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もしも過去を変えられるなら  作者: 空西 結翔
第一章 過去の私から未来の君へ
4/17

1ー4

 ──選択。


 私の嫌いな言葉だ。


 違う方を選べば一生後悔することになるかもしれない。





 颯は人殺しをした。


 私のために自分が犠牲になった。


 それを一人で背負って生きるのに後ろめたさを感じ、自殺を決意した。


 颯はまだ生きていたかった。




 私は自殺をしようとした。


 颯が自分を犠牲にしてまでいじめから守ってくれた私の命を、捨てようとした。


 そして辛い過去を変える方法を手に入れた。


 私は颯を救いたかった。





 私の生きる理由は、颯と一緒にいられること。


 颯さえ生きていればいればそれでいい。



 ──颯が生きる理由は?



 そうだ。


 私は覚悟を決めた。


 今度は必ず颯を助け出してみせる。


 時計のボタンを押した。


 颯が自殺する、その前へ。







「颯!」


 私はロープを手に持った颯の肩を掴んだ。


「真澄!?」


 誰もいないはずの家に、突然私が現れたのだからそれは驚くだろう。


「颯。自殺なんてしちゃダメ!私は颯を助けたいの」


「助けたい、だなんて軽々しく口にするものじゃないよ。僕は生きている方が辛いのに」


 私のセリフだ。私が初めてスーツ男に出会った時に思った言葉だ。


 でも、今は違う。生きていたからこそ今があるんだ。


「私、颯の過去のこと全部知っちゃった。信じてもらえないかもしれないけど私ね、未来から来たんだよ」


 私が颯に言いたかったことを、一つ一つ丁寧に伝える。


「信じるさ。真澄のことだもん。きっとあのノートを未来で見てくれたんだよね」


「うん。颯、私ね、颯がいなくなってから生きる意味を見失って、自殺しようとしたの。そしたら、変な怪しい男が出てきて、過去に戻る力を手に入れた」


 颯が驚いた顔をしていたが、気にせず続けた。


「だからね。私の生きる理由が颯であるように、颯の生きる理由を私にしてくれないかな」


 私は無理に笑顔を作る。


 死んで欲しくない。絶対に生きてて欲しい。


「でも、僕は人殺しだよ?真澄はそんな人と一緒にいたくなんてないでしょ?」


「ううん。関係ない。私のためにやったことなんでしょ? 私は颯のこと、受け入れるよ」


「真澄⋯。ごめんね。本当にごめんなさい」


 颯はしばらく泣いていた。今までずっと一人で抱え込んで来たんだ。当時中学生だった颯には、かなり辛いことだったに違いない。


「僕、警察に自首するよ。僕のしたこと、全部話す。刑務所を出たら、また僕と仲良くしてくれる?」


「もちろん!颯のこと、ずっと待ってるよ」


「じゃあ、これはもういらないね」


 颯はノートを取ってきた。


 私が未来で読んだノート。


 過去の颯と未来の私を繋いだ大切なノート。


 颯はそれをビリビリに破いた。


 そして、全てから解放されたように、スッキリしたような顔をしていた。




 そろそろ時計の効果が切れる。身体がどんどん薄くなってくる。


「また未来で会おうね!真澄!」


「次死んだら許さないんだからね!颯!」


 私達は笑顔で別れた。


 未来での再会を願ってーーー。











 私は児童自立支援施設の前で颯を待っていた。


 颯が殺人をしたのが13歳だったこともあり、刑事処分の対象にならなかった。


 今日は、二ヶ月の児童相談所による一時保護を終えて戻ってくる日だ。


 颯はとても反省しているらしく、保護期間を延長する必要はないという。


「真澄!」


 颯が門の向こうで手を振った。


「颯!」


 全部、全部上手くいったんだ。


 颯が走ってきて私に抱き着いた。


 私も精一杯の力で抱き着いた。颯の温もりを感じる。颯が生きているんだ、という実感がした。


「あらあら。二人とも仲良しなんだね」


 職員の人がそう言った。


「いえ、恋人です!」


 私は大きな声でそう答えた。


 職員さんがちょっとびっくりした顔をしている。


 なぜなら、私も、颯も、"女の子"だから。


 颯は僕っ子なのだ。そういうところもかわいいと思う。







 もうすぐ、今年が終わる。


 ──ピンポーン。


「はーい」


 私は、家のチャイムがなるやいなや、階段を駆け下り、家のドアを開けた。


 目の前には私の恋人がいる。


 「さぁ入って入って」と、私は中へ促す。


「「かんぱーい!」」


 今日はパーティーだ。



 スーツの男は、用が済んだからと、時計を回収して、さっさとどこかへ去ってしまった。彼は、別れる前に、自分のことを"悪魔"だと言った。でも、私にとっては"天使"だ。この目の前の幸せな世界が、全て物語っている。


 彼は今もどこかで、誰かを救っているのだろうか。





「ずっとやりたかったことがある」


 私はそう言って、颯の耳元まで近付いた。


 ちょっと恥ずかしかったけど、私は勇気を出して言う。



 ──キス、してもいい?



 除夜の鐘が全国で鳴り響く。


 窓の外には真っ白な雪が降っていた。

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