14 アサシン
「レオン……?」
レオンの尋常ではない様子に驚いていると、ぼそり、とレオンの知り合いと思われる男性からなにかぶつぶつと呟く声が聞こえる。
「ろす、殺す、絶対に殺す」
ハッとして声の方を見ると、おどろおどろしいほどの殺気と夜叉のような表情をした男性がレオンを睨みつけている。殺す?レオンのことを殺すって言ったの?
「ディオ、ディオ!」
隣にいた女性が、必死に男性を腕を掴んで揺らしている。ディオと呼ばれた男性は我に返って女性の方を見た。さっきまでの殺気が消えて、優しそうなごく普通の男性の表情に戻っている。
「帰ろう、二人の家に。ね?」
「……あ、ああ」
女性は私の方を見て小さくお辞儀をすると、男性の手を取って歩き出した。男性も女性の歩く方へ足を向け歩き出した、けれど。一瞬、レオンの方を睨みつけた瞳が、まるで心臓を凍らせてしまうほどの恐ろしい瞳でビクッとする。
「うっ!」
二人がいなくなって、すぐにレオンは口元を抑えて横を向いた。
「レオン!?」
「うっ、おえっ、はっ、はあっ」
吐きそうなのに何も出てこない。でも、レオンはあまりにも苦しそうだ。どうしていいかわからず、レオンの背中をさすることしかできない。
「ご、め……」
「いいよ、いいんだよ、気にしないで。そんなことよりも大丈夫?何か飲んだ方がいい?水とか買ってこようか?」
そう言った私の手を、レオンはガシッと掴んだ。レオンの顔は、酷く不安げで苦しそうだ。
「……どこにもいかないでくれ」
その言葉に、私は目を大きく見開いてから大きく頷いた。
「うん、大丈夫。どこにもいかない。私はレオンの側にいる。大丈夫。落ち着いたら、帰ろう?」
そう言うと、レオンは小さく頷いて呟いた。
「……早く帰りたい、あの家に」
*
「レオンを殺すって言った男がいるぅ?」
遊園地から帰って来た私は、レオンを部屋まで送りレオンが寝付くまでレオンの側にいた。レオンが寝た頃にミリアちゃんたちが帰って来たので、共用スペースでミリアちゃんたちにディオと呼ばれる男のことを話している。
「何よその男、うちのレオンとノゾミンの仲を引き裂こうとしてるってこと?うちの最推しCPの平和を脅かそうなんていい度胸だわ。返り討ちにしてやろうじゃない」
ミリアちゃんはそう言ってパキッパキッと指を鳴らす。ええ、なんでそう言う話になるの?
「その男、もしかするのレオンと同郷かもしれないな。だが、ノゾミやノゾミのじじいに保護されたわけでもないのになぜこの世界で生きているのか」
ラースが考え込むように唸る。
「私も不思議なんだけど、その男の横に女の人もいて、その人はこっちの世界の人っぽかったの。もしかしてその人に拾われたのかな」
「運よく助けてくれた人がいたってこと?」
「たぶん。その人に向けた視線はすごく穏やかだったもの」
話を聞きながら、ノルンさんは片手を頬に添えて困ったような顔をしている。
「レオンはその男と会って、あり得ないほど動揺し、吐き気を催すほどだった、と」
「……うん。あんなレオン見たことなかった」
「詳しく調べてみる必要があるな。ノゾミ、その男女の特徴を詳しく話せ。それから、じじいにもこの件を報告しろ」
「わかった」
ラースにそう返事をしてから、ふと自分の両手をみると少し震えていた。あのレオンが命を狙われている。そう思うだけで胸が苦しい。不安で胸がいっぱいだ。両目を瞑って深呼吸すると、ライドさんの声がする。
「レオンの元の世界のことは何か聞いていないのか?」
ライドさんの瞳が私をジッと見つめているけれど、私はそれを見つめ返しながら、否定するように首を振る。
「レオンと初めて出会ったとき、レオンは瀕死の状態だったんでしょ?」
ミリアちゃんにそう聞かれて、私は静かに頷いた。
「ライドさんと出会ったときよりももっと酷い状態で、でも、出会ってしまったから、見捨てることができなかった。おじいちゃんに治癒魔法をかけてもらって、ずっと看病していたの。意識が戻るまでも、レオンはずっとうなされていて……見ていて辛いほどだった。だから、目が覚めてからも詳しいことは聞く気になれなくて」
私がそう言うと、ミリアちゃんが私の目をジッと見つめてぽつり、と言葉を発した。
「……たぶんなんだけどさ、レオンはアサシンだったんだと思う」