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第一話 新しい生活はお先真っ暗


 滝津川市立滝津川中学校


 市内でも山手に近い田舎にある中学校。旧校舎が耐震強度に問題があると言う理由で鉄筋コンクリートの新しい校舎が二年前に出来たばかりの所だ。


 二年生の四月半ばに転校してきた佐々ささがわ彩夏あやかは、一番後ろの窓側の席でボンヤリと窓の外を眺めた。サラサラとしたボブヘアーは外から入る日の光でキラキラと輝いている。


(田舎だから土地が余ってんのかな? 旧校舎、そのままにしておけるんだし……)


 放置されているとしか思えない旧校舎は、レトロとは言い難いただの古い建物と言った感じだ。


 窓から見えるのは旧校舎とその向こう側にある弁天様を祀っている神社のある小さな森。そして田畑が広がる田舎の風景。


(この制服も、はっきりいってダサいんだよね。紺色のブレザーとかリクルートスーツみたい……)

「佐々川、入る部活は決めたのか?」

「え? あ、先生。まだです」


 ふいに声をかけられ、そちらを見ると、机の脇に立っていたのは三十代半ばの担任の赤松あかまつ


「うちの学校は部活に必ず入らなきゃ駄目ってのがあるから、とりあえず早目に決めろよ? 決まったら入部届け渡すから」

「はい」


 これといってやりたい事もないしなぁ……と考えていると、休み時間は終わり、生徒達は各々の席へと座っていった。


(先生も、どんな部活があるかぐらい教えてくれても良いのに……)


 はぁーっと小さく溜め息を吐き、苦手な英語の授業に集中した。




 給食が終わり昼休みになると、クラスで唯一話しかけてくる竹嶋たけしま菜摘なつみがチョコチョコと近寄ってきて、彩夏の前の席に座った。


「ねぇねぇ、彩夏ちゃん。部活決めた?」

「ううん。先生にも言われたけど、まだ」

「そっかぁ。なら、私と一緒にバレーやらない?」


 彩夏とよく似たボブヘアーで人懐っこい笑顔が可愛い菜摘がニコニコと話す。


「ん〜。球技とか団体競技が苦手なんだよね。一人でやれて緩い部活ってないかな?」

「そうだねぇ……。美術部とか?」

「美術部かぁ……」


 ふと菜摘が顔を近づけてきて、更には声をひそめた。


「あのさ、水泳部だけはやめておきなよ?」

「何かあるの? 怖い不良の先輩がいるとか?」

「違う、違う。うちの学校の怪談で一番ヤバいのが水泳部って言うかプールなんだよ」

「プール……?」


 転校してきた初日に、ザッと校内を案内された時に、体育館の裏手にはプールがあると教えられた。廊下の窓からほんの少し見えるプールは、秋と冬を手入れなしで放置されているのが分かる様相だ。枯れ葉が水底に溜まり、藻が発生していて緑色をした沼のようだとしか思えない有様だった。


「そう。プールの排水口に長い髪が絡まってるとか、誰も居ない更衣室に人影が見えたとか聞くよ」

「じゃあ、水泳部の人って居ないの?」

「居るよ。そう言う話を信じてない人達が。けど、プールに入ると足を撫でられたとか、沼みたいに臭い水がシャワーから出たとかって噂が多いんだよね」

「そんな話があるんだ」


 菜摘は怪談話が好きらしく、何かとそういう話をしてくる。


「後ね、弁天池には真珠色に光る女神様が出るとかもあるよ」

「弁天様じゃなくて女神様なの?」

「……そう言えば変だよね」

「あはは」


 昔からよくある学校や地域にまつわる怪談を、いくつ聞かされても大して怖いとは思えなかった彩夏は笑い飛ばす。


「彩夏ちゃんは、幽霊とか信じてない?」

「ん〜。信じてないって訳じゃないけど、ちゃんと見た事がないからイマイチって感じ?」

「あ〜。そう言う感じかぁ〜」


 二人が話しているのを、クラスの女子達は遠巻きに見ている。中でもクラスの女子のリーダー的存在である石本いしもと美代みよは、睨みつけるように見ていた。


(何だろなぁ……。親の事でグチグチ言うのって理不尽だって思ってないのかなぁ……)


 彩夏も菜摘もクラスの女子達とは極力接しないようにしている。


 菜摘へのイジメが始まったのは、一年の時両親は父親の不倫で離婚して苗字が変わってからだと言っていた。それまで普通に接していた美代達は悪口を言ったり、物を隠したりしたと言う。


 理由を美代に訊ねたところ、『離婚してる親の子なんて底辺なんだから、何されても黙ってなさいよ』という返答だった。美代の取り巻き達もさも当たり前だというように頷いていて呆れたと言っていた。


 そんな感じだからか、彩夏と母親がこの町に引っ越してきた噂はあっという間に広まった。しかも、尾ヒレがつき『不倫をして逃げてきた』『あの娘の父親は誰か分からないらしい』とまで言われている。


(バカバカしい。……。今時、離婚してるなんて珍しくもないのに、何でそれがイジメて良い理由になる訳? 意味分かんない)


 親が離婚しているだけでイジメても良い人間だとレッテルを貼る幼稚な発想しか出来ない奴を、馬鹿正直に相手にする必要はないと彩夏は思っている。


 その後、他愛もない話をしていると、休み時間が終わるチャイムが鳴り響き、菜摘は自分の席へと戻っていった。


 授業が終わると菜摘は部活へ行き、彩夏は帰宅をした。






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