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白きの殺人鬼

「アイーシャ様!私供も参ります!」


アイーシャの後ろにいる兵隊達も続々と剣を抜き、俺に向け構える。

ざっと15──いや、20人程だろうか。


「ここは私に任せてあなた達は建物の中を捜索しなさい!もしかしたら生存者がいる可能性があります」


たがアイーシャは兵士達に建物中の捜索に入るように指示を出す。


「で、ですが!」


「相手はあの『()()()()』級の犯罪者です!」


「…!!」


アイーシャは自分を止めようとする兵士にとある言葉を言い放った。


指名手配される犯罪者にはそれぞれ罪の重さと凶悪さを元に階級がする。

そして一応俺は、不倶戴天級と呼ばれているらしい。


「それに私が彼と何回も戦っている事はあなた達も見ているでしょう」


アイーシャを止めようとする連中に、彼女は言葉を続ける。


「ここは私に任せて、あなた達は生存者の救出をお願いします!」


「「「「…はっ!!」」」」


アイーシャの指示を聞いた連中は直ぐに持ち


残ったアイーシャは俺を捕らえるつもりのようだ。


「ほう…貴様1人で俺を捕らえる…か」


「今日こそ大人しく捕まってもらうよ」


「不可能だと答えたら?」


「無理やりにでも…捕らえるわ!!」


言葉と同時にアイーシャが踏み込む。


そしてものすごいスピードで俺の前に移動し、俺の首に目掛けて剣を振るう。


「観念しなさい!絶対不変!!」


アイーシャはこの王国でも上位に位置する程の実力者だ。

流石は王国騎士団の副団長と言ったところだろう。


「…足りないな」


だがその刃は惜しくも俺には届かない。

それはそうだろう。もし届いてしまっていれば俺はとっくに檻の中のはずだからな。


「これを当たり前のように避けるのはやめてほしいんだけど」


「ふっ…なら頑張って当ててみるといい」


「…ならもっと()()()()()


俺の挑発に乗ったアイーシャが更に加速し、剣を振るう。

まるで斬撃の嵐だ。


「確かに()()()()速くなったな」


それでも俺を捉える事はできない。

俺はアイーシャの斬撃を、全て余裕を持ってかわす。


「君、本当に人間…?」


「それはお互い様だろう」


「…一緒にしないでくれる?」


「他の人間に比べたら…貴様も人間と言えるのか?」


アイーシャの速度は常軌を逸している。

他の兵士や街の人間から見れば、何をやっているか目に捉えるのも難しいだろうな。


「あなた結構お喋りよね」


「そういう君は…聞き上手だな」


「…むかつくわ…!」


その時アイーシャは剣撃後に俺の腹に目掛けて蹴りを放つ。

だが俺はそれを難なく躱す。


「貰ってばかりでは申し訳ない、お返しをくれてやろう」


「…!?」


俺はアイーシャの蹴りを躱すと同時にカウンターでアイーシャの胴体目掛けて蹴りを突き出す。


「ぐっ…!」


俺の蹴りはアイーシャに的中し、アイーシャはその勢いで後方へ吹き飛び、膝をついてどうにか堪える。


「少し小突いただけだろう」


アイーシャが吹き飛んだ先に俺はもう移動している。


「これが小突きって…流石ってところだね、げほっ、」


アイーシャは地面に剣を刺し、膝を付いたまま俺に蹴られた場所を抑えている。


「残念だか…今宵の祭はもうおしまいだ」


「逃がしはしないよ…!」


アイーシャは立ち上がり、再び俺に剣を向ける。


「アイーシャ様!」


「…!?どうしました!」


だがその時、建物の中を捜索していた兵士が外に出てアイーシャの名前を呼び、アイーシャはその声に反応する。。


「中に生き残りの子供達が…!」


「…!!」


兵士からの報告を聞いたアイーシャが俺から背を向け、抜いていた剣を静かに鞘へと収める。


「…人命救助を優先します!全員直ちに建物にいる子供たちを保護しなさい!」


「「「「はっ!!!」」」」


アイーシャの命令を聞いた兵士たちは続々と建物の中へと侵入していく。


「…!奴は!」


「また機会があれば…いつでも受けて立ってやろう…」


アイーシャはハッとして俺がいた場所に向けて振り返るが、そこにはもう俺の姿は無く、どこからか俺の声だけが聞こえた。


「くそ…!!また逃がした…!」


アイーシャはギュッと両拳を力いっぱい握りしめ、悔しさのあまり小刻みに震えていた。


そして兵士全員が建物の中に入ったのを確認した後、アイーシャもその後を追って建物中へと入っていった。


「こ、これは…」


建物の中に入ったアイーシャは自分の目を疑った。


鼻を突く強烈な死臭、あらゆる場所に倒れる無惨な死体、そしてその死体たちのものであろう無数の血痕。


まるで地獄を描いたような光景が広がっていた。


「アイーシャ様!こちらです!」


1人の兵士がアイーシャを呼び、地下に続く階段を共に降りていく。


「・・・」


そこには沢山の少女たちがいた。

身も格好もボロボロ、そして首には鎖が繋がれており、明らかに人間として扱われてはいなかっただろう。


「この子達は…」


「多分、奴隷として売られた子供たちでしょう…」


「奴隷…」


この国では基本的に人身売買は禁止されており、立派な犯罪行為とされている。

アイーシャの顔には怒り、そして悲しみが感じられるような複雑な表情をして少女達を見つめている。



「アイーシャ様!!!大変です!!」


そんな中、階段を降りてきた1人の兵士が必死の形相でアイーシャの名を呼ぶ。


「…どうしましたか?」


「とにかくこちらへ!!」


兵士の様子からしてなにやらただ事ではない事が起こっているようだ。


「この子達の保護を頼みました!」


「はっ!!!」


アイーシャはその場を任せて、自分を呼びに来た兵士に付いていく。

その兵士はそのまま階段を登っていき、建物の最上階の1番奥の部屋に入る。


「アイーシャ様こちらです!!」


「…!」


その部屋に広がる光景。

そこには脳天から血を流し絶命する太った男と鎖に繋がれた茶色髪の少女の姿があった。


「アイーシャ様、このお方は…」


「ええ、この方はタフ・フトーチョ伯爵ね…」


アイーシャは男の顔を覗き込み、その男を王都の貴族であるフトーチョ伯爵と断定した。


「…とりあえず応援を呼びましょう、今回の事件()厄介な事になるでしょう…」


「はっ」


貴族の男が国の法を破って人身売買を行っていたのだ…厄介事になる事は避けられない。


「アイーシャ様、この子はどうしましょう。」


兵士の1人が鎖に繋がった少女に関してどうするかをアイーシャに尋ねる。


「他の子供達と一緒に保護します。」


「わかりました。」


アイーシャはその少女の元に近づき、少女の目線に合わせるようにその場に座り込む。


「もう安全よ、一緒に行きましょう」


「・・・」


アイーシャは少女に優しく微笑みかけながら、手を差し伸べる。


「…いよ」


「え?」


「…もう…おそいよ…」


少女の目から一滴の涙がこぼれ落ちる。


「パパも…ママも…もういないの…アイツらに…殺されちゃったの…」


少女は明後日の方向を見ながら涙を流し、言葉を続ける。


「会いたいよ…パパ…ママ…」


少女には楽しく両親と生活していた過去と、目の前で盗賊であろう男に両親を殺されここに売られる過去の記憶の映像が写っていた。


「…ごめんなさい…」


アイーシャはその言葉に対して謝罪し、抱きしめる事しかできなかった。

少女の心境を考えるとかける言葉も見当たらず、いたたまれない気持ちだけが芽生えてしまったのだ。


「…とにかくここから出ましょう。」


アイーシャはそのまま少女を抱き抱えて部屋を後にし、建物の外に出る。


「盗賊たちと貴族の暗殺、そして…」


外に出たアイーシャは振り返って建物を見つめ、その後足元に転がっている男の死体を見つめる。


()()()指名手配犯である大盗賊バースの殺害…」


「…この人…」


アイーシャがバースを見つめると同時に、抱き抱えられている少女もバースを見る。


「…この人も…あの白い服の人が…?」


バースの姿を見た少女は初めてアイーシャとコンタクトを図る。


「…ええ、そう通りよ…」


「…そっか…」


どうやら少女の両親を殺害し、少女をここに売りさばいたのはバースである様子だった。

その男が死体とはいえ目の前に転がっているのだ。

少女の気が動転しまうんじゃないかとアイーシャは少女に心配の眼差しを向ける。


「…ありがとう…白い服の人…」


「…!」


だが少女からはアイーシャの心配とは真逆の落ち着きと感謝の言葉が出てきた。

少女の目からは再び涙が流れているが、その目には先程よりも少し光が戻ったようにも思えた。


「絶対不変…君は一体何者なんだ…」


アイーシャが先程俺と戦っていた場所を見つめ、呟く。


「…」


その様子を別の建物の上から伺っていた俺はそのまま(きびす)を返して闇に溶け、消える──

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