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もしも過去を変えられるなら  作者: 空西 結翔
第二章 未来の君から過去の私へ
7/17

2ー3

『あの事件について振り返ろう。まず、過去の私が最初に疑問に思ったであろう、遺書についてだ』


 遺書。


 ノートをちぎったものに書かれた、「自分のやったいじめについて酷く責められ、自分もクラスからいじめの標的になってしまった」という文章。


 私はそれについて、被害者本人が書いたものではないかと疑った。そこには不可解な点があったからだ。


『あの遺書は確かに、被害者本人が書いたものだった。だが、あれは書かされたんだ』


「は? 書かされた?」


 書かされた。


 遺書を書かされた。


 意味が分からない。遺書というものは自分が死を目前にした時に、自分の意思で書くもの。他人に強制的に書かされていいものでは決してない。


 そして、それだけのことができる上の立場がいるということ。何か弱みを握られていたのか、或いは包丁や銃などを突き付けられていたのか。


「だ、だが、書かされたのなら、元々字が汚かったとはいえ、もっと字が震えていたはずだろう!? 死を目の前にして怖がらないわけがない!」


『違うんだ。元々あの遺書は、別の人用に書いたものだったんだ』


「おい、ちょっと待て。それはどういう意味だ」


 別の人用の遺書が自分のものになってしまったということか? だとしたらなぜ?


 ──他殺。


 私が最初に上げた可能性のうちの一つ。遺書が自分で書いたものでかつ他殺だった場合。加えて、遺書が自分の意思で書いたものではなかった時。それが何らかの形で容疑者の少女が自首した理由に繋がるというのか·····?


『容疑者の少女には恋人がいただろう? あの遺書は彼女用に被害者本人が書いたものだったんだ。彼女は被害者にイジメられていただろう? その一貫の遊びだったということらしいんだ』


「だが、それだと遺書の内容は誰がどうやって決めたんだ? まさか、あんなにピッタリに内容が一致するわけないだろう?」


 ──自分のやったいじめについて酷く責められ、自分もクラスからいじめの標的になってしまった。


 この文章はそう簡単に誘導して書けるものではない。


『被害者は騙されていたんだよ。彼女がイジメられていたのは、過去の彼女によるイジメが原因だったって。だから被害者も彼女を攻撃した。そしてそれは次第にエスカレートしていき、自殺の遺書を偽造するよう指示された』


「つまり、この事件の真犯人は、元から被害者を殺すつもりでイジメに加わらせたというのか?」


 あまりにも常識を逸している。人はそう簡単に殺せるわけがない。そんな簡単に殺せるというのなら、それはもう本物のサイコパスではないか。


『そうだ。そしてその時の遺書を保管しておきながら、真犯人は次の行動に移った』


「被害者をいじめる·····」


『そう。その遺書の通りになるよう、真犯人は矛先を上手く誘導したんだ。そして全てが計画通りに行き、真犯人は被害者を突き落とした』


「·····」


 普通ではありえない。それほどまでに人を上手く操るなど。


『そしてこの事件の本題。真犯人についてだ』


 ──真犯人。容疑者が庇おうとする存在。


『彼女の名前は時島·····、はっ!? うっ·····うぐぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 電話の向こう側からとんでもない叫び声が聞こえた。


「お、おい! どうした!?」


 俺は普通じゃないことを察して声をかける。しかし、すぐにそれは間違った行為であることに気付く。


『·····ねぇ。誰と話してたの?』


「·····!?」


 電話の向こうから微かに声が聞こえる。中性的な声だ。


『·····もしもし』


「君は誰だ?」


 恐らく今俺が話しているのは真犯人だろう。最後に少しでも会話ができれば、何か分かるかもしれない。


『そっちこそ誰?』


「私は·····」


 待て。今あっちに未来の私がいるというのに、過去の私がいるなどと言っても、きっと伝わらない。


「私は、そこにいる戸川の過去の戸川だ」


 けれど、下手に嘘を付くわけにもいかなかった。現状どうなっているのかは分からないが、きっと拘束されたか、或いは監禁のような状態にあるのだろう。そんな状況で、人質と引き替えに現金や物資を要求されでもしたら対応できなくて自分を殺すことになる。


 自殺を図ったというのは、真犯人から解放されるためだったのか、はたまた監禁の苦しい状態から死のうと·····。


 考えれば考えるほど苦しくなる。そんな状況にならざるを得なかった自分に申し訳ない気持ちになる。


『過去·····。そっか。過去の·····』


 今ので納得した·····? それなら──!


「話をしよう! 少しだけでいいか──」


『ビーッ、ビーッ、ビーッ·····』


 電話が切れた。私は絶望した顔で、ずっとそばにいたスーツの男に顔を向ける。


「·····これって」


「戸川さん。大変申し上げにくいのですが、未来のあなたは死んでしまいました。私は今後、今の戸川さんを担当することになります」


 ·····死んだ? 今、死んだって言ったよね·····?


「·····あ、·····あっ、·····ああっ·····、うあああああっ!!」


 抑えきれずに泣いてしまう。助けられなかった。私には助けられなかった…!


 その事実だけが私を苦しめてくる。目から涙が溢れる。心臓が張り裂けそうなくらいに痛い。胃から全てを吐き出しそうなくらいに気持ち悪い。


「未来には行けないのか·····?」


 少し落ち着いてからスーツの男に聞く。

 未来に行って私自身を助ける。そして、真犯人を·····。


『残念ながらできません。ですが、あなたは未来を変えられます。まだそれは起こっていないのですから』


 未来を変えたきゃ、今を変えろということか。私のこれからの行動に、自分の運命は全てかかっていると。決してどこかで間違えてはいけないと。

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