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もしも過去を変えられるなら  作者: 空西 結翔
第一章 過去の私から未来の君へ
1/17

1ー1

第一章は、別投稿の短編小説『過去の私から未来の君へ』の修正版です。大きな変更はないため、既読の方は第二章(2ー1)から続きが読めます。

 ーー後悔。


 あの時、こうしていれば良かったのに。


 選択を間違えた自分が嫌いだ。憎い。


 消えてしまいたい。


 全部、自分のせいだ。


 本当だったら、あの子は今、私と一緒に笑っていたかもしれない。


 冷たい風が、頬を撫でる。


 私は、今、マンションの屋上に立っている。


 転落防止の安全柵を乗り越え、下の景色が見渡せる場所まで来る。


 私、真澄(ますみ)は、これから死ぬ。


 自分には"生きている価値"などないから。


 あの子がいないと、意味がないのだ。







 三ヶ月前のこと。


 私は、友達だった(そう)と喧嘩をした。


 颯は中学からの幼馴染で、よく家に遊びに来るような仲なのだが、今回の喧嘩は、本当に大した理由じゃなかった。


 私の部屋に隠しておいたお菓子がなくなっていたことで、私は颯を犯人だと決めつけてしまったのだ。

 それで怒った颯は、家を出て行ってしまった。



 そして、そのすぐ後のことだった。町中に響き渡るように、凄まじい音が鳴ったのは。


「誰かが轢かれたみたいだぞ!」

「交通事故だ!救急車を呼べ!」


 外で騒ぐ人の声が聞こえ、私も気になって様子を見に、外へ出た。


 なんとなく、嫌な予感はしていた。

 運の悪い宝くじを引くように、その予感は当たってしまったのだ。


 車に轢かれたその人の顔には、見覚えがあった。


 さっき怒ったまま家を飛び出した、颯だった。




 そこからはよく覚えていない。

 血まみれになって転がっている颯を眺めて唖然とする私を、誰かが支えてくれていたような気もする。

 どちらにせよ、颯はもうこの世界にいないということを悟った私は、それから、全くと言っていいほど部屋から出なくなってしまった。


 カウンセラーの先生は私に「あなたは悪くないよ」と言った。けれど、私は先生の話に一切耳を貸さなかった。だってあの時、颯を犯人だと決め付けなければ、事故は起こらなくて、颯は生きていたはずなのだから。





 颯の部屋から見付かったノートによると、颯は私のことが好きだったらしい。私も颯のことが大好きだった。そう、私と颯はお互いに想い合っていた。でもなかなか勇気を出せず、結局付き合うことはなかったのだが。


 中学生の時に、同じクラスで席が隣同士だった私達は、趣味が同じであることに気が付き、色々話しているうちに、次第にお互いのことを意識するようになっていた。


 趣味と言うのが、ミステリー小説だった。

 私達は、お互いに好きな本を紹介し合った。


 巧妙なトリック、意外な犯人。どの本も面白かった。颯は、アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」が好きなんだと言った。とても有名な小説で、私も読んだことがある。


 しかし、いつからか颯は本を読むのをやめた。




 ちょうどそのくらいの時期だったか。私は小学校からの続きで、中学校でもいじめられていた。でも私は、颯に会うためだけに学校へ頑張って通い続けた。しかし、私と仲が良かった颯にまで、クラスの人達はちょっかいを出すようになった。それから少しして、颯は学校を休みがちになった。私も学校へ行く理由がなくなり、不登校となってしまった。



 私が学校に行かなかった間、当時いじめの主犯格だった男子が死んだ。飛び降り自殺だった。古びたマンションだったため、防犯カメラはなかったが、屋上には靴と遺書が添えられていたことから、警察は自殺として捜査を進めた。


 遺書には、自分のやったいじめについて酷く責められ、自分もクラスからいじめの標的になってしまった、と書いてあったという。図々しいというか、なんとも自分勝手だな、と思った。




 そして私も今、屋上にいる。彼もこんな気分だったのだろうか。


 颯がいない中、私はよく三ヶ月も耐えたと思う。


 勇気を出して前へ一歩踏み出す。


 もう後戻りは出来ない。


 覚悟を決めて、私は空へ身体を投げ出した。





 その時だった。


「「本当にそれでいいのですか?」」


 誰もいないはずの屋上でそんな声が聞こえた気がした。え?と思って振り返ろうにも、もう遅い。


 私の身体は既に宙を舞っていた。心の内側にしまったはずの、死ぬことへの恐怖によって、私の意識はだんだん消えていった。


 「仕方ないな」と、どこか遠くの方でそう聞こえた気がした。





 目を覚ますと、私は、自分の部屋の布団で横になっていた。夢だったのか。でも、あれは確かに現実だった。自殺に失敗したのかもしれない。


「私が助けました」


 どこからともなく声がした。私は驚いて周りを見渡す。

 「ここです」と、目の前から声がした。


「なんで助けたの」


 私はソイツを睨んだ。生きている方が辛いのに、軽々しく"助けた"なんて言わないでほしい。背が高く、キッチリとしたスーツを着た若い男性だった。


「あなたは後悔しているのでしょう?」


「だからなに」


「私はあなたを助けたいのです」


 この人は何を言っているのだろうか。


「申し遅れました。真澄さんを担当することになりました、志木です」


 そう言うと、彼は名刺を胸ポケットから取り出し、渡してきた。


時間救出隊タイムレスキューチーム?」


「えぇ。人間の皆様が自殺する理由の大半は、過去の出来事が原因なのです。我々は皆様に過去を変える権利を与え、今を満足に生きて頂く、というお仕事をしております」


 過去を変える? この人は何を言っているの?


「もちろん、無料(ただ)でというわけにはいきません。過去を一回変える毎に、真澄さんの寿命から一年分を頂戴します」


 この人が言っていることに理解が追い付かないが、死んでいたはずの身、迷う理由がなかった。


「やらせていただきます。颯を助けたいんです!」


「そうですか。ではこちらの契約書にサインをお願いします」


 彼は分厚い契約書を机の上にボンと置いた。私は力いっぱい自分の名前を書いた。


 絶対に颯を生き返らせる。そう強く願った。





「こちらの時計を押して頂くと、好きな時間に戻れます。しかし、過去での滞在可能時間は三十分です。詳しい説明書はこちらにありますので、どうぞ」


 てっぺんに大きなボタンの付いた、時針が曲がったヘンテコな時計を渡された。


 私はボタンを押す。

 

行こう。最後に颯と会った、あの日、あの時間へ。

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