scene3 渾身の土下座
店を出たバッツは、その後も執拗にカルチェを追い回し、必死に一緒にパーティを組まないかと誘い続けた。
「あーもう! しつこいなキミは! 私は誰ともパーティを組まないって言っているだろう! いい加減諦めてよ!」
「そんな事言わへんで、な? この通り頼むさかいに! ワイは魔宝使いやから、一緒に組んだら色々と便利やで? 手に入れた魔宝具も、戦士系のもんなら全部やるから!」
カルチェは立ち止まると、ふうと大きな溜息をつく。
「私は武者修行の為に、この国にやってきたんだ。キミの言う魔宝具にも興味無いし、修行なのに誰かの助けを借りてちゃ意味が無いだろ? 他を当たってくれよ」
ほほう。魔宝具に興味が無い? それは好都合。
バッツの目がキラーンと怪しく光る。
「大体なんで私なんだよ。腕の立つ冒険者なら他にもいるだろ?」
「そりゃもちろん、アンタがワイの大事な金づ……モゴモゴ」
思わず馬鹿正直に答えそうになったバッツの口を慌ててペケが塞ぐ。
「何を口走りそうになっているニャ、バッツ! 気をつけるニャ!」
「す、すまん、つい……」
ゴニョゴニョと内緒話をしているバッツとペケに、カルチェは「?」を浮かべ首をかしげた。
「バッツどうするニャ。この女、中々頑固ニャ。どうやって仲間にするつもりニャ?」
「大丈夫、壁に耳あり、障子に目あり、ワイに策ありや」
そう言ってカルチェに向き直ったバッツは、突然地面にひれ伏した。
「わっ?」
「頼む! 一生のお願いや! お前に仲間になってもらわないと……、ワイは、ワイの弟妹は……路頭に迷う事になるんやあ!」
「ええっ?」
バッツの衝撃の告白に、カルチェは驚きの表情を見せる。
「ワイの両親は、去年村の暴れ牛に跳ねられて死んでしもうたんや……。以来、ワイが弟妹たちの親代わり。……ワイが稼がないと、みんな揃って餓死するしか道は無いんや! だが、ワイみたいな子供を仲間に入れてくれるパーティなんて、何処を探してもあらへんかった……。だから、だからワイは自分で腕の立つ仲間を見つけへんとあかんのや! 頼む! ワイの仲間になってくれえ!」
「そんな嘘、今時子供でも引っかからないニャ……」
演技過剰なバッツに、ペケはやれやれと首を振る。
ちょっとオーバー過ぎたか……?
バッツは、チラリとカルチェを見上げる。カルチェは大粒の涙を流し号泣していた。
あまりにも単純な性格のカルチェに、バッツとペケは思わずズッコケる。
カルチェは膝をつくと、バッツの手を優しく手に取った。
「こんな私の力で良かったら使って。あなたの弟さんと妹さんの為にも、私頑張るから!」
「お、おう……」
あっさりと仲間になったカルチェに拍子抜けするバッツ。
だが、すぐに我に返ると、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
計画通りや。あとは、こいつをうまい事使って魔宝具をガッポリゲットするだけや。でもって、危なくなったらコイツを盾にしてワイだけ逃げればええんや。魔宝具の代わりはあらへんけど、冒険者の代わりはこの街にぎょうさんおるさかいになぁ。くくく、せいぜいワイを守る壁となってくれや、姉ちゃん。