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「さて、と。じゃもう帰ろうか。」
まるでなんでもないふうに言われたその一言が、何故か酷く重く感じた。
フワリと、風が通り過ぎた。
目の前に広がるのは見慣れた帰り道。
何だか夢を見ていた気がする。このすっきりとしないもやもやした感覚は、夢から覚めた時独特のもの。
内容を思い出そうとしても、思い出せなくて気持ちが悪い。
あぁ・・・まったく、何なんだ。
額に手を当てて軽く頭を振ってみるが、この不快感は拭えない。
「先輩!」
「・・・如月さん?」
振り返ると、ポニーテールを揺らしながらこちらへ駆け寄ってくる彼女。
いつもの光景であるはずなのに、なにかが胸に突っかかった。
「? どうかしたんですか?」
子首をかしげて見上げてくる彼女に笑いかけた。
思い出せないのなら、きっとそんな大切なことではなかったのだろうと勝手に解釈して。
「なんでもないよ、如月さん。」
曖昧に、笑った。