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侯爵閣下の甘い罠 〜モニカサイド〜

作者: 松尾吏桜


 

ドタドタドタドタァーーー!!

 


「失礼致しまぁぁぁーす!!」

 


ゼェ……ハァ……ゼェ……

 


「ウチの上司……ゴホッ!見ませんでしたか!?」

「い、いや。見てないよ」

「そうですか!お騒がせしました」

 


再び静けさを取り戻した部屋で、一人が呟いた。

噂の鉄仮面の女秘書だ――と。



☆ ☆ ☆



モニカ=ルイスは、最難関の試験を突破した受験生では唯一の女性だった。



配属先は誰もが羨む、宮廷お抱えの魔法塔。

その中にある経理事務の仕事だ。


魔法塔を取り仕切るはメルキアデス侯爵閣下。

彼の存在で配属希望者が後を経たない。


 

( 誰もが羨むですって?そんなもん、なったら分かるわよ!絶対に後悔する部署だって)



モニカが配属されたばかりの時は順風満帆だった。

給料は高く定時上がり。

同僚も皆が親切で言う事なし!


必死の思いで勉強して良かったと、安堵していた。



しかし――そんな平和も半年で砕け散る。



何時ものように仕事をこなしていると、上長から呼び出される。不手際をしてしまったのかと不安になっていると、死刑宣告に近い人事異動を余儀なくされた。



「私が……侯爵閣下の……秘書?」

「うん。優秀な君を是非にと御本人からの希望だ」

「何故……私が。勿論、拒否権なんかは……」

「ある訳ないでしょ」


 

こうして最も目立つ地位に就く羽目になったのだ。


 

配属されて数ヶ月。今は幾ら目立とうが気にならない。それより仕事!!仕事が終わらない。


 

原因は、メルキアデス侯爵閣下。


 

彼は出勤すると、気付けばフラッと放浪するのだ。

デスクには山のように積み上がった書類達。半数以上が今日中のサインが必要な物ばかり。


 

秘書であるモニカは出勤早々まず彼をデスクに戻さないといけない。じゃないと仕事が全く進まないのだ。



数ヶ月前まで定時きっかりに退社し、同僚達と酒場に飲みに行くなど日々を満喫していたのに。



モニカの順風満帆な日々は、一気に地獄と化した。



中庭のベンチ。魔法塔のカフェ。魔法訓練所。

彼が出没するところに必ず現れるという噂の秘書。

 


無愛想で堅物と印象を持たれ、鉄仮面と呼ばれているのも風の噂で聞いている。



中庭に続く廊下を走っていると、侯爵閣下であろう後ろ姿をやっと発見した。

『逃すか!』と猛ダッシュで駆け寄り、呼びかけて始めて他に人が居ることに気付いてしまった。


 

「侯爵閣下!見つけましたよ!!……っえ」

 


彼の胸元に寄り添い、涙を流している綺麗な女性。

 


この国の第二王女であるラリ姫だった――



しまった……と思うが、もう遅い。

勢い良く声を掛けてしまい2人はモニカを見ている。ラリ姫は一瞬、睨みつけ侍女と去って行った。


 

「す、すみません……私、お邪魔してしまって」


 

メルキアデス侯爵閣下は苦笑しながらも、何も語らず。あっさりと執務室へと戻って行った。



確かに噂はあった。



メルキアデス侯爵閣下とラリ姫は愛し合っているが、姫が隣国へ嫁ぐことが決まり駆け落ちすると。



そんな2人が逢引きしている空間に乗り込んだ私。

…………なんて居た堪れない。



部署異動になってから、本当にツイてない。

 


年頃の娘が鉄仮面とあだ名で呼ばれ、デスクワークとは関係ない日々上司との追いかけっこ。

トドメには王族の逢引きを邪魔し睨まれる始末。



「仕事中に逢引きしてんぢゃないわよぉー!!!」

「お!落ち着いて」



久しぶりに経理部の時の同僚と酒場に来ていた。


 

あれから侯爵閣下は黙々と仕事をしていたかと思えば、定時になり『もう上がっていい』と一言。



秘書になってからは一度も定時上がりなど出来ず。

嬉しい筈なのに気持ちは余計に悶々としていた。



「人の気も知らないで!なによ!!」

「まぁまぁ。早く上がれて何が不満なんだ」

「……………………わかんない」



そう。分からないのだ。

2人が抱き合っている姿を見てから、モヤモヤが消えない。仕事中に女とイチャついてたから?何故なの。



「明日休みだから良いけど、飲み過ぎじゃね?」

「らいじょうぶやよ!もっとお酒〜」

「へい、お待ち!」



タイミング良くジョッキでお酒が運ばれてくる。

お酒は強くないが今は浴びるほど呑んで忘れたい。



「ちょっ!いつの間にこんな強い酒頼んだの?!」

「は〜?しらなぁ〜い!お酒ならなんでもいい〜」



……

…………


「ヒック……もう辞めれやるぅ〜あんなとこぉ」

「はいはい。それはシラフの時に考えよ」



同僚の肩に掴まり足元も不安定に歩く。

日付も変わり既に街路は人もまばらになっていた。


 

モニカはベロンベロンに酔っ払い『ふへへ……』と時折笑っており、完全に出来上がっている。



「俺、お前の家知らねぇよ」



途方に暮れた同僚は、モニカが相手なら間違いも起きないだろうと自宅へ連れて帰ろうとした。

その時。



ドンッ――



「ぁわわ!ぶつかって、すみませ…………っあ」

「…………」



☆ ☆ ☆



チュン、チュン――



「……ん……朝」



モニカは鳥の囀りで目を覚ました。

ぼんやりとした頭を抱え、辺りを見渡し覚えのない部屋で寝ている現状に気付く。



「スー……スー……」

「!??」



真横から寝息が聞こえ恐る恐る目線をやると、予想だにしない人物が裸で寝ていた。



「侯爵閣――――!!」



メルキアデス侯爵閣下が、あろうことか裸体で同じベッドに入っているではないか。



モニカは勢い良く起き上がろうとしたが、腰に痛みが走り無様にベッド下へ転げ落ちた。


そのままゴロゴロゴロ……と壁際まで転がり、布団に丸まった芋虫状態で必死に昨晩の記憶を辿る。



( 酒場から出てそれから、それから……)


 

「コ〜ラ。まだ体キツイのに何してるの?まだチェックアウトまで時間あるし、もう少し休もう」

 


頭上から掛かる声は、日頃とても聞き慣れた上司のもので間違いなかった。


 

布団のまま抱えられベッドへ戻される。

布団から顔を半分出しメルキアデスを窺い見ると、蕩ける笑顔で見つめてくる。



「何故ですか?!ラリ姫は?自分で言うのもアレですが、浮気するにしても相手を選んで下さい」

 

「なんでラリ姫?浮気なんてしないよ。俺はこう見えて何年もずっと一途だからね」



ラリ姫は恋仲ではないの?侯爵閣下の発言だと……



「やっと手に入れたのに浮気なんて有り得ない。これから嫌ってほど愛を伝えるから覚悟してて」



そう言って抱きしめ、チェックアウトまで眠った。



後日談――



「よお!」

「………………裏切り者」

「え?なんでだよ、上手く行ったじゃん。感謝してほしい位だよ。両想いの癖にいつまでも歯痒いし、侯爵閣下の嫉妬で俺殺されたくねぇもん」



侯爵閣下がモニカに好意があるのは周知の事実。

好きな子から追いかけられたくて逃げ回ってると、知らないのは追いかけている人物だけ。



※※※


次回は、メルキアデスサイドを書きます。

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