●第一話 魔宝使いバッツ
ノースホルンを横断する中央通りから裏道に入り、少し進んだところに古ぼけた木造作りの屋敷がある。それこそが、この国で魔宝使いとしてやっていく者は、誰しもが最初に訪れる場所、魔宝使いギルドである。
その屋敷の中から一人の少年が出てきた。
緑色のブカブカサイズのツナギ服に、ツバの広い帽子。手には魔宝使いの象徴である樫の杖を携え、背中には小柄な彼に相応しくない、パンパンに膨れ上がった馬鹿でかいリュックサックを背負っているのが見える。その脇には、彼の使い魔と思わしきコウモリの翼を生やした黒猫が寄り添うようにしていた。
「ったく、ギルドの登録だけで半日もかかってしもうた。どんだけ人を待たせば気が済むねん。時間の無駄や。時は金なりって言葉を知らへんのか」
少年は、口を尖らせながらブツブツと文句を言っている。
「そう言うニャ、バッツ。これだけ人が居るんだから時間がかかるのは仕方ない事ニャ」
「そう言うけどなペケ。ワイらがこうしとる間にも、他の冒険者たちが珍しい魔宝具を手に入れとるかも知れへんのや。こんな所でグズグズしとる場合やあらへんで」
魔宝使いの少年バッツと、その使い魔の猫であるペケ。彼らは今日、ここノースホルンに到着したばかりの新参冒険者だ。
「さてバッツ、これからどうするニャ? 早速、シャンシャーニの塔かミラノ遺跡のどちらかに向かうのかニャ?」
ペケの問に、バッツは表情を曇らせた。
「いや、行きたいのは山々やけど、まずは仲間を集めへんとな。あの場所には、ぎょうさん魔物がおると言う噂らしいし、流石にワイ達だけで行くのは無謀やろ。腕の立つ冒険者を仲間にせぇへんと」
「仲間は、何処で集めるニャ?」
「ちょっと待っとれ、確かこのパンフレットに……」
バッツは懐から魔宝使いギルドでもらった、この国のパンフレットを取り出した。パンフレットには、この国の地図が記されており、各職業のギルドや有名店などが事細かに記載されている。
「大きい街やからな、冒険者の酒場もぎょうさんあるで。えっと、ここから一番近い酒場はっと……ふむ。ミレイユの酒場か」
バッツとペケはその場を後にし、ミレイユの酒場へと向かった。