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もしも過去を変えられるなら  作者: 空西 結翔
第二章 未来の君から過去の私へ
5/17

2ー1

 数年前、とある学校で飛び降り自殺があった。その事件は自殺として処理されていたのだが、ある日突然、その事件の犯人を名乗る少女が自首をした。


 記者である自分は彼女の自首に何があったのかを調べることにした。そもそも、この事件はそこまで広まっていたわけではなく、小規模で片付けられていたために、当時のことを調べるのはなかなかに困難を極めていた。


 しかし、それでも記者魂というものが私にはある。事件の全容を知ることは不可能だったが、何か引っかかることがあった。



 自首した少女は当時の事件についてこう語った。


『遺書というのは、僕が彼の字を真似して書いたフェイクです。紙は、休み時間中に彼のノートをこっそりとちぎって使いました。そうすれば、紙の切れ目が一致し、遺書は彼の書いたものだ、と思い込ませられると思ったからです』



 しかし、被害者のノートのページはたったの一枚だけしか破られていなかった。

 被害者の字はかなり汚く雑だった。かと言って、字に特徴がないわけでもない。部分的にやけに字が大きくなったり、ハネルべきところで全くハネていなかったり。線も安定せずにグニャグニャとしていた。

 それはまさに男子が書くような字であり、女子が見よう見まねで、しかもたったの一回で書けるものでは到底ないのだ。

 相当量の練習をすればまだ分からないが、わざわざそこまでのリスクを背負うだろうか。


 そこで私はこう推察する。あの遺書は被害者自身が書いたものだと。自首した少女は何らかの理由で誰かを庇うために、自ら名乗りを上げたのではないかと。その"誰か"というのが被害者の男の子か、それとも容疑者の恋人である女の子かは分からない。


 しかし、私の推察が正しいとすればおかしなことが浮上する。



 ──なぜ被害者は遺書を書いて死んだのか?


 自殺という観点で見るとそれは至極普通のことである。しかし、少女に彼の自殺について罪を被る必要性はないはずだ。


 他殺だとすれば、なぜ被害者は自分で遺書を書いたのか。自分が殺されることを分かっていて、遺書を書くわけがない。それなら警察にでも相談した方がよっぽどマシだ。



 要するに、遺書は少女ではなく被害者本人が書いたものだと仮定すると、この事件には更なる裏側が隠されている可能性があるのだ。


 正義のヒーローぶるつもりはないが、もしも真実が意図的に隠されているのだとすれば、事件が再び起こる可能性も考えられるため、それを未然に防ぐべきだ。


 こんな不確定なことを警察に持っていったところで証拠不十分で追い返されるだけ。自分で調べる他ない。







「私、記者の戸川(とがわ)というものです。お話よろしいですか?」


 児童自立支援施設にて、弁護士立ち会いのもと、容疑者の少女と面会をした。未成年なこともあり、少女の名前は知らない。そもそも、今回の面会は特例で認められている。


「·····はい」


「なぜ今になって自首をしようと思ったのでしょうか」


「·····私の恋人と話し合ったんです。彼女は私のしたことを知った上で、全てを受け入れてくれました。でも、彼女のためにもちゃんとケジメを付けるため、自首しようと思ったんです」


「なるほど、分かりました。次の質問に移ります」


「はい」


 今の会話は単なる導入に過ぎない。今回の面会の本題はここからだ。


「遺書は本当にあなたが書いたものなんですか?」


 少女は少し驚いたような顔をして、そして不気味とも言える笑みを浮かべて答える。


「はい。もちろん私が書きました。今になって何の話でしょうか? もしかして判決に対して何らかの疑問を持っているんですか?」


「いいや。そういうことではないです。記者としての単なる好奇心と言った方が良いでしょうか」


「そういうことですか。私は全ての真実を話しました。そこに嘘などは全くもってありません」


 彼女は真剣な顔をして言う。しかし、さっきの不気味な笑みは一体何だったのだろう。そして遺書について話した時、明らかに動揺していた。彼女は確実に何かを隠している。そんな気がしてならなかった。

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