土曜日三時の散歩道
同棲丸一年。遂に、拓人とケンカをした。
内容はこうだ。
「脱いだ服、床に置いたままにしないでよ!」
「ごめん」
いつもはここで終わっていたが、さすがに丸一年は長過ぎた。
「何度も言わせないで!」
「…………」
「言いたくて言ってるわけじゃないからね! 言わせてる拓人が悪い!」
「愛菜も……」
言いかけて言葉をつぐんだ拓人を、私は見逃さなかった。
「なに? 言いたいことがあるんだったら言えば?」
「食べ終わったお皿、すぐに流しに持っていかないじゃん。洗い辛いんだよ!」
「今それ言う? そん時に言えばいいじゃん!」
「言ってたわ! もうちょっと待って~って言ってスマホいじってて、いつもカピカピになってたんだよ!」
それで言い合いになって、口をきかなくなって二時間が経過……。
今まで、注意をされた方は謝る……の流れしかしたことなかったから、今回のケンカは初めてだ。
思えば、拓人は負けず嫌いだ。二人で勝負をすると、いつも、「俺の勝ちだな」と自慢げに笑っていた。
今回の拓人は絶対に謝ってこない気がする。
そんなことを考えていたら、三時になった。
土曜日の三時は、二人で散歩をして買い物をするルーティンになっていた。
拓人は黙って、いつものように玄関で靴を履きはじめた。気が重かったけど、私も靴を履いた。
しばらく、お互い黙って歩いてたけど、
「俺、この先もやると思うんだ」
と、突然、拓人が喋り始めた。
「一年も注意されてるのにできないなんて、無意識だ。なんか、もう、できる気がしない……」
「…………」
「俺、できないよ」
え? ちょっと待って。こんなことで私たち別れるの?
嫌だ。嘘だ。もう少し頑張ろうよ。
「だから、俺が愛菜のお皿をやるから、愛菜は俺の服をやってほしい」
「へ?」
意表を突かれた。
拓人は、じっと私の反応を伺っている。
私が怒ってる間、拓人は仲直りの方法を考えていたのだ。同様に腹が立つはずなのに――相当な愛を感じます。
素敵な発想とその愛に、思わず、ふつふつ笑いが込み上げてくる。
不機嫌だった私が思わず笑ったもんだから、拓人の表情も柔らかくなった。
「いい案だろ?」
「……はい」
「俺のこと、愛菜は腹が立ってただけだったろ?」
「……はい」
「俺の方が好き度は上だな」
「…………」
「俺の勝ちだな」
負けたけど、悔しいのか嬉しいのか分からないなぁと思う。
そして、『惚れた弱みじゃなくて、惚れた方が勝ち』。
お互いが幸せになる、なんて素敵な発想なんだろうと思った。
読んでくださって、ありがとうございました。
「小説家になろうラジオ大賞」の応募作品です。
「寝言」で恋人同志になったバージョン、「散歩」で仲直りバージョンです。もう恋愛ネタがありません。