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走る少女と、うるさい日常  作者: EternalSnow


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1/9

バケツの水

「はっ!? お前、生意気なんだよ」

「調子乗ってんじゃねえぞ!?」


 いつもの雑音。

 どうしても、変わらない日常。


「おい、デカ女!!」

 そう呼ばれていたころは、まだよかった。

「あの、あ、藍原さん!! 僕と、僕と!!」

 校舎の裏に呼び出された。

 いつも通りすぎて、最近はなんとも思わなくなってしまった。

 そもそも、呼び出された人と関係を持ったこともないし、私という姿を見てもいないで、なんでこんなことを言うのだろう。


「ごめんなさい、今、恋愛とか考えられなくて」





 中学生に上がって、

 私、藍原ユカリは、孤独感に包まれていた。

 なんというか、男性も女性も、ほとんどの人が私を避ける。

 いわく、高嶺の花なんだそうだ。何それ。


「中学生になったんだから、ちゃんとしなさい」

 そう、お母さんに言われて、運動も授業も服装もしっかりこなしてきたと思う。

 どこか、みんな遠くにいて、冷たくなった気がして、寂しい。


「ごきげんよう、藍原さん」

「おはよう、相沢さん」

 朝練から、教室に向かう途中、後ろの席の相沢さんと挨拶する。

 ニコニコとした笑顔を絶やさず、なんというか、清楚な美少女。

 私がカバンを片手に持っているのに、相沢さんは両手で前に持つ。

 なんというか、可愛さの次元が違うようにも思える。

 でも、彼女とも、距離感は遠かった。


「ええ、わたくしも存じてますわ。それの解釈なら」

 たわいもない、授業の話をして、

 日常をこなして、空虚な時間を進める。

 それが、今の私の日常。

 ――つまらない。

 そんな心が聞こえてくる。



 お互い、口元に手を当てて、笑い、

 他愛もなくツマラナイ話をして、相沢さんが教室のドアを開けた。


「え、あ、やべ!!」


 ザバーっと水の音がした。

 上からの水? ガランと金属音がするが、なにより。

 ずぶぬれで髪の毛が顔に張り付き、全身ずぶぬれの相沢さん。

 あわてて、カバンから部活に使う予定だったバスタオルを取り出した。


「おいこら、逃げんな!! ゴラァ!!!」

 先ほどのわたくしとか言っていた相沢さんから聞いたこともない怒声。

 制服が透けている姿で追いかけ始めるのを見て、バスタオルを片手に彼女を追う。


「ひょえぇーー!! 相沢がキレた!!」

「だから、僕はやめようと言ったじゃないかー!!」

「なんで、俺まで!!」


 頭が痛い。

 実行犯だと即座に理解できてしまう反応だ。

 情けない声を出して煽りながら逃げる座間くん。

 やめようと言ったと言いながら逃げる新田くん。

 そして、なんでと言いつつ、一緒に逃げる金川くん。

 私の、幼稚園時代からの幼馴染たちだ。

 その事実が最悪すぎた。


「ユカリさん! 離して! こいつらを殺せない!!」

「お、落ち着いてください。見えちゃいますから!!」


 バスタオルと一緒に羽交い絞めにして止める。

 腕が震える、ナニコレつっよ!?

 彼女は運動系の部活動には入部してない筈なのに、どこか力が強く振りほどかれそうだ。


「う、ううううう!! 覚えてなさいよバカ三人組たちめ!!」

 少し前の声とは裏腹に、呪詛のような言葉で止まった相沢さんを尻目に、

 笑い合っている三人組を見て、どこか私の中に光が灯った気がした。

 なんだろう、不思議な気分。

 まったく、相沢さんをこんなに怒らせて、

 ほんと、うるさい人たちだ。


「ははは、今のは傑作だったね。座間? なんて声出してんのさー」

「はぁ? 出してねえし? 僕はやめようと言ったじゃないかーも大概だったし?」

 何かの声を出して、二人が取っ組み合いを初めて、二人に拳骨を落とした金川くん。

「ったく自業自得だバカ垂れどもが」


 今までの何もない日常。

 それが、色づいていく。

 騒がしくて、なにかどこか暖かい。

 そんな、私の話。


 だけど、今は、もっと何もない日常も悪くないなーって思っちゃうほどに。

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