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月光の照らす先には闇がある

レンガや木で作られた多くの建物に囲まれる街。

石が敷き詰められた大通りを照らす灯火。

そして人々が寝静まり、月が輝く深夜。


「お〜いお前ら!ついてこ〜い!」


「兄貴〜!もう1軒いきましょ〜や!」


「俺も大賛成っす!」


「女の店にしましょう!」


「おっ!お前!その案採用!」


「「「「ぎゃはははは!」」」」


夜の道を酔っ払った4人組が歩いている。

─今日の獲物はあいつらだ。


「今夜は月が綺麗だ」


4人の前にとある男が音もなく姿を現す。

異質な純白のフード付きコートに、まるで血のような赤い瞳。

そして発せられる低く、冷たい声。

──それはこの俺だ。


「あ〜ん、なんだてめえ!」


「こんな深夜に出歩いちてちゃ危ないでちゅよ〜」


「お〜い、そのフード外して顔見せろよ〜」


「兄貴!こんなやつほっときましょうぜ」


4人は俺を見てゲラゲラと笑い、からかい、バカ丸出しだ。


「こんな時間に泥酔とは、余程いい事でもあったのか?」


俺はそんなバカたちの機嫌を見て、淡々と質問する。


「ま〜な!仕事が上手くいって大儲けだ!」


「確かに()()()()()()()()()()()()()!」


「最後の方なんて、「金ならいくらでもやる!だから娘だけは!」なんて言っちゃって!」


「まあ、俺たちを見ちゃった時点で()()()()()んだけどな!」


4人ははバカみたいにぺちゃくちゃと自分達の(おこな)った悪事を自慢している。


「おい!てめえら!喋りすぎだ!」


そんな状況を見て、兄貴分が声を荒らげる。


「喋っちまったもんは仕方ねぇ。悪いが死んでくれや!」


そう言うと、男たちは俺に向けてナイフを取り出す。


「お前達が勝手に喋っただけだろ?」


「それはそうだが、知られちゃ後々めんどい事になりかねねぇからな!」


「あんちゃんごめんな!ついつい喋りすぎちまったよ!」


「でもこんな時間に俺らの前に現れた兄ちゃんが悪いんだからよ!許してくれや!」


4人は余裕ぶって笑いながら俺を見ている。

─まるで()()()()()()()()()()()


「嫌だと言ったら?」


「わりぃが決定事項よ!」


子分の1人が俺を亡き者にしようとナイフを振り上げ、駆け足で近づいてくる。

──人を殺そうというんだ。()()()()()()()()()()()


「死ねぇ!」


子分の男は俺に向かって振り上げたナイフを振り下ろす。

だが、そのナイフは俺をとらえる事はできなかった。


「どうした、殺すんじゃないのか」


「てめえ!ちょこまかと!」


男は俺に向かってナイフを乱暴に振り回すが、俺はその全てを避け、ナイフは空を切る。


「おい!なにやってんた!はやくやっちまえ!」


「すんません!こいつすばしっこくって…」


兄貴分の声に子分は俺から目を背け、仲間たちの方へ振り向く。


「よそ見とは随分余裕だな」


俺は静かに男との距離をゼロにし、懐へ踏み込む。

そして男のナイフを奪い取った。


「残念だが、死ぬのはお前の方らしいな」


「…はあ?」


俺はそのナイフで男の首を掻っ切り、首からは真っ赤な鮮血が宙を舞った。

男はその場で倒れ込み、血が瞬く間に広がる。


「て、てめえ!」


「なにしてくれるんじゃ!」


その光景を見た残りの子分が俺の元へと突っ込んでくる。


「お前ら!1回戻ってこい!」


兄貴分の男は子分2人に指示を出すが、目の前で仲間が殺されたせいか、指示を無視して足を止めない。

そして二人は俺を前後で挟み込んだ。


「兄貴が戻ってこいと言ってるぞ」


「うるせえ!」


「仲間の仇だ!死ね!」


俺は兄貴分の指示を教えてあげたのだが、頭に血が登ったこいつらには無意味のようだ。

2人同時にナイフを構え、心臓目掛けて突っ込んでくる。

──なら


「…あれ、お前なんで、俺を刺してんの?」


「お前こそ、」


俺は2人をギリギリまで引き寄せ、右側に身をかわす。

その結果、2人は俺が消えたと錯覚し、ナイフをお互いの胸に少し刺してしまっていた。


「お前ら仲良しなんだろ?もっと近づいたらいいじゃないか」


俺は2人の背を(さす)り、お互いをもっと近づけてやった。

するとナイフはみるみる2人の体の中に消えていく。


「がはっ…!」


「や、やめ…!」


「すごいな、お前達はナイフを消す手品が使えるのか」


そんな事を言っていると、ナイフは根元まで刺さり心臓に到達した。

2人はお互いの顔へと吐血し、俺が手を離すと倒れ込んでしまった。


「な、何が起こった…!」


「次はお前の番だ」


俺は唖然としている兄貴分の男に視線を向ける。


「てめえ!俺が誰かわかってんのか!俺は大盗賊バース様だぞ!!」


「ああ、わからないな」


バース…正直言うと知っている。

最近この街で悪さを働き、『()()()()()』となった男だ。


「てめえ、俺様に牙を向いた事を後悔させてやる!」


「それは楽しみだ…その後悔とやらを味あわせてくれ」


俺はバースを煽る。

するとバースはその場何か()()()()()()()を飲み込み、体に力を込め始めた。


身体強化(フィジカルブースト)─!」


ほう、これは驚いた。

バースは身体強化の()()を使う。

──魔法。それは才能があるものだけが使う事が許される大いなる力。


「まさか盗賊風情が魔法を使えるなんてな」


「今更参ったなんて無しだからな!あの世で後悔しやがれ!」


バースは俺に向けてナイフを振りかぶり、ものすごいスピードで突っ込んでくる。

しかしそれは俺を少し通り過ぎ、地面を思い切り叩き壊した。


「おっと、久々に使ったからか少し体がなまっちまってらぁ!」


バースの筋力、スピード共に人の域をはるかに凌駕している。


「次は外さねぇぞ!!」


「…」


バースは先程より精確に俺の元へと突っ込んでくる。


「ひゃはは!くたばれ!!」


バースは力任せにナイフを振り下ろす。

だが、それは俺ではなく、虚空を斬り裂いた。


「なっ…!?」


「どうした…当ててみろ」


「ふ、ふざけんなああ!!」


俺がナイフを避けた事にさぞ驚いたのか、バースは俺に向けて乱暴にナイフを振り回す。

だが、俺はその全てを凌駕し、ナイフは空を斬り続ける。


「馬鹿な…!そんな馬鹿な!!」


「いくら振り回したとて…俺には当たらん」


性懲りも無くバースはナイフを振り続ける。


「バカの一つ覚えだな」


俺はバースのナイフ捌きの合間に現れる隙をつき、顔面に蹴りを入れる。


「んがっ…!」


「ほら…どうした」


俺はバースの顔面に蹴りを入れ続ける。

その度にバースの顔は色んな方向へ弾け飛ぶ。


「…ちょこちょこと鬱陶しい!」


バースは俺に向かって両手を伸ばしてきた為、俺はナイフを捨て両手を伸ばし掴み合いの形へと持っていく。


「力比べか…いいだろう、かかってこい」


「バカが!掴んだらこっちのもんなんだよ!!」


バースはそのまま俺を潰そうとする。

─だが


(なんだ…動かないぞ!)


バースは俺を潰すどころか、動かす事すら叶わなかった。


「なんでだ!?…まさか!お前も魔法を!」


「お前にはそう見えるのか?」


「く、くそっ!!」


力では劣ると察したバースは俺から離れようとする。


「離しやがれ!!!」


「離れたければ…離れればいいじゃないか」


だが、それは俺が許さない。


「いいか…力というのはこう使うんだ」


俺はバースを手前に引き寄せ、その勢いで手首を前に倒しバースの両手首をへし折り、あまりの痛みにバースは絶叫する。


「ぎゃああああ!!」


そして俺はそのまま手前に引き寄せたバースの顔面へ目掛け膝蹴りを食らわせた。


「がはっ…!」


「どうした…もう終わりなのか?」


俺はそのまま2度、3度とバースの顔面に膝蹴りを食らわせる。


「ば、ばけ…もの…。」


バースはそう言い残し、力尽きて倒れてしまった。


「まだ眠られては困るんだが」


俺は捨てたナイフを拾い直し、それをバースの太ももに突き刺す。


「いてえええええ!!」


するとバースはあまりの痛みに目を覚ます。


「聞きたいことがある…襲った家の子供はどうした」


そして俺は意識が戻ったバースに1つの質問をする。


「へっ、誰が答えるか!」


俺は素直に答えないバースの太もものナイフを抜き、反対側の太ももへ突き刺す。


「ぎゃああああ!!」


「もう一度聞く…子供はどうした」


「売った!さっきあっちの奴隷商で売っぱらってきた!」


バースはあまりの痛みに耐えかね、質問に早口で答えながら自分たちが歩いてきた方向に向けて指を指す。


「─()()()()


「な、なあ、俺は素直に答えた。だから…」


俺はバースの命乞いを無視し、ナイフを拾い集め、それを両肩と両膝に1本ずつ突き刺す。


「ぐああああ!!」


「お前にはまだ利用価値がある」


「いでぇ。いでぇよ。」


俺はバースを引きずり、先程指を指した方向へと歩いていく。


~~~ ~~~ 〜〜〜 ~~~


「奴隷商はどこだ」


「こ、ここです!ここがこの街の奴隷商です!」


暫く歩くと、バースは灯りのついた()()()()()に向けて指をさす。


「そうか」


俺はバースを離し、その建物の扉を蹴り壊す。

すると建物の中から一人の男が走ってこちらに向かってくる。


「だ、だれだ!!…ごっ。」


俺は気配を消し、扉に近づいてきた男を後ろから締め上げ、首をへし折り一瞬で絶命させる。


「一体何の音だ!」


「おい!誰がいるぞ!」


中から()()がぞろぞろと湧き出てくる。


「──殲滅だ」


俺はバースの左肩に刺さったナイフを抜き、そのナイフで奥からどんどん出てくるゴミたちを片っ端から片付けていく。


綺麗だった建物内と俺のコートがどんどん血に染まっていく。


俺はゴミを片付けながら突き進み、最奥にある扉に辿り着く。

そしてその扉を蹴り破る。


部屋の中は暗く、机に置いてあるランプが壁に大きな人影を写していた。


「だっ、だれだ!」


「・・・」


部屋の中には沢山の金貨が積まれた机と、豪華な服を纏い鼻息の荒げ鎖を握っている太った男、そしてその足元には首に鎖を繋がれ服が乱れかけた目に光のない()()()()()がいた。


どうやらお楽しみの()()だったらしい。


「貴様!ここをどこだと思っている!」


「…醜いな」


俺はゆっくりと男へと近づいていく。


「だれか!誰かいないのか!!」


男は声を荒げて人を呼ぶが誰1人として反応はない。


「見るに堪えんな」


俺は男に人差し指を向け、先端に魔力を集中させる。

すると指先に赤と黒の2色の魔力が凝縮され、弾丸となる。


「き、きさま!何をする気だ!」


「それは貴様が1番分かっているだろう」


その時、部屋の窓から月の光が差し込み俺の姿を照らす。


「…!?その血に染った白いコート…貴様はまさか、最悪の『指名手配犯』─」


どうやら俺が誰だか理解したらしい。

男は地に腰を落とし、後退りして逃げようとする。


「たた、助けてくれ!金ならいくらでも払う!だから─」


「ならお前は命乞いをしてきた人間たちに慈悲を与えた事があるのか?」


「そ、それは…!!」


「なら俺もお前に慈悲を与える必要は無いな…」


「ま…!!!」


命乞いをする男に向けて、俺は容赦なく男の眉間に魔力の弾丸を打ち込む。

─即死だ。


「・・・」


目の前で人が死んだと言うのに、この少女に反応はない。

どうやら心を閉ざしているようだ。

俺は少女に近づき、両手を近づける。


「・・・。」


少女は何か察したのか、目を瞑りほろりと一筋の涙を流す。

俺はそのまま少女の首に着いた首輪を強引に引きちぎり、破壊する。


「…!」


「別にお前を殺すつもりはない…好きなようにしろ」


俺は少女を背に踵を返して部屋から出る。


そしてそこら中に散らばったゴミの死体を踏みながら建物の外に出る。


「…お前…まさか一人で…」


「ああ、お前の存在を忘れていた」


外には俺を恐怖の目で見上げ、ぶるぶると子犬のように震えているバースの姿があった。


「安心しろ、お前もあいつらと同じ場所に送ってやる」


俺は建物の中に見える死屍累々の塊に指をさす。


「や、やめてくれ…頼む…!」


「はあ、命乞いは聞き飽きてるんだ…潔く死ね」


俺は手に持っていた血まみれのナイフを容赦なくバースに向かって投げる。


投げたナイフはバースの額を貫き、そのナイフが致命傷となったバースはその場で息絶えた。

その時──


「貴様…一体何をしている!」


後ろから剣と鎧を携えた2人の男が俺に声をかける。


どうやら騒ぎを聞いていた市民が騎士団に通報したらしい。


「…今宵の祭りはもう終わりなんだがな」


「いいえ、まだ()()()()()()()()というメインイベントが残ってます!!」


踵を返そうとした俺対して、2人の男性兵士の後ろから兵隊を引き連れた美しい銀の長髪の女騎士が声を荒らげそれをを止める。


「これはこれは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないか」


俺はこの女を知っている。


俺が事件を起こす度に、この女は俺の前に現れるのだ。


「『絶対不変』…今日こそあなたを捕らえます…!」


「できるものなら…やってみるがいいさ」


アイーシャは俺に剣を構え、それを見た俺は不敵に微笑む。

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