7 意識させられる
「こんなイケメンが望ちゃんの知り合いにいただなんて知らなかったわ。しかもあんなに仕事ができるなんてびっくり!レオンくん目当てのお客さんもどんどん増えるし、本当に助かるわぁ」
結局、ミリアちゃんとレオンに押し切られる形で店長にレオンを紹介し、レオンはめでたく同じバイト先のカフェで働くことになった。店長は嬉しそうにそう言ってくるけれど、私としてはなんだか複雑な気分……。
レオンが注文を取りに行くと、女性客は小さく歓声をあげる。でもレオンはさして気にする様子もなく、ただ注文を取ってすぐに店長へオーダーを伝えている。
すごいな、レオンは自分がイケメンてことを自覚してるし、騒がれることもわかってる。でも嫌な顔もまんざらでもない顔もすることなく、ずっとポーカーフェイスなのがすごい。そして、そこもまた人気の理由らしい。
「すごい人気デスネ」
休憩がかぶったレオンにそう言ってみると、レオンはジュースをずーっと吸い込んでからニヤッと笑った。
「へぇ、気になるのか?」
「いや、気になるとかではなくて」
「なんだ。気にしてくれてるからあんなに見られてるのかと思ったのに」
はっ?そんなにレオンのこと見てた?そんなバカな……!
「そっ、そんなに見てないよ」
「いや、穴が空きそうなくらい見られてた」
「うわっ、自意識過剰」
「ノゾミに対しては自意識過剰でいたいんだよ」
なにそれ、意味がわからない。
「レオンがイケメンすぎるのが悪いんだよ。そんだけかっこよかったら誰だって見とれちゃうってば」
「へぇ、ノゾミも見とれてくれてたのか?」
そう言って、体を乗り出して私に顔を近づけてくる。いやいや、近い、近いよ!
「ちょっ、近いよレオン!最近、距離感バグってない?」
「こうでもしないとノゾミは意識してくれないだろ?」
ん?意識する?どういうこと?不思議そうにレオンを見ると、レオンはフッと小さく笑って私の顔に手を近づけてくる。え、何?
心臓がドッドッドッと大きく鳴っている。どうしてだろう、レオンに対してこんなに心臓が大きく鳴るなんてありえないのに。ううん、あっちゃいけないのに。
思わず目を瞑ってしまうと、口の端に何か感触がある。目を開くと、レオンの指にクリームがついていた。
「口の端にクリームついてる」
えっ、やだ、クリームパン食べてたから!?慌てて口の端を指で確認するけど、もうついてはいなかった。
レオンは私の口の端からとって指に付けたクリームをペロ、となめ取る。うわぁ、何その色気……!さらさらの黒髪から覗く夜明けの空のような紺色の瞳とかち合って、また胸がドキッとした。
「ふはっ、顔真っ赤になってる。可愛いな」
なんでそんな色気ダダ漏れの顔でそんなこと言うの!さらに顔に血がのぼっていくのがわかる。きっと茹で蛸みたいになっちゃってるよ……。
ああ、だめだ、このままだとうっかりレオンのこと好きになってしまいそう!なんてちょろいんだろう私。
「わ、私、先に戻るね!」
飲みかけだったお茶を一気に流し込んでから私は勢いよく立ち上がり、休憩室から出た。こんなところにいたら心臓がいくつあっても足りないよ!
これからずっとこの調子なのかな。レオンはなぜかわからないけどシフトが私とかぶるように入れてるみたいだし、先が思いやられてしまう……。
「一緒のバイトにしてよかった」
私が休憩室から出たあと、レオンが心底嬉しそうにそう言っていたことを、私は知らない。




