表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/48

恐怖の噛みつき馬




翌週—11月2週。


「よし!!終わり。お前、大分汗をかかなくなったな。我慢できてるぞ、やればできるじゃねぇか」

康成が、クロノドラクロワの首をぽんとたたく。


『…………』


ここ1週間、ドラクロワは死んだ目で縦列(じゅうれつ)調教をこなしていた。


(尻)

(尻・尻・尻)

(無)


目の前には常にムキムキの尻。後ろには噛みつき馬。

その恐怖に耐え続けた結果――先週は体が拒否していたのに、今週はもう勝手に体が動いていた。


「そうだ」

康成が満足そうに言う。

「反射で体が動くようになれば、レースでも自然に動く。練習でできねぇことは、レースでもできないからな」

そしてニヤリと笑った。

「そろそろ順番を変えてやってもいいぞ。ちゃんとスピードについていけてるし、尻を噛まれる心配はなくなってきたろ」


(助かった)

(もう噛みつき馬の前はいやだ)

(ストレスで尻がハゲる)


ドラクロワは小さく鼻を鳴らした。




厩舎へ戻ると、壁には歴代の重賞馬たちのミニゼッケンがずらりと並んでいた。

先代のボス・栗林徳太郎から数えて50年。時を超えて、この厩舎を支えてきた名馬たちの証が飾られている。短距離王国の名に恥じず、スプリント・マイルを中心にカラフルな勲章が壁を彩っていた。

その中に――さっきまでドラクロワの後ろで目を血走らせていた、噛みつき馬の名前もあった。

 


第69回 G2・京王杯スプリングカップ(2024)

優勝 スーパースナップ号(牡4)



(あの狂犬……)

(重賞馬だったのかよ)


そのとき。

遠くの馬房から――


カチカチ


歯を鳴らす音が厩舎に響く。

ドラクロワがそっと廊下へ首を出すと——暗い馬房の奥で、キラリと白い前歯が光っていた。


スーパースナップだった。血走った目で、こちらをじっと見ている。


『ひぃぃぃぃぃ』

ドラクロワは思わず首を引っ込め、後ずさった。


奥の馬房からは、


カチカチカチ


歯を鳴らす音が、楽しそうに響いていた。


(キチガイだ)

(関わりたくねぇ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ