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1 異世界マンションへようこそ

「また、拾ってきたのか?」

「う、だって、出会っちゃったんだもの」


 私の言葉に、目の前の男はハァーっと大きくため息をついた。さらさらの黒髪に宵の明けの空のような色の瞳をしたイケメン。名前はレオン・シュナイザー。

 真っ黒な大きめのパーカーに細身のジーンズというシンプルな服装なのに、モデルか?といわんばかりのスタイルの良さ。いつ見てもかっこいいな。こんなかっこいい人が同じ現実世界にいることが信じられない。


 レオンの綺麗な瞳には、茶髪のセミロングになんてことない二十四歳の普通の女、つまり私が映っていた。こんなイケメンの瞳に映っているのが私なんかでなんだか申し訳ない気持ちになる。



 私の隣には、騎士みたいな服を着た銀髪の髪の毛にサファイア色の瞳の美しい男がボロボロになって座り込んでいた。


「ここは……どこなんだ?俺は一体……」


 銀髪のイケメンはそう言って、虚ろな瞳を私に向けてきた。わわっ、ボロボロなのにやっぱりめちゃめちゃかっこいい!思わずときめいていると、レオンがじとっとした目で見てくる。うう、視線が痛いよう。


「ここは、日本という国です。あなたにとっては異世界、というとわかりやすいですかね」

「……は?異世界?」


 銀髪のイケメンは眉を盛大に顰めて私を見ている。んんっ、そんな顔してもやっぱりイケメンで胸がときめ……いちゃだめですよね、はい。レオンの視線がなんだか痛い、痛いよ!


「あなたは異世界からこっちの世界に迷いこんできたみたいです。道端に倒れていたのを拾ってきました」


 私の言葉に、銀髪の男は信じられないという顔をして呆然と私を見ている。まぁそうですよね、そういう反応にしかならないと思う。今までだって何度も見てきた光景だもの。


「ここは、異世界からきた迷子を集めたマンション……ええと、人が住むお屋敷みたいな所ですね。あなたにも、ここに住んでもらえたらと」

「何を言ってるんだ?俺が、異世界で迷子?ふざけるな!俺は任務中だったんだ!早く戻らないと、……クッ!」


 立ち上がろうとするけど、ボロボロの体はあちこち負傷してるんだろう、痛みですぐにしゃがみこんだ。


「お前、治癒魔法は使えないのか」


 レオンが尋ねると、銀髪のイケメンはレオンを睨みつける。


「お前は何者だ!帝国の兵か?作り話で俺を騙そうとしても無駄だ、それとも、これは錯乱魔法か幻覚魔法か?」

「……はぁ、錯乱魔法でも幻覚魔法でもない。さっきも説明された通り、お前は迷子だ。そして、俺も異世界から来た迷子で、ここに住まわせてもらっている」

「は……?」


 レオンの言葉に、銀髪のイケメンは絶句した。そう、レオンも異世界から来た迷子で、このマンションに住んでる。



 このマンションは、祖母の管理するマンションだ。祖母は若い頃に異世界へ迷い込み、異世界で生活したまるでラノベやアニメの登場人物みたいな人。


 そして偉大な魔術師と恋に落ち、結婚して幸せに暮らしましたとさ、……となるはずだったんだけど。


 ある日突然、祖母は異世界からこっちの世界にまた戻ってきてしまったんだそうだ。なぜ戻ってこれたのかもわからず、なんの前触れもなく、突然こっちに帰ってきてしまった祖母を、祖父は血眼になって探したらしい。祖父は祖母のこと、すごい溺愛してたからそれはもう発狂寸前だったみたい。


 そして、偉大な魔術師だった祖父は異世界とこちらの世界を繋ぐ魔法を自ら作り出しちゃって、祖母に会いに来た。これだけでもなんかすごいし、いやいやそこまでいくと作り話?って思っちゃうけど、二人はあちらとこちらの世界の二重生活を開始しちゃったんだって。


「そうしているうちに、こっちの世界にも異世界から迷子がやって来ていることに二人は気づいたそうなんです。大抵は瀕死の状態で迷い込んできてそのまま死んで消えてしまうことが多かったみたいだけど、こっちの世界でもなんとかたくましく生きていこうとする異世界人もいることを知った祖父母は、その人たちのために何かできないかと考えました」


 このマンションの成り立ちを話し始めた私を、銀髪イケメン異世界迷子はただただ唖然として見つめている。最初の頃は説明する私の方が戸惑って辿々しかったけど、もう何度も繰り返しているから慣れたものだ。


「祖母は異世界へ迷い込んだ時にとても良くしてもらったことをずっと感謝していて、自分もこちらの世界でそうありたいと思った。だから、このマンションを造って、異世界から来た迷子を保護している、というわけです。そして、私はそんな祖母からこのマンションを任されて、異世界人の皆さんと楽しく暮らしています」


「……信じられない。ここが異世界?俺が迷子?そんな……それじゃ、元の世界にはいつか戻れるのか?」

「うわっ!」


 私の話を聞いて、銀髪のイケメンは私の肩をガシッと掴んできた。め、目の前にものすごいイケメン!異世界のイケメンはレオンも含めてたくさん見てきてるけど、やっぱり耐えられない、心臓がやばい!


「おい、気安く触るな、離れろ」


 ギリ、と銀髪イケメンの腕をレオンが掴む。うわぁ、めっちゃ怒ってる。銀髪イケメンの腕へし折りそうな勢い。


「レオン、大丈夫だから、とりあえず落ち着こう?ね?」

「俺は落ち着いている。こいつが失礼なだけだ」


 レオンの形相に銀髪イケメンは慌てて手を離して私から離れた。ふー、心臓がいくつあっても持たない。


「す、すまない」

「ああ、いえ。それで、元の世界についてですけど、祖父母が行き来している世界はひとつだけなんです。迷子の人たちは様々な世界からいらしてるので、確実に帰れるかと言われると正直難しいとしか言えないですね……」

「そう、なのか……」


 私の返事に、銀髪イケメンはしゅんとうなだれた。ああ、いつものことだけどこの瞬間が一番苦しい。でも、帰れますよきっと!なんて気休めの言葉は吐けない。そんなの、相手に対して誠実じゃないもの。


「とりあえず、傷の手当をしましょう。あと、お名前をお聞きしてもよろしいですか?あっ、私の名前は田中望です。望が下の名前で、田中がファミリーネームですね」

「タナカ、ノゾミ……?俺はライド・アルベルトだ。バレンド王国の騎士をしている」

「ライドさんですね。こっちはレオン・シュナイザー。もしわからないことがあれば、レオンに色々と聞いてください」

「はぁ?なんでいつも俺なんだ」

「古株なんだから良いでしょう。頼りにしてるよ、レオンくん」


 私が笑ってレオンの肩をポンポンと叩くと、レオンははぁーっと大きくため息をついた。それと同時に突然、ピンポーン!とチャイムが鳴ってがチャリとドアが開いた。


「やっほー!ミリアちゃんだよー!てか玄関開けっぱなのやばくない?無用心すぎるよーって、あれ?また迷子の人?なんか騒がしいなって思ってきて見たら、やっぱりそうだったんだ」


 入ってきたのは、薄いローズピンクの髪の毛に制服姿の女の子、今はこっちの高校に通っている女子高校生のミリア・リーベルだ。


「あ、ちょうど良いところに来た!ミリアちゃん、この人に治癒魔法かけてくれない?」

「うわぁ、めっちゃ怪我してるじゃん!どっかの騎士の人?おけー!ミリアに任せてっ!」


 ミリアちゃんはそう言うと、ライドさんの足元に座り込んで両手をかざす。するとミリアちゃんの両手が光り、ライドさんの怪我がみるみるうちに治っていった。


「治癒魔法……」

「ほい、できたよ!んで、あなた来たばっかりっぼいね?服もどっかの騎士服じゃん。この人どーすんの?どこの部屋?」

「どーしようか迷ってるんだ。最初から一人で生活は無理だから、いつも通り誰かと一緒の部屋にしたいんだけど……やっぱりそうなると、レオンの部屋?」

「断る」


 ちらっとレオンを見たら、バッサリ断られた。わああ、すいません。レオンならそう言うと思ってました。


「でもさぁ、そうなると他に住める部屋なんてノゾミンの部屋だけじゃない?現時点では他の部屋、新人さんと相部屋にするには色々と問題ありでしょ?」


 ミリアがそう言うと、レオンは盛大に眉を顰めた。うわぁ、イケメンが台無し……と言いたいところだけど、そんな顔しててもイケメンだから恐れ入ります。


「まぁ、そうなるよね……レオンのところがダメとなると、必然的に私の所になっちゃうけど」

「は?こいつは来たばかりの血気盛んな迷子の騎士だぞ。一緒の部屋になってお前に危害を加えでもしたらどうするんだ」

「……女性に対してそんなことはしない。そもそも助けてもらった身だ」

「うるさい、新人は黙れ。とにかく、男を同じ部屋に住まわせるなんてダメだ」


 急にレオンがキャンキャンと吠え出した。ライドさんが困った顔をして私を見る。うう、うちのレオンがなんかごめんなさい……。


「じゃあレオンの部屋に住まわせてあげてよ。できないならライドさんは私の部屋へ来ることになるけど」


 私がそう言うと、レオンははぁーっと盛大にため息をついてから、ライドさんを見てチッと小さく舌打ちする。こらこら、舌打ちなんて失礼なことやめてほしい。


「わかったよ、だけど今だけだからな」

「よかった!それじゃよろしくね」


 両手を広げてばんざーいと喜ぶと、レオンは頭をかきながらハイハイ、と仕方なさそうに返事をした。なんだかんだでレオンは面倒見がいいんだよね、助かるなぁなんて思っていたら、ライドさんが私をじっと見つめている。なんだろう?


「どうかしました?」

「……先ほどは怒鳴ったりして悪かった。傷も治してもらい、住む場所まで提供してもらってなんと礼を言ったらいいか」

「ああ、気にしないでください。そもそもはおばあちゃんが始めたことだし、私はただここでお手伝いしてるだけなので。最初は色々と大変だと思いますけど、慣れるまで私もサポートしますので、困ったことがあったら遠慮なく言ってくださいね」

「ああ、恩に切る」


 ライドさんはそう言うと静かに微笑んだ。ってわあ、何その微笑みの破壊力!心臓がやばい。どうしてこう、異世界から来る迷子の人たちは見目麗しい人たちばかりなんだろうな。なーんて思っていたら、ズイッと私とライドさんの間にレオンが割り込んできた。うわぁ、なんでかすごい不機嫌そう。


「話は終わりだな、俺たちは部屋に戻る」

「あ、うん。ありがとう。ミリアちゃんもありがとうね」

「ううん、そんじゃ私も部屋に戻ろうかな。またね!」


 こうして、ゾロゾロと玄関からみんなが出ていく。今回もなんとか迷子を無事に助けられてよかったなんて思っていたら、一番後ろを歩いていたレオンが玄関先でクルリと振り返る。どうしたんだろう?


「後でもう一度来る。あの男の今後のことも色々と相談したいしな」

「わかった。待ってるね」


 文句言いながらもこうして色々と考えてくれるから、レオンはやっぱり優しくて頼り甲斐がある。嬉しくなって思わず笑顔を向けると、レオンは一瞬だけ嬉しそうに口角を上げて、廊下へ出ていった。



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