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scene1 魅惑の女戦士

「あったあった、ここや」

 中央通りに面した場所にあるこの国で一番大きな酒場、ミレイユの酒場。パンフレットを片手にしたバッツとペケはその目の前に居た。

 日夜問わず人の出入りが耐えないこの店は、酒場の外に居ても中からの賑やかな声が聞こえ、その人気の程が伺える。

 この店の人気の秘密は二つあった。一つは、マスターレベルの腕前を持つ料理人ミシェイルが織り成す極上の料理。そしてもう一つは、この酒場の名前の由来となった看板娘であるミレイユの美しさであった。その噂のミレイユを一目見ようと、連日冒険者達が殺到するのだが、肝心の彼女も冒険者であるため店を留守にする事がほとんど。それでも、冒険者達の足が遠のかないのは、アットホームな感じのこの店が居心地良い為であろう。

 バッツ達が店内に入ると、冒険者達がそれぞれテーブルを囲み楽しそうに飲み食いをしているのが見えた。バッツは、キョロキョロと空いている席が無いか見回す。すると、そんな彼の元に、店内を忙しそうに走り回っていた給仕の女の子が慌しく駆け寄ってきた。

「いらっしゃいませ! お客様は一名様ですか?」

「一名と一匹や」

「ニャ」

 バッツとペケがそう言うと、少女はニッコリと微笑み、

「一名様と一匹様、ご案内!」

 と、元気よく叫んでバッツをカウンター席へと案内した。

 席についたバッツは、背負っていたリュックを脇に下ろし、その上にペケがひょいと飛び乗る。

「ご注文は何にしましょう?」

「ワイは、ホットミルク一つ。ペケは何にする?」

「オイラは眠いから後でいいニャ」

 適当に注文をすませたバッツは、懐からメガネを取り出して装着すると店内を見渡した。

「どんな感じニャ、バッツ。強そうな奴は居るかニャ?」

 眠そうに瞼を擦りながらペケが聞いてくる。

「せやなぁ。ざっと見た感じ、めぼしい奴はおらへんなぁ」

 キョロキョロと忙しなく辺りを見渡しながらバッツは答えた。

 一般的にパーティを組む場合、前衛三人、後衛三人の六人パーティがベストと言われている。しかし、バッツは多人数でパーティを組む気は毛頭無かった。

 確かに人数が増えればそれだけ戦いにおいて安全性は増すのかも知れない。だが、そのぶん分け前は六等分され減ってしまう。がめついバッツは、見つけた魔宝具を独り占めにしたいと考えていた。その為には、一人でも戦える程の力を持ち、なおかつ誰ともパーティを組んでいない単独の冒険者、さらに欲を言えば魔宝具に興味が無い者が良い。

「ま、そんな都合がええ奴なんておるわけ無いんやけどな」

 そもそも、この街が賑わっているのは、バッツのように珍しい魔宝具を求めてやってきた冒険者達が多数居るからであって、そんな冒険者達が集まるこのミレイユの酒場に、魔宝具に興味が無い酔狂な者が居る訳が無いのである。だから、バッツはせめてLVの高い、出来れば前衛を務めてくれる戦士系の人間を仲間にしようと考えていた。戦士が求める魔宝具は、魔宝使いが求める魔宝具とはベクトルが違うので、最悪欲しい魔宝具が被る事も無いだろうと考えていたのである。だが。

「レベル5、4、4、3、5……。あかん、どいつもこいつもヘボばっかや。ロクな奴がおらへん」

 バッツはメガネを外すと、ハァと深い溜息をつき、運ばれてきたホットミルクに口をつけた。

 魔宝具「色メガネ」。

 このメガネは、レンズを通して見た人間の能力値を数値化し分析することが出来るマジックアイテムである。だが、残念ながらおメガネに敵うレベルの高い者はこの酒場には居なかったようだ。ちなみにレベルとは、その職業における熟練度の度合いを示す目安の事で、例えば戦士を例にするのであれば、レベル1~2は初心者、3~5は剣の扱いにも慣れて来た頃、6~9は熟練者、10を越えれば相当な実力者と言う事になる。

「誰がヘボばっかだと、このクソガキが」

「あん?」

 バッツの背後から怒りを含んだ声が聞こえてきた。振り向くと、そこには筋肉質で髭面のいかつい男が鬼のような形相で突っ立っていた。男はバッツの胸倉を掴むと腕をまくり力コブを見せた。

「俺様の名前はガイラム。この辺じゃあ、ちっとは名の知れた男よ。見よ、この筋肉を!これを見ても俺様がまだヘボだって言うのか?」

 バッツは溜息交じりにメガネをかけ直す。

「職業、戦士。レベル5。筋力15、生命力15、知力5、精神力5、敏捷度5、器用度2。なんや、ただの脳筋馬鹿か。ヘボイモや」

 ガイラムの手を振り解き、バッツは興味が無いと言わんばかりにそっぽを向くと、ホットミルクをずずっとすすり始めた。そんなバッツの態度に、ガイラムは酒で真っ赤にさせた顔をさらに赤くさせ咆哮した。

「このクソガキがああっ! ぶっ飛ばしてやる!」

 そして、その直後にぶっ飛んだ。ガイラムが。

「ちょっと! こんな子供相手に何やっているのよ!」

 ガイラムに飛び膝蹴りを食らわし、そこに現れたのは真っ赤な髪が特徴的な見事なプロポーションを持つ美しい女戦士だった。ガイラムは、彼女の一撃で完全にのびていた。

 胸と秘部だけを守る水着のようなスケールアーマーからは、小麦色に焼けた健康的な素肌を覗かせている。その姿は、活発的な彼女の性格を現しているかのようだった。

「大丈夫かい、少年」

 女は心配そうにバッツの顔を覗き込んだ。前かがみになった拍子に、女の豊満なバストがバッツの目の前に突き出される。その魅惑の谷間に、彼女の頬を伝う汗が流れ落ち消えて行く。

 目の前に聳える山脈に、頭がクラクラしたバッツは思わず手に持っていたホットミルクを落としてしまった。ホットミルクは、寝ていたペケの頭に直撃した。

「ギニャアアアアッ! な、何するニャ、バッツ!」

 飛び跳ねながら抗議するペケだが、バッツは顔を赤らめながらボーッとしているだけで気がついていない様子。

「バ、バッツ?」

 バッツの頭の上に飛び乗り、ペケは目の前で小さい手をフリフリした。バッツは、ハッと我に返る。

「い、いかん! ワイとした事が一瞬我を失っとったで! 危険や、このおっぱいは危険や!」

「ふふふ、その様子なら大丈夫みたいだね」

 女戦士は、ニコリと微笑むとその場を後にした。

 バッツは慌てて懐からメガネを取り出して装着すると、彼女の後姿を見つめた。

「職業戦士。筋力21、生命力17、知力21、精神力19、敏捷度28、器用度18。レベルは……13やと?」

「何を女のケツを見てニヤニヤしているニャ。気持ち悪いニャ」

 呆れ顔のペケを無視し、バッツはメガネを外すとニヤリと笑った。

「くっくっく。ついに見つけたでぇ、ワイの大事な金づるをな……。見とれや、あの女をうまく利用して、魔宝具をゲットしまくったるで!」

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