天国方面行き合い(非)言葉
「嘘を吐いたことはありますか」
想定だにしない穏やかな、追及感を微塵も出さない閻魔大王からの問いかけに騙されてはいけない。
正直者が馬鹿を見るのは、キリスト教で言うところの最後の審判か、西洋文化の深奥になれば謎掛けをするスフィンクス、東洋文化圏で言うと閻魔大王の面前での出来事に帰結する。
閻魔台帳に記載されている事項でないものが、天国方面行きの合い(非)言葉と称されている。
大王の左右には一つずつ進路が設けられている。一つには扉はなく通行を妨げるものはない。もう一つはただ堅固な壁にしか見えない。
とば口に当たる問いへの正しい応答方法は、
「嘘は罪になりますか」
という聞き返しである。
閻魔大王の役目はいかなる手を使っても、面前に現われたものを地獄へ誘導することにある。
「時と場合によります」
最初の問いは体裁のよい罠である。正直者であることを正解に見せかけている。うっかり、嘘を吐いたことがあります、と素直に答えた途端に尋問は終了する。
「罪に当たらない嘘ならあると思います」
「なるほど。具体的にはどのようなものですか」
「他愛もない冗談みたいなものであったり、重傷なのにショックを与えないために軽傷だと言うような思いやりに該当するものです」
「いいでしょう。では、誰かを傷つけたことはありますか」
良心由来の罪悪感を持っているかの検査みたいなもので、この問いが出た時はうまく煙に巻く。
「怪我をさせたりしたことはありません」
「怪我でなければあるということですか」
「と言いますと」
「体に傷を負わせること以外にならあると」
「他愛もない悪口ならあると思いますが、それは問題ないのではないですか」
閻魔大王は大げさなほどに苦々しそうな表情を作るだろう。
下手に一本取ったりするのは逆効果で、機嫌を損なわないように配慮しなければならない。
底意地の悪い一撃必殺のような、
「意識せずに生き物を殺めたことはありますか」
という問いが出なければ、親孝行不足を指摘されたり、一時停止無視についてとか、なんとかやり過ごせることを問われる。それをくぐり抜けると、あと一歩。ここで気を抜いてはいけない。
「最後に一つ尋ねます。あなたが気づかずに犯した罪はなんですか」
そう必ず問われる。
模範的解答と思われるものは確認できていない。




