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scene5 カルチェの選択

 無事テストを合格したバッツとカルチェは、長い通路を抜け再び広い部屋に出た。そこには、先程とは別の形をした魔方陣があり、その周りを囲むようにしてたくさんの冒険者達がたむろしていた。

「彼らは何をしているのかしら?」

「恐らく、あれは転送魔方陣やな」

「転送魔方陣?」

 バッツは頷く。

「転送魔方陣を使えば、他の場所へ一瞬にして移動できるんや。見てみぃ、冒険者達が魔方陣に入って消えとるやろ? どうやら、あの魔方陣は遺跡内に繋がっているようやな」

 確かに仲間同士と思われる集団が魔方陣の上に乗ると、その数秒後に一瞬にして姿を消しているのが見える。

「へ~。便利なものねぇ」

「ワイらも並ばへんとな」

「おや、誰かと思えばカルチェさんでは無いですか」

 とその時、ふいに背後から声をかけられカルチェは振り向いた。そこには、気品ある法衣に身を包んだ金髪の男が立っていた。

「あなたは……」

 男は、うやうやしく頭を下げた。

「美しき神官戦士、アルハイムと申します。以後、お見知りおきを」

 アルハイムはカルチェの手を取ると、その手に軽くキスをした。瞬間、カルチェの顔がボンっと赤くなり慌てて手を振り解く。どうやら、彼女はこの手の行為にはあまり慣れていないようだ。

 そんな可愛らしい彼女に、アルハイムはクスリと微笑んだ。

 バッツは露骨に不機嫌そうな表情でアルハイムを睨み付ける。

「ケッ、キザな野郎や」

「焼きもちかニャ、バッツ?」

 ニシシといやらしい笑みを浮かべるペケ。そんなペケをバッツはキッと睨み付けた。

「そんなんとちゃうわ! ワイは、ああ言うキザったらしい軟弱野郎は大嫌いなんや! 

誤解すんなや!」

 アルハイムはキョロキョロと辺りを見渡す。

「結局、あなたは一人でこの遺跡に挑む事にしたのですか? この遺跡内には、凶悪な魔物が無数にいる事はご存知のはず。一人で行くなんて無謀が過ぎます。むざむざ、その美しい体を奴らに差し出す事も無いでしょう。どうです? 今からでも私どものパーティに加わると言うのは?」

 カルチェは、申し訳無さそうな表情で首を横に振る。

「せっかくのお誘いで申し訳無いのですが、実は私には一緒に戦う仲間が居るんです」

 その言葉に、アルハイムは少しだけ驚いた表情を見せた。

「ほう。美しいあなたを仲間に加えられるとは、その方達が羨ましい。一体どのような口説き文句であなたのハートを射止めたのでしょうか。で、その方達は今どこに?」

「ここや、ここ」

 下から聞こえた声に、アルハイムは視線を落とす。そこには、不機嫌そうな顔をしたバッツとペケが腕を組みながら仁王立ちしていた。バッツと視線が合ったアルハイムは目を点にした。

「……ええっと……あなた達は?」

「ワイの名は、バッツ! 大魔宝使いや!」

「オイラの名前はペケ! 大使い魔ニャ!」

 バッツとペケは、えっへんと精一杯胸を張る。

 アルハイムの頬にタラリと汗が流れた。

「悪い事は言いません、私どものパーティに……」

「ちょっとまてーい! 大魔宝使いのワイが目の前におるのに、まるで居なかったかのようにカルチェを勧誘するたぁ、一体どう言う了見や!」

「大魔宝使い? あなたがですか? フッ……」

 鼻で笑いながら、アルハイムは小馬鹿した笑みを浮かべた。

「なんや、その人を馬鹿にしたような笑いは! ワイを馬鹿にすんなや! 見ろ、このパンパンに膨れ上がったリュックサックを!」

 そう言ってバッツは背中のリュックサックを降ろして指差した。

「ええか、このリュックサックの中にはなぁ、世界中の珍しくて強力な魔宝具がワンサカ入っとるんや! これさえあれば、どんなモンスターが来ようがイチコロや!」

 アルハイムは、目を細め疑いの眼差しをバッツに向けた。

「ほう、強力な魔宝具がワンサカですか。それは頼もしい限り。ですが、あなたがどれだけ強力な魔宝具を持っていたとしても、それを扱う人間が三流では意味が無い。一流の魔宝具には、一流の魔宝具使いが必要なんです。いくら三流が一流の魔宝具を使っても、三流の効果しか生まれませんからねぇ」

 その言葉に、バッツは顔を真っ赤にさせた。

「な、なんやと! ワイが三流だと言うんかい! 何を根拠にそんな……」

 そこまで言いかけた所で、バッツは言葉を詰まらせた。その視線の先には、アルハイムの手に握られている片眼鏡があった。

「気がつかれましたか? これは形は違いますが、あなたが酒場で私達をジロジロ見ていた魔宝具と同じ効果を持っている「片眼色メガネ」。これで先程、あなたの事を覗かせてもらったんですよ」

 アルハイムの言葉に、バッツの顔が見る見る青ざめていく。

「そしたら面白い事が分かりましてね……。あなた、三流どころかスタートラインにすら立っていないじゃないですか。この結果をリーゲルさんにでも報告したらどうなるんでしょうねぇ?」

「ま、待っとくれ! それだけは勘弁してくれ!」

 慌てるバッツの態度に、アルハイムはニィと勝利を確信した笑みを浮かべた。

「それが人に物を頼む時の態度ですか?」

「くっ……」

 ギリギリと歯軋りをしながら、バッツは頭を下げる。

「お、お願いや。この事は、誰にも言わんといてくれや……」

「ハーッハッハ! そうです。やはり子供は素直が一番ですよ。なぁに、ご安心下さい。私はこう見えても口が堅くてね。それに告げ口なんて男らしくない事はしませんから。ですが、あなたにカルチェさんを預けて置く事は出来ない。この意味はお分かりですよね?」

 バッツは何も答えない。悔しそうに俯いているだけだ。

 アルハイムは、それを了承と見なし、カルチェに向き直った。

「さて、見ての通り彼は私があなたを誘う事に異議は無いようです。さぁ、私と共に……」

 そう言って差し伸べたアルハイムの手をカルチェはやんわりと退けた。

 カルチェは、項垂れるバッツの元に歩み寄ると、その手を優しく掴む。

「約束したでしょ、バッツ。私はあなたを助けるって」

 その言葉に、バッツは驚いた表情でカルチェを見つめた。

 カルチェはニコリと微笑むと、アルハイムに向き直った。

「ごめんね、アルハイムさん。気持ちは嬉しいけど、私はバッツと一緒に戦うって約束したんです」

 アルハイムは、ふぅと溜息を吐くと残念そうに首を振った。

「やれやれ、そんな素敵な笑顔で断られたら、もう諦めるしか無いじゃないですか」

「すいません……」

 すまなさそうに頭を下げるカルチェ。

 アルハイムは自分の首にかけていたペンダントを外すと、カルチェの首にかけた。

「これは……?」

「それは、魔宝具「転送のペンダント」。そのペンダントについているロケットを開くと、中に入っている写真の人物の元に一瞬にして飛べるマジックアイテムです。もし、危険な目に遭いそうになったり、彼に愛想が尽きた時はこのロケットを開いて下さい。中には私の写真が入っていますので、一瞬にして私の元に来れますから」

「は、はぁ……」

 きょとんとしているカルチェに向かって、パチリとウィンクをするアルハイム。彼はそのままバッツに向き直ると、露骨に嫌そうな顔をした。

「言っとくが、キミの分は無いからな」

「けっ! 誰がそんな気色悪いモン欲しがるか! お前の写真なんていらんわ!」

 アルハイムは、フッとニヒルに笑う。

「せいぜい、体張って彼女を守りたまえ。レディを守るのは男の務めだからな」

 そう言い残し、アルハイムは去って行った。

「ケッ。キザな野郎や!」

 腕を組みながら、バッツは不機嫌そうにソッポを向く。

 それにしても……。

 バッツはチラリとカルチェの横顔を見る。

 こいつ、なんでさっきアイツに付いて行かんかったんや? どう考えてもワイと一緒に居るより、あいつらと一緒に居る方が色々とメリットがありそうやのに。まさか、本気でワイの話を信じとるとでも言うんかい。だとしたら、相当なお人好しやなコイツ。アホちゃうか?

「さ、次は私達の番よ。行こうよ、バッツ!」

「お、おう……」

 バッツの手を取り、カルチェは意気揚々と魔方陣に乗り込んだ。

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