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もしも過去を変えられるなら  作者: 空西 結翔
第一章 過去の私から未来の君へ
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1ー2

「いやー、暑いねぇ」


 道ですれ違う人の話し声が聞こえる。夏。セミの鳴く声が頭に響くほどにうるさい。スマホには7月28日と書いてあった。この日だ。颯が交通事故にあったのは。


 ここは事故の起こった場所。もうすぐ颯がやって来るはずだ。颯を追いかけた形にするため、私の家の近くで待ち伏せをした。


「なんなんだ、真澄のやつ。僕じゃないって言ってるのに!」


 私と喧嘩して怒った颯が、家から出てきた。私は颯を久しぶりに見たことで、泣きそうになって身体が動かない。


 だめっ。動いて。早くしないと颯が⋯。


 何とか気持ちを持ち直して、颯に駆け寄った。


「颯! ごめん、私の勘違いだったみたい。お兄ちゃんがこっそり私のお菓子を食べてたの」


「·····えっと、真澄。なんで泣いてるの」


 颯が困惑した顔でそう言う。


「えっ?」


 私は自分が泣いていることにさえも気付かなかった。颯が今ここにいる。それがどれだけ嬉しいことか。


「ゔぇーん。良かったよぉぉ。颯。颯!」


 私は泣き崩れた。服が汚れるのなんて気にせず、膝を地面に着け、颯に抱き着く。


「どうしたのさ、真澄。僕こそあんなことで怒っちゃってごめんね」


 颯は私の頭を優しく撫でる。


「うん!」


 私は、泣きじゃくった声でそう答えた。


 ドーーーン!!!

 二人だけの時間を壊すように、大きな音が鳴った。

 車が車道を外れて歩道に突っ込んだのだ。原因は飲酒運転。私は目の前にいる颯の存在を何度も確かめる。


 生きている。良かった。


「真澄! 何か事故があったみたい。行ってみよ!」


 この角を曲がったところなので、颯はそう言うと行ってしまった。


 私の身体が徐々に薄くなっていく。もう時間だ。未来でまた颯に会えるんだ。とにかく、それだけが嬉しかった。


「颯。また未来で会おうね」










 ──何も変わっていなかった。


 未来で颯はまた死んでいるのだ。


「なんで! 私はあの時ちゃんと助けたのに! どうして。どうして…」


 おかしい。この目で颯が生きているのを確かに見た。


「運命はなかなか変えるのが難しいんですよ」


 スーツの男はそう言った。


「どういうこと?」


「運命とは、言わば決められたゴールのようなものなのです。例えば、家から学校に行くとして、電車で行ったとしても、バスで行ったとしても、歩いて行ったとしても、結局は学校へ着くのです。


 手段を変えたところで、"死ぬ"という運命からそう簡単には逃れられない、というわけです」


「なんだよそれ。私は颯を助けられないってこと?」


「いいえ、運命を変えられないとは言っていません。颯様に運命的な出来事を与えれば良いのです」


「運命的な出来事?」


「はい。それを見付けられるかは真澄さん次第ですよ」






 そういうわけで、私は颯を助けるために色々と調べた。


 今回の颯の死亡理由は、電車での人身事故だった。


 近くにいた証言者によると、何者かに押された可能性が高いらしく、他殺として捜査されていたが、結局何の手がかりも掴めずに、お蔵入りとなったらしい。


 颯。今度こそ助けに行くからね。


 時計に付いたボタンを押した。





 場所は渋谷駅。颯はここで電車に轢かれて死んだ。


 電車が来るまであと五分しかなかった。颯を探さなければならない。どこにいるのか。私は颯を必死に探した。今ここで見付けなければ、颯はまた死んでしまう。


 ーーいた。


 人混みの中に姿がちょっと見えた。私は早く颯の元へ行きたいのに、人が多すぎてなかなか進まない。


 ──早く!


 私が颯に近付けたのは、電車が来る直前だった。


 颯の身体が線路の方へ傾いていく、すんでのところで、私は手を掴んで引っ張りあげた。

 目の前を通る電車の風は、颯の髪の毛を勢いよくなびかせる。


「颯! 大丈夫!?」


「真澄!? どうしたのこんなところで」


「どうしたの、じゃないよ。颯。危なかったじゃん」


 今度こそ確かに助けた。スーツ男の言う、"運命的な出来事"のため、私は颯をベンチに座らせた。


「颯、あのね。私、颯のことがずっと好きだったの」


 颯が驚いたような顔で私を見る。


「実は僕も真澄のこと、好きだったよ。ずっと前から」


 私たちは笑い合った。そして付き合う約束をした。二度と颯を死なせないために、ちゃんと私はやってみせた。そろそろ次の電車が来る。私は颯を見送ったあと、未来へ戻った。









 今度こそ颯と会える。


 そう思っていたのに、なぜ。


「私は颯に告白した! 付き合う約束もしたのに! あれは"運命的な出来事"じゃなかったって言うの!?」


 未来でも颯は死んだままだった。


 そして今回の死因は首吊り自殺。


 何かがおかしい。なぜ颯は自殺なんかしたんだ。




「気付いているんでしょう? 真澄さん」


 スーツの男がどこからともなく現れた。


「気付いているって何に?」


「とぼけないでください。颯様が、あの電車での事故の時、自殺を図っていたことにですよ」


 そうだ。颯はあの時、自分から身体を投げ出しているように感じた。


 それに、颯は、助けられたことに対して、"ありがとう"とは言わなかった。そう。自分が死ぬ寸前だったことに気付かないフリをしたのだ。


 私は、心のどこかでそれを分かっていながらも、そんなはずはない、と勝手に否定していた。


 でもなぜ? 颯が自殺する理由はどこにある?



 私は、スーツの男が言っていた言葉を思い出した。


『人間の皆様が自殺する理由の大半は、過去の出来事が原因なのです』


 そうだ。過去だ。颯の過去に何かがあったに違いない。


 私は颯が過去に何をしたのか調べることにした。





「な、何も出てこない」


 颯の過去にこれといって、自殺するような理由になりそうなものは、一切見当たらなかった。


 私は家に帰ると、教科書やノートでいっぱいになった机の上に、知らないノートがあることに気が付いた。


 なんだろう、と思って開いてみる。


 私は、そのノートに書かれていた内容に目を疑った。

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