動機とは全ての人の中に眠る壁である
どんな世界にも『法律』というものは存在する。
法律とは社会の秩序維持、紛争の解決、国民の保護。
ようは人々が安全で安心して暮らす為の社会生活上のルールである。
そして法律の数に比例し、その法律に背いて罪を犯す行為である『犯罪』というものも存在する。
例えば、窃盗、暴行、傷害、詐欺、薬物使用など、社会や他人に迷惑をかけるこれらの行為は全て犯罪である。
犯罪を犯してしまった者には犯した罪の大きさに比例した『刑罰』という制裁が加えられる。
軽い犯罪であれば『罰金』、重い罪であれば『懲役』、そして犯罪者に対して最も重い刑罰『死刑』などが挙げられる。
人はなぜこのような制裁を受ける可能性があるのに犯罪を犯してしまうのだろうか。
これは自論だが、その答えは『心の壁』であると思う。
人は、自分の望みを叶える為に努力する生き物である。
お金が欲しい、強くなりたい、やれる事をやってみたい…などなど、人の望みは人それぞれに様々な物がある。
そしてそれらを叶える為に、多種多様な努力を経て、掴み取ろうとする。
─話を戻そう。なぜ心の壁が犯罪を生んでしまうのか。
それは犯罪こそが望みへの簡単な近道だからだ。
例えばお金が欲しいから奪い取とる。
非道な行為だが、汗水垂らして必死に働いた対価と同じくらい─いや、場合によってはそれ以上のお金が手に入る。
例えば気に食わないから暴力を加える。
自分の感情を抑えきれずに相手に暴力をふるって黙らせる─そうしてしまうと自分の方が強いという優越感を得てしまう。
例えばスリルを味わいたいから薬に手を染める。
これもやってはいけない事だが、お金を払って簡単に試す事ができる上、やる事は簡単なのに得られる快楽が他とは比にならず中毒症状も起こしてしまう─そしてやがては廃人となってしまう。
犯罪によって得られる快楽を覚えると、もうそこから引き返す事はできない。
小さな事が大きな事件へ、この近道こそがこの世から犯罪が消えない理由と考えている。
犯罪は絶対に許されない行為。
そんな犯罪の中で特に重い罪となる行為は何か。
それが『殺人』である。
人を殺す行為、それは絶対に許されない犯罪の中でも最悪、もっとも『禁忌』とされているものだ。
そしてその殺人を犯す『殺人鬼』の俺は、この世界では絶対に許されない存在だろう。
人々から疎まれ、忌み嫌われ、そして恐怖される対象。そして制裁を加えるべき─いや、制裁を加えなければならない存在だ。
だがこれが俺の望みの一番の近道だった。
きっかけはなんだったか─思い出したくもない。
だが、俺の望みを叶えるにはこの道しかないのだ。
間違っているのはわかっている─だが、俺はもう戻れない。
どうか第二の俺が現れない事を祈る。
祈るだけではダメだ。
こんな愚かな『怪物』を二度と生み出さない為。
──俺は人を殺し続ける。




