本の紹介41『デミアン』ヘルマン・ヘッセ/著
不思議な友人に揺り動かされる思春期の魂
ヘッセの作品は高校生の頃に一通り読んだのですが、耽美なタッチの描写が素敵だなと感じました。あまりに儚いために、するすると心を通り抜けていってしまうのが難点ですが、これもヘッセの作家としての力量がなせる技でしょうか。
「車輪の下」という作品が特に有名ですが、オチも含めてちょっとあざといなという印象があり、個人的にはこの「デミアン」が一番好きです。
物語全体に漂うミステリアスな雰囲気や、主人公とデミアンの含蓄溢れる言葉の応酬、そして分かりやすいオチのない上品な幕引きが琴線に触れたのだと思います。
主人公のシンクレールはラテン語学校で不良少年に絡まれ困っていたところ、友人であるデミアンの機転により窮地を脱します。それをきっかけに二人はそれまで以上に親交を深めるのですが、デミアンはシンクレールの世界にこれまでにない光を投げかけます。善良な両親のもとで育ち、いわゆる明るく正しい世界を生きてきたシンクレールにとって、デミアンから齎される言葉は世界の暗部であると同時に、世界の新しい側面を照らす光でもあるように感じられます。
デミアンという少年は非常に教養があり、また独自の世界観を持ったキャラクターとして描かれるのですが、どことなく浮世離れした言動にシンクレールだけでなく読者も翻弄されることになります。
同時にちょっと懐かしい気持ちも味わいました。デミアンほど突出はしていないものの、子供の頃、同級生の中にちょっと大人びた子がいた記憶はないでしょうか。自分とは違う世界生きているように見える人間に対する、憧れのような気持ちがこの作品を読んでいると蘇ってきたように思うのです。
デミアンがシンクレールに寄せた手紙にとても印象深い言葉があるのですが、これが本作のテーマとして通底しているもののように感じました。
「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという」
物語の中で、シンクレールはデミアンの言動や投げかけてくる言葉に影響を受け、またその解釈に苦心することになるのですが、同時にそれは少しづづ心を生まれ変わらせる豊かな時間なのだと感じます。
教養小説としての色合いもありますが、一つのお話としても非常に面白いものに仕上がっているので海外文学に馴染みのない方にもオススメです。
私たちの少し先を歩みながら、どこかへ導いてくれるような神秘性を持った存在。それがデミアンであり、シンクレールも私たちも彼の正体を掴むことは一生叶いません。しかし、そういった存在がいることが人生を豊かにしてくれるということを本書は語りかけてきます。終わり




