2 先輩迷子のギャップ
銀髪イケメンのライドさんに説明していると、ピンポーン!とチャイムが鳴ってがチャリとドアが開いた。
「やっほー!ミリアちゃんだよー!てか玄関開けっぱなのやばくない?無用心すぎるよーって、あれ?また迷子の人?なんか騒がしいなって思ってきて見たら、やっぱりそうだったんだ」
入ってきたのは、薄いローズピンクの髪の毛に制服姿の女の子、今はこっちの高校に通っている女子高校生のミリア・リーベルだ。
「あ、ちょうど良いところに来た!ミリアちゃん、この人に治癒魔法かけてくれない?」
「うわぁ、めっちゃ怪我してるじゃん!どっかの騎士の人?おけー!ミリアに任せてっ!」
ミリアちゃんはそう言うと、ライドさんの足元に座り込んで両手をかざす。するとミリアちゃんの両手が光り、ライドさんの怪我がみるみるうちに治っていった。
「治癒魔法……」
「ほい、できたよ!んで、あなた来たばっかりっぼいね?服もどっかの騎士服じゃん。この人どーすんの?どこの部屋?」
「どーしようか迷ってるんだ。最初から一人で生活は無理だから、いつも通り誰かと一緒の部屋にしたいんだけど……やっぱりそうなると、レオンの部屋?」
「断る」
ちらっとレオンを見たら、バッサリ断られた。わああ、すいません。レオンならそう言うと思ってました。
「でもさぁ、そうなると他に住める部屋なんてノゾミンの部屋だけじゃない?現時点では他の部屋、新人さんと相部屋にするには色々と問題ありでしょ?」
ミリアがそう言うと、レオンは盛大に眉を顰めた。うわぁ、イケメンが台無し……と言いたいところだけど、そんな顔しててもイケメンだから恐れ入ります。
「まぁ、そうなるよね……レオンのところがダメとなると、必然的に私の所になっちゃうけど」
「は?こいつは来たばかりの血気盛んな迷子の騎士だぞ。一緒の部屋になってお前に危害を加えでもしたらどうするんだ」
「……女性に対してそんなことはしない。そもそも助けてもらった身だ」
「うるさい、新人は黙れ。とにかく、男を同じ部屋に住まわせるなんてダメだ」
急にレオンがキャンキャンと吠え出した。ライドさんが困った顔をして私を見る。うう、うちのレオンがなんかごめんなさい……。
「じゃあレオンの部屋に住まわせてあげてよ。できないならライドさんは私の部屋に来ることになるけど」
私がそう言うと、レオンははぁーっと盛大にため息をついてから、ライドさんを見てチッと小さく舌打ちする。こらこら、舌打ちなんて失礼なことやめてほしい。
「わかったよ、だけど今だけだからな」
「よかった!それじゃよろしくね」
両手を広げてばんざーいと喜ぶと、レオンは頭をかきながらハイハイ、と仕方なさそうに返事をした。なんだかんだでレオンは面倒見がいいんだよね、助かるなぁなんて思っていたら、ライドさんが私をじっと見つめている。なんだろう?
「どうかしました?」
「……先ほどは怒鳴ったりして悪かった。傷も治してもらい、住む場所まで提供してもらってなんと礼を言ったらいいか」
「ああ、気にしないでください。そもそもはおばあちゃんが始めたことだし、私はただここでお手伝いしてるだけなので。最初は色々と大変だと思いますけど、慣れるまで私もサポートしますので、困ったことがあったら遠慮なく言ってくださいね」
「ああ、恩に切る」
ライドさんはそう言うと静かに微笑んだ。ってわあ、何その微笑みの破壊力!心臓がやばい。どうしてこう、異世界から来る迷子の人たちは見目麗しい人たちばかりなんだろうな。なーんて思っていたら、ズイッと私とライドさんの間にレオンが割り込んできた。うわぁ、なんでかすごい不機嫌そう。
「話は終わりだな、俺たちは部屋に戻る」
「あ、うん。ありがとう。ミリアちゃんもありがとうね」
「ううん、そんじゃ私も部屋に戻ろうかな。またね!」
こうして、ゾロゾロと玄関からみんなが出ていく。今回もなんとか迷子を無事に助けられてよかったなんて思っていたら、一番後ろを歩いていたレオンが玄関先でクルリと振り返る。どうしたんだろう?
「後でもう一度来る。あの男の今後のことも色々と相談したいしな」
「わかった。待ってるね」
文句言いながらもこうして色々と考えてくれるから、レオンはやっぱり優しくて頼り甲斐がある。嬉しくなって思わず笑顔を向けると、レオンは一瞬だけ嬉しそうに口角を上げて、廊下へ出ていった。
*
「ライドさん、大丈夫そう?」
「ああ。こちらの世界について説明はしたが、特に混乱した様子はなく淡々と話を聞いていた」
ライドさんを部屋に案内して一通り説明をしたレオンは、また私の部屋にやってきた。ライドさんの様子を聞くと、特に問題はなさそう。よかった。
「ライドさんが言っていた国の名前、聞いたことない国だったね」
「そうだな、今までここに来た異世界人の中に同郷はいなさそうだ」
「一人でも同郷の人がいれば寂しくないだろうけど、そううまくは行かないもんだね」
紅茶の入ったカップを両手で持ちながら小さくため息をつくと、レオンは眉を下げて微笑んだ。
「うまくいく方が稀だろう。別に同郷の者がいなくても、俺もミリアも他の奴らもここでそれなりに楽しく暮らしている。ノゾミのおかげだ」
「えええ、急に褒めても何も出ないよ」
「照れるなよ、好意は素直に受け取れ」
うっ、そう言われると余計に照れちゃう。普段は無愛想なくせに、たまにこうやって優しいことを言ってくるからレオンは油断ならない。これだからイケメンは!と思っていると、レオンは時計を見てからカップの中に残った紅茶を一気に飲み干した。
「もうこんな時間か。詳しい話はまた明日にしよう」
「そうだね、色々とありがと。あっ、ちょっと待ってね!」
席を立ったレオンに声をかけて、私は台所へ向かう。冷蔵庫からタッパを何個か取り出して、手提げ袋に入れてレオンに渡す。
「おかず、何品か作っておいたから食べて」
「いつも悪いな」
「ううん、レオンにはこちらこそいつも力になってもらってるから。あ、でもこれからはライドさんもいるから、少し多めに作るようにするね」
今まではレオンの分だけで済んだけど、ライドさんもレオンの部屋に住むんだからライドさんの分も作らないと。そう思って言ったら、レオンは急に不機嫌そうな顔になる。
「あいつにも食べさせないとダメか」
「それはそうでしょう!一緒の部屋なんだし、レオンだけ食べるのなんかおかしいよ」
「まあ、そうだけど……」
なんでそんなに不機嫌そうなんだろう。レオンの顔を見ながら首を傾げると、レオンは罰の悪そうな顔をする。
「ノゾミの手料理をあいつも食べるのは、なんか気に食わないと思って」
え、何それ、急になんでそんな可愛いこと言うの?やばい、なんか嬉しくて顔が熱くなってきた。レオンに対してこんなになるなんて違うのに……どうしよう、顔、赤くなってるよね、絶対。だって、私の顔を見てレオンは目を大きく見開いていて、何ならちょっと嬉しそうだ。
「……ふっ、まあいいや。ノゾミのその顔を見れたから良しとする。それじゃ、また明日」