11 急接近
「レオン、ですか?えっとそうですね、たまに部屋へ来ますね」
ライドさんの問いに首をかしげつつもそう答える。どうして急にレオンの話になったんだろう?
「そうか……他のみんなは?」
「んー、ミリアちゃんもよく遊びに来ますね。ノルンさんは、ミリアちゃんに無理矢理連れて来られるような感じですけど」
「ラースは?」
「ラースさんは絶対に入れないです。そもそも、異性の異世界人を部屋にいれるなってレオンやおじいちゃんにきつく言われているので」
それを聞いて、ライドさんは小さくため息をついた。
「レオンも異性の異世界人だと思うけど?」
「あっ、えっと、それはですね、レオンは私が一番最初に拾った異世界人ですし、信頼してるので」
そう、レオンとは絶大な信頼関係がある。レオンを部屋に入れて困ったことや危険に思ったことは一度もない。
私の返事を聞いて、ライドさんはまた小さくため息をついた。なんだろう?私、何か気に障ることを言ってしまっただろうか?
「二人は、恋人とか、そういう仲ではないんだよな?」
「?えっ、違いますよ」
「それでも、信頼関係があるから部屋にあげる、か。……ミリアやラースたちに、ノゾミを気に入る気持ちはわかるがレオンとの仲を邪魔するなときつく言われているんだ」
えっ、そうなの?って、何それ!?ミリアちゃんたち、一体何を言ってるの!?
「だが、ノゾミはレオンとは別に何でもないと言うだろう。それなら、俺はノゾミを諦めたくない」
そう言ってライドさんはなぜか急にソファから立ち上がり、私の横へ座った。そして、私の両手を優しく握りしめる。……って、ええっ!?手、握られてる!?
「ノゾミは、異世界人とは恋をしないと言っていた。もし相手が元の世界に戻れることになったら、お互いに苦しくなるから、と。だが、この世界では元の世界に戻れる確率は低い。それに、もし戻れたとしても、それでもノゾミヘのこの思いを捨て去ることなんてできない。これから先どうなるかわからないのに、ノゾミを諦めたくないんだ」
ライドさんの手が、瞳が、言葉が熱い。熱すぎてそのまま溶けてしまいそうなほどだ。これは絶対にまずい。自分の中の危険信号が点滅してサイレンがけたたましく鳴っている。どうにかしてここから逃げないと!そう思ってライドさんの手から離れようとするのに、ライドさんは握る手を緩めず、むしろきつくなっていく。
「ノゾミとレオンの間に何もないなら、ノゾミがレオンのことを何とも思っていないなら、俺はノゾミを意識させたい。ノゾミは、レオンのことをどう思っているんだ?」
「どうって……」
ライドさんの質問に、どう答えていいのかわからない。レオンは大切な仲間だし、大好きな人だ。でも、その大好きはきっと恋愛の大好きとは違う。違うと思いたい、違わなければいけないのだ。
でも、それを言ってしまったら、何かが大きく変わってしまいそうで怖い。そもそも、違わなければいけないだなんて思ってる時点で……ううん、だめだ、それを考えてはいけない!
「……わ、わかりません!とにかく、レオンはライドさんやミリアちゃんたちと同じように、ただ大切な人です!」
「だったら……」
「と、とにかく、もうこの話はこれで終わりにしてください!」
ライドさんの手から強引に自分の手を引き抜いて、私はソファから立ち上がり、共用スペースから飛び出した。エレベーターホールへ向かって走り、エレベーターに乗り込もうとすると、降りてきた人にぶつかる。
「ご、ごめんなさい」
慌てて見上げると、そこにいたのはまさかのレオンだった。どうしてこのタイミングで出会ってしまうんだろう。
「部屋のチャイム押しても出ないからこっちに来てるかと思ったら……って、おい、どうしたんだよ?どうしてそんな顔……」
そんな顔ってどんな顔?顔を見られたくなくてすぐに俯き、私はエレベーターに乗り込んだ。自分の階を押して、とにかく閉めるボタンを連打する。ドアが閉まりかけた隙間から見えるレオンの目が、大きく見開かれた。
ガッ!
「おい、なんで閉めてんだよ」
レオンが両手でドアが閉まるのを阻止してる。ドアはあっけなく開いてしまい、レオンが当然のようにエレベーターの中に入り込んできた。無理、こんな時にレオンと二人きりだなんて本当に無理!
レオンはすぐに閉めるのボタンを押して、私へ体を向けた。怖い、怖い、絶対に睨まれてる。恐る恐る見上げると、レオンが眉間に皺を寄せながら、複雑そうな表情で私を見下ろしていた。