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エピローグ②:エドワルドの夢

エドワルドの後悔エピローグです。

 夢の中、エドワルドはかつての出来事を繰り返し見ていた。


 ──舞踏会の夜。煌びやかなシャンデリアの下、王族とその婚約者として注目を集める中、クラリッサが差し出した手を、彼は見もせず無視した。そして、隣にいた派手なドレスの令嬢と優雅に踊り出したのだった。


 クラリッサはほんの一瞬、瞳を揺らした。しかし、すぐに毅然とした笑みを浮かべる。


『殿下。わたくしがここに立つのは、ただの飾りではございません。王太子妃候補として国の未来を見据え、その責務を果たす覚悟を持っております。たとえお好みの令嬢と踊ることがご自由であっても、その選択が王族としての矜持に適うとは到底思えませんわ』


 その言葉には、誇りと共に、深い悲しみが滲んでいた。


 エドワルドは返す言葉もなく、ただ苦々しげに唇を噛みしめるしかなかった。


 次に夢で現れたのは、議会への同行をクラリッサに求められた日の記憶。


 退屈だと彼女の話を一蹴し、気ままに狩猟会へ出かけた自分。その背後で、クラリッサは一人で政務の場に立ち、王家の名代として冷静に議題を裁いていた。


『殿下。狩りをなさるのはご自由ですが、貴族としての娯楽と、国家の未来を担う責任を、どうか混同なさらぬよう』


 その声は静かで、怒りよりも深い悲しみが込められていた。


 ──あの時の、寂しげに微笑む彼女の横顔。


 クラリッサは決して声を荒らげることはなかった。ただ、正論という名の鏡を差し出し、彼の未熟を余すことなく映し出していた。


 夢の中でエドワルドは、何度も繰り返される光景に胸を締めつけられながら叫ぶ。


『すまない……クラリッサ、すまなかった……!』


 だがクラリッサは振り向かない。


 深い紫紺のドレスの裾を翻し、白く輝くうなじと、ゆるやかに編み込まれたプラチナブロンドの髪を揺らしながら、背筋を伸ばして歩き去っていく。


 ──もう二度と、あの手には届かない。


 エドワルドは夢の中で膝をつき、悔恨の吐息をこぼす。


 目覚めた時、枕元には何も残っていなかった。ただ、胸の奥深くに沈殿するような、澱のような後悔だけが、現実と夢の境界を曖昧にしていた。


 そして、その重たい胸の内には、新たな葛藤が芽生えていた。


 ──自分は、本当に王太子としてふさわしい器なのだろうか。


 これまで彼は、王子という立場に甘え、クラリッサという強すぎる存在に頼ってきた。さらに、エドワルドの母が正妃であったことから、彼は幼い頃より自分こそが王になるべき存在だと信じて疑わなかった。第一王子フレデリックは側妃の子であり、表立った野心は見せず、常に控えめだった。それゆえエドワルドは、兄を軽んじ、王位は当然自分に与えられるものと思い込んでいたのだ。


 だが、現実にはフレデリックこそが次代を導くにふさわしいと、多くの者が感じ始めている。兄である第一王子フレデリックは常に冷静で聡明。国政にも精通し、周囲の信頼を一身に集めている。


「このままでは、自分はただの影だ……補佐に回るべきか? それとも……」


 マリー・エトワールの、あの快活な笑顔が脳裏をよぎる。クラリッサの背後で、信頼と尊敬を向けていた、あの少女。かつて、彼の素直さを認めながら、気にかけていた面影が浮かぶ。


 ──彼女の目に、今の自分はどう映っているのだろう。


 まだ、答えは出ない。ただ一つ、胸に残るのは、かつて失った光のような存在──クラリッサ・ベルグレードの背中だけだった。

がんばれ、エドワルド!

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