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scene6 髭センサー

「のわああああっ!」

「バッツ! 危ない!」

 バッツに向かって振り下ろされた鎌を、横から飛び込んできたカルチェが寸での所で剣で受け止めた。

 思った以上に相手の力が強い。ジリジリとカルチェの体が押されていく。

「早く逃げて!」

「あわわわわ……」

 ゴキブリのように這いずりながらバッツはその場から逃げ出す。

 彼女の目の前には、両手に鋭い鎌を持つ巨大カマキリ、ジャイアントラダマンティスがいた。巨大カマキリは、爛々と光る赤い目をギョロギョロと動かしカルチェに照準を合わせると、彼女に向かってもう片方の鎌を横凪にしてきた。

 その攻撃を素早くかわしたカルチェは、一瞬で相手の懐に飛び込む。そして、鮮やかに跳躍すると巨大カマキリの目を剣で突き刺した。

「グオオオオオッ!」

 苦しみのたうつ巨大カマキリが思わず前屈みになった瞬間、カルチェはその手に持つ剣で怪物の首を叩き落した。

 転がってゆく巨大カマキリの首、辺り一面に飛び散る鮮血。

 しばらくの間、仁王立ちで小刻みに震えていた巨大カマキリだが、やがてゆっくりと崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 ピッと剣に付いた血を振り払い、カルチェは剣を鞘に収める。そして、尻餅を付いて腰を抜かしているバッツの元に歩み寄り、手を差し伸べた。

「大丈夫、バッツ?」

 バッツはその手を振り払うと、ムスっとした表情でそっぽを向く。

「あ、あったり前や! せっかく今度こそワイの持つ千の魔宝具が大活躍する所やったのに。ホンマ、余計な事をしてくれたで!」

「バッツ、そんな格好でそんな事を言っても格好悪いだけニャ……」

 影に隠れていたペケが、呆れた顔で呟く。

 カルチェは、クスリと笑った。

「うふふ。それは悪い事をしちゃったな。お詫びに、あの魔宝具は全部あなたにあげるから許してね」

 そう言ってカルチェは、倒れているジャイアントラダマンティスの方を指差す。そこには、いつの間に現れたのか豪華な宝飾された宝箱が出現していた。それを見たバッツは、目の色を変え喜び勇んで宝箱の元に駆け寄った。

「おお! こいつは魔宝具「針千本」! こっちは「静寂の鐘」に「鉄切りバサミ」やないか! こいつは凄いで! 大収穫や!」

 宝箱の中に入っていた様々な魔宝具を手に取り大喜びするバッツ。

 そんなバッツの姿をカルチェは優しい瞳で見つめている。

 転送魔方陣で遺跡内に飛ばされたバッツ達は、今回ですでに四度目の戦闘を終えていた。

 どうやら転送魔方陣は、乗るたびに行き先はランダムに設定されるようだ。飛ばされてから、彼らは長い事遺跡内を彷徨っていたが、他の冒険者達とは一度も出会っていない。だがそれは、この遺跡内がどれだけ広大な作りになっているのかを現していた。

 戦闘は、全てカルチェ一人で戦っていた。一方バッツと言えば、すぐにペケと共に物陰に隠れたり、死んだフリをしたりと全然戦力になっていなかった。そのくせ、戦闘が終わると「もっと早く助けろ」とか「魔宝具は全部ワイのもんや」等、文句と我がままし放題。それなのに、カルチェは嫌な顔一つせずバッツに危険が及ばないように戦い続けてくれている。むしろ、バッツを守る事が自分の使命と言わんばかりに、彼のピンチを何度も救っているのだ。彼女の行動は、全く酔狂としか言いようが無かった。

「あんたも物好きな女ニャ」

 腕を組みながら、ペケがポツリと呟く。

「バッツが魔宝具使いとしてからっきしなのは、今までの戦いの中で、あんたもとっくに気がついているハズニャ。ニャのに、なんでカルチェは自分の体を張ってまでバッツの手助けをするニャ? 何の得にもニャらないのに」

 カルチェはクスリと微笑む。

「最初に言ったでしょ。私は武者修行の為にこの国に来たって。彼を守りながら戦うのって普通に戦うより大変だから良い修行になるのよ」

「それだけかニャ?」

「え?」

「あんたは、もっと他の理由でバッツを守っている気がするニャ。見るニャ、オイラの髭センサーを! こんなにピンピンしているのは、何か裏がある証拠ニャ! 何を企んでいるニャ、白状するニャ!」

 ピンッと張った自分の髭を指差しながら、ペケは険しい表情でカルチェを睨み付ける。

 カルチェはフッと自嘲気味に笑った。

「キミは猫のクセに中々鋭いなぁ……」

 そう言って、カルチェはゆらりとペケに向き直ると目を怪しく光らせる。そして、おもむろにペケを両手で掴んだ。

「ニャ! 何するニャ! 秘密に感づいたオイラから消すつもりかニャ! やめるニャ!この猫殺し!」

 暴れるペケをカルチェは優しく自分の胸に抱き寄せた。

「ニャ?」

「あったかーい。一度、キミをこうして抱きしめてみたかったんだよね♪」

「何するニャ! やめるニャ! そんな事をしても騙され無い……ニャッ!」

 カルチェの指がペケの喉元をくすぐる。

 ペケはとろーんとした甘美な表情を浮かべ、ゴロゴロと喉を鳴らし大人しくなった。

「……実は私には弟がいてね。年もちょうどバッツくらいで、負けん気な性格もそっくり。だから、バッツを見ていると自分の弟を見ているみたいで、なんだかほっとけないんだぁ」

「そ、それだけかニャ?」

「それだけよ。他に何があるって言うの?」

 ペケはうーんと考え込む。

「人間は損か得かで繋がっている生き物ニャ。自分の弟に似ているからって助ける理由になるとは到底思えないニャ。何だか、ますます怪しいニャ……」

「ふーんだ。疑うなら勝手にどうぞ」

 カルチェはパッと手を離し、ペケを解き放つ。

「ニャ! やめないで欲しいニャ! もっと喉を触って欲しいニャ!」

「べー! 私を疑うような悪い猫ちゃんには、やってあげないよーだ」

 笑いながらあっかんべーをしたカルチェは、バッツの元へと駆け寄っていった。

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