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もしも過去を変えられるなら  作者: 空西 結翔
第二章 未来の君から過去の私へ
9/17

2ー5

 私が戻った過去。それは、被害者が遺書を書いた時だ。どこで書いたのかなどは知らないが、この時計は好きな時間好きな場所に行けると書いていた。そして、それは曖昧なものでも良い。


 目を開くとそこは学校の教室だった。私は隠れそうな場所を探し、掃除ロッカーに入った。


 そして、しばらくしてから被害者と思われる男子と一人の少女の声が聞こえてきて、そして教室に入った。


「ねえ。真澄用の遺書でも書かない?」


「お前はあいつを殺すつもりか?」


「あはは。違う違う。自殺した時用に私たちが代わりに遺書を書いてあげるだけだよ」


「なるほどな! でも、俺は字が汚いし·····」


「大丈夫だって! 死ぬ直前に書く遺書なんて字が震えてそれはもう汚い字になるに決まっているじゃない?」


「確かにそうだな! なんて書けばいい?」


 ノートをビリビリと破く音が聞こえる。ノートを破ったのも被害者本人だったのだ。


「そうだねぇ·····。『自分のやったいじめについて酷く責められ、自分もクラスからいじめの標的になってしまいました。もう耐えきれません。本当にごめんなさい』って感じかな?」


「ちょっと、長いって! 最初からゆっくり言って!」


 そうして遺書はゆっくりと書かれていった。


 事件の根幹となる今を見逃すことに苦しさを感じているが、私にはどうしようもないことだ。


 しかし、少女の顔が見えない。声はどこかで聞いたことがありそうなんだが·····。


 隙間から見ようと身体を動かす。しかし、運悪くロッカーをゴンッと蹴ってしまう。


「誰!?」


 少女が音に気がついてロッカーに近付いてくる。

 まずい。絶体絶命だ。


「そこに誰かいるの!?」


 少女はバタッとロッカーを開ける。


「·····誰もいなかった。気のせいだったのかな」





「ハァハァ·····。あっぶねぇー」


 間一髪、私は三十分の時間が経ったことで未来へと戻ってこれた。


 そして、ロッカーの隙間から真犯人の、少女の顔を見ることに成功した。


「まさか、あの容疑者自身が真犯人だったなんて·····」


 彼女は時島颯という名前だった。


「しかし、なぜ自首をしたんだ?」


 自分が犯人なら自首する意味が分からない。それも嘘を付いてまで。


 彼女の嘘は遺書についてだ。

 被害者本人が書いたものを、自分が字を真似て書いたということ。


 嘘を付くということは、逆に言えばそこに知られたくないことがあったということ。整理して答えを導くんだ。


「そもそも、遺書が被害者本人が書いたものであった場合どうなるんだ?」


 自殺で片付けてしまった方がよっぽど都合が良かったじゃないか。なぜあえて、犯人は自分だと自首をしたんだ。


「以前、私が助けた人に真澄さんという人がいました」


 ずっと黙っていた志木さんが急に話し出す。


「真澄さん·····?」


「彼女は颯さんの恋人らしいです」


「えっ!?」


 容疑者の恋人のことを、志木さんは知っている。


「颯さんはノートに遺書として、当時のいじめっ子を殺したことを打ち明けました」


「いじめっ子·····。つまり、被害者のことだな?」


「はい。そして、人殺しの自分が真澄さんに振り向いてもらえるわけがないのに、と悔やみ颯さんは自殺を何度も繰り返しました」


 容疑者は人殺しについて、ケジメのために自首したというのか。自殺を繰り返してまで、つけたかったケジメ·····。


「ん? 自殺を繰り返した?」


「真澄さんが何回も過去に戻ったんです」


「ちょっと待て。容疑者の少女も人殺しを悔やんで自殺をしたんだろ? なぜ彼女の前に志木さんのような時間救出隊が現れないんだ?」


「はて·····。私たちの記録に颯さんの名前は載っていませんでしたが?」


「おいおい。それって、つまり·····。少女は人殺しを悔やんでいなかったってことじゃないか」


 彼女は人殺しを悔やんでいたんじゃない。ノートに書いた遺書の内容は、過去と未来を繋いだ綺麗なものなんかじゃない。それすらも全てが真っ赤な嘘だったんだ。


「彼女は真澄さんが苦しんでいたイジメを、被害者の男の子にやり、ついには殺した。その被害者にしたイジメそのものが、真澄さんの苦しんでいたものだと後から気が付いて、死ぬことにしたんじゃないのか?」


 容疑者は、人殺しを悔やんでいたのではなく、真澄さんが受けていたような、イジメ()()()()を嫌悪したんだ。


 しかし、これはただの推測に過ぎないということを忘れてはならない。なぜなら、これだと容疑者が真澄さんのイジメに加担するようなことをしたことに説明が付かないからだ。


 イジメという行為そのものを嫌っていたなら、真澄さんをより苦しめるようなことをするわけがなかった。


 何にせよ、好きな人をもイジメることができる容疑者の異常さは計り知れない。


「私は、もうこの事件について知らない方がいいのかもしれない。これ以上首を突っ込むと、私は殺されかねない·····」


 未来を繰り返すわけにはいかない。そして、未来の自分と約束した。事件には二度と関わらないと。もうこれ以上は知らない方が身のためだ。


 真実はほとんど分かった。容疑者が真犯人であったことも。被害者は騙されていたことも。


 もうそれで十分じゃないか。これ以上知ると、私の心は壊れてしまいそうだ。


「もうよろしいのですか?」


 志木さんが聞く。


「ああ·····。私はもう手を引くことにする」


「そうですか。では、契約はこれにて終了ということで、ありがとうございました」


 志木さんはそう言って、スッと消えてしまった。


「ありがとう、か·····。感謝を言いたいのは私の方だ。ありがとう、志木さん」


 これで未来は良い方に変わっただろうか。そんなことを考えながら、私の運命を大きく変えることになった一日は幕を閉じた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


この物語は第三章に続きます!

更新がいつになるか分からないので、ブックマークしてお待ちください!

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