の方がイカレたりと、悲惨を通り越してムゴイとった有様だったな。……ちょっと訓練しただけで大ケガをするんだぜ? 痛みのせいで泣き叫ぶ女の子なんて、見てらんねぇって理由で、こっちがギブアップしたんだ。


「ヘプタの担当っていうと、ナユちゃんだったかしら?」

「ええ」


 新機軸を狙いすぎてたのか、色々余計なモン詰め込まれて奇形化してたスーツのアンバランスさに完全に振り回されてたからなぁ……。アレが原因で一回、根本部分のコンセプトレベルから全体を見なおさないとダメだ。このままの方向性だと行き詰まるぞって意見がでたんだよなぁ……。


「今度のオクタは、貴方の目から見てどうかしら?」

「流石に最新型って感じですね。ものすごくバランス良さそうですし」

「一応、開発部の自信作だしね」

「確かに、そう言うだけの事はあります。あらゆる部分で俺のヘキサより性能が上ですね」

「でも、まだ貴方には勝ててないわね」

「……そりゃあ、まあ」


 色々と理由はあるんだろうけど、単純にベテランと新人じゃ踏んだ場数が違うからな。


「その経験データの継承を、上は望んでるんだけどね」

「こればっかりは……」

「一朝一夕で身につくものではない、か……。彼の努力と奮起に期待するしかないわね」


 向上心とガッツがあるし、根性もあるから、いつか身につくと思うけどね。


「……でも、そうなったら俺はいよいよお役御免ですかね」

「そんな訳ないでしょ。次の新人の育成に、新世代型の強化スーツの研究サポート。やって貰いたい仕事は山のように残ってるわ」


 貴方みたいな色々と使い勝手の良い人材を遊ばせておける余裕は開発部にはないのよ! そうメガネを妖しく光らせながら言い切ってくれるミユキさんの勢いに、俺も思わず苦笑を浮かべざるを得なかった。


「……最近、ちょっと様子がおかしいと思ってたけど、そんなくだらない事考えてたの?」

「悩んでたように見えましたか?」

「辞めようかどうしようか悩んでるって聞いたわ」


 どっから漏れたのかね……。


「……酒の席での愚痴ですから。酔っぱらいの戯言を真に受けるのは、流石に人としてどうかと思いますよ?」

「貴方はそれくらい重要な人材だと思われてるってこと、もうちょっと真面目に考えておいて欲しいわね」


 なんでそんなに俺に拘るのかなーって思ってたら、やっぱり経験データの大事さって部分が色々と見直しされてきているらしい。


「上だって、数値化出来ない経験データこそが一番重要で、現場ではどんな性能的優位点よりも役に立ってくれる“特殊な能力”なんだってことは、これまでの経験で嫌ってほどに思い知らされてるわよ」

「いわゆる経験則上ってヤツですか?」

「ええ。まだ秘密諜報員達が人間だけでやりあってた頃からの経験則って奴ね」

「今も昔も、新人を育成できるのはロートルだけってことですか」


 そんな俺の皮肉にもミユキさんは苦笑で答えて、否定もあえてしなかったらしい。


「それが出来る人と出来ない人が居るのは確かだけどね」

「俺はどうです?」

「理想の教官役じゃないかしら」

「ありがたい評価ですね」


 本当に。出来れば、このまま静かにフェードアウトしていければ嬉しかったんだけどな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 それはカズマの訓練とオクタの調整が、そろそろ終わりに近づいてきていた頃の事だった。


「ミユキさん」

「……ショウ君」

「どうしたんです、そんなに難しい顔して」


 いつも元気なミユキさんが、その日に限ってやけに顔色を悪くしてたから、俺も気になってしまったんだと思う。


「ちょっとね……」


 そう俺に言えないけど、何か大きな問題なりトラブルが起きたって風に暗に答えてくれたミユキさんに、水臭いなって感じたのは色々と世話になってたからなのかもしれない。


「俺なんかで良かったら相談に乗りますよ?」

「相談できたら楽なんだろうけど……。今回ばっかりは、ちょっとね……」


 ミユキさんのちょっと困ったような笑みによって顔に浮かんでいるのは、愛想笑いじみた作り笑いで。……こりゃホントに大事っぽいな~。


「俺じゃお役に立てない?」

「……ちょっとね」

「力不足?」

「うん。ちょっと足りないって感じかな……」


 俺みたいな旧式じゃ能力が足りないって、どんなヤバイ事になってんだ……?


「もしかして……。カズマがヘマやらかした?」


 そんな俺のカマかけにミユキさんは何も答えない。でも、こういう時には何も言わない事が否定にはならないんだよな。


「ここ最近、姿見えなくなってたし。今日の訓練も、朝になって急に中止って連絡が来たからさ。ちょっと心配してたんだ。……でも、アイツ、そんなヤバイ事になってんの?」


 しかも、戦い方によってはアイツにだって勝てるような俺でさえ役に立たないって、どんだけ酷いことになってんだよ……。


「……まあ、ちょっとトラブルが、ね」


 その歯に物が挟まったような曖昧な言い方で大体事情は分かった気がしていた。恐らくは何かしら想定外のイレギュラーが発生したのだ。本来ならカズマなら問題なかったはずの任務の中で何か問題が起きて……。それこそ他の組織のエージェントと鉢合わせたとか、そういった想定外が起きて。それが原因で捕まったとか、そんな感じか。


「オクタの反応は?」


 俺たちのスーツには通信機能があって、スーツがまだ“生きて”いれば……。壊されてさえなければ、単に武装解除させられたのか、中身ごと壊されたのかが分かると思ったんだが。


「反応は一二時間前から消失。最後の状態からしてオクタそのものは半壊状態。彼の生死は半々って所かしらね」


 一二時間か。……微妙だな。


「救出班の編成は……?」

「オクタを装備した第五世代の強化人間が負けたのよ? ……何の勝算もなしに追加要員は送り込めないというのが上の判断よ」

「オクタのデータが“敵”に渡るリスクもあるってのに……」


 そんな俺の言葉にミユキさんは首を小さく振っていた。


「通信途絶状態に陥ったオクタは完全に電源がオフになって、中の細かいデータは“飛ぶ”から、そこから“抜く”ことは出来ないからって……」


 中のプログラムと各種数値さえ消えてしまえば、アレはただの重いだけの鎧だから、そこからデータの流出は起きないってか?


「じゃあ、オクタはそれでいいとしても……。中身の方は?」

「……それは……」


 肝心のカズマの方はどうするんだよ……。


「見捨てるのか?」


 そんな俺のトゲだらけの言葉に、ミユキさんは僅かに表情を硬くして「ごめんなさい」とだけ答えていた。


「猶予は?」

「……あと八時間くらいかな」

「場所は?」

「……助け出すつもり?」

「モチ」


 モチのロンなんだぜ。


「……死ぬ気?」


 そう聞いてくるのも無理もない。最新型のカズマがやられたってことは、たぶん、そこには厄介な能力を備えた人造人間か何かが居るんだろうし。……それにカズマの最新型のオクタに続いて、俺が着てる最新リビジョンのヘキサまで敵の手に落ちたとあっては、流石にミユキさんの進退問題になりかねん。だからか、ミユキさんはあえて今回は見捨てるという選択を取らざる得なくなったんだろうけど……。


「無理はしませんよ。ミイラ取りがミイラにってパターンが最悪だってのは、俺も十分に分かってますから」


 でも、このまま見捨てるというのはちょっとな……。ヒーローとしては、ここで動かないのはどうなのさってことだよ。


「なんでそこまで……」

「なんでって、そんなの考えるまでもないでしょ。俺達って、子供たちの憧れのヒーロー、HEROSなんだからさ」


 そんな俺のふざけた答えに流石に顔が険しくなっていた。おちょくり過ぎたかもしれない。そんなミユキさんに冗談だよってジェスチャーで答えながら、本音の方の理由を答える。


「あいつ、ちょっと生意気だけど、それでも俺の教え子ですからね。見捨てられないでしょ。先生としては」


 そんな俺の言葉にミユキさんはなんだか呆れた風に小さく笑って。


「……私、USB落としちゃったんだけど、知らない?」


 俺の手に小さな棒状の何かを握らせながら、そんなことを聞いてくる。


「サー、シラナイデスケド」


 そんな俺の棒すぎる演技に苦笑を浮かべながら。


「あのメモリに、ちょっと大事なデータ入れてたから……」


 なるほど。コレにカズマの仕事のデータが入ってるってことね。俺は素早くスーツの端子に繋いで中身をダウンロードして……。


「……えらい山奥だな、おい」


 これ今から出たら救出とかまで考えたら時間ギリギリだぞ。


「ソロであんなとこ行くとなったら、色々と大変でしょうね」


 今回は上の意向に逆らって俺が勝手に動くんだから、下手したらヘキサすら使わせて貰えないかもしれないって思ってたけど、流石にコレは使わせてくれるらしい。でも、サポート要員の方は一切なし。つまり、いつものミユキさんのサポートとか情報提供とかもないし、追込隊もついてこれないし、情報収集だって現地でぶっつけ本番でやるしかない。そんな、何から何まで自分の目と耳だけで判断して行動しないといけないって意味で……。ただでさえ半端無く危険な仕事が、これでますます難易度アップって意味なんだよな。……それなのに、こんなワガママに最新リビジョンのヘキサ使わせてくれて、ほんっとありがとうって言いたい!


「拾ったら、私の所に届けてね」

「ええ。必ず、返しに行きますよ」


 二人でね。そんな言葉にしなかった俺の言葉にミユキさんはウィンク混じりにサムズアップして見せたのだった。



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