弱者↔強者
~千石ダンジョン7F
「なぁ、時雨、俺言ったよな?」
俺の胸ぐらを掴むのは我らがパーティのリーダーである安元。
「強くなれって言ったよな。このパーティにいたけりゃ」
俺はその言葉には答えられないでいた。
俺にはレベルアップに制限がある。
普通の人が制限なくレベルアップする中俺には制限があった。
それは
【獲得経験値が0.01%になる】
というとんでもなく重い制限があった。
「獲得経験値ダウンなんて甘えだよ甘え。気合い出せば強くなれっからよ」
安元はそう言うが。
強くなれって言われても簡単に強くはなれない。
だから、誰よりも思ってた。
(ステータスを奪えたらどれだけ楽だろうって)
こいつらは俺の苦労を知らない。
俺の呪いがどれだけ重いものなのか知らずにこいつらは強くなれなどと簡単に言いやがる。
簡単に強くなれたら苦労しないんだって。
だと言うのに強くなれ。強くなれ。
そして、次の言葉は
「分かってるよな?ダンジョンが出来てからの日本は数字が全部なんだよ」
俺を突き飛ばしてくる安元。
それからこう言ってくる。
「お前のステータス、ほんと笑うわ」
見せてきたのは俺のステータスと自分のステータス
名前:時雨 天馬
レベル:8
攻撃力:24
防御力:24
体力:450
特性:獲得経験値ダウン
名前:安元 コウジ
レベル:45
攻撃力:455
防御力:60
体力:4500
安元が口を開く。
「なぁ、俺はお前のベビーシッターじゃねぇんだよ」
ゲシッ。
倒れ込んだ俺を蹴りつけてくる安元。
しゃがみこんで俺の頭をバスケットボールみたいに掴んで聞いてくる。
「お前、ここで死ぬか?」
安元は洞窟の外を指さした。
遠くではゴブリンレジェンドというモンスターが俺たちを探し回っていた。
あいつに追われて俺たちはここに逃げ込んだ。
「学校の都合でお前を除け者に出来ないからなぁ。でも死んでもらえば除け者にできるんだよなぁ」
それから安元の取り巻きの木村が口を開いた。
「まったくだ。お前には価値がない。お前の数字は低すぎる。価値がない。安元さんを見てみろ。攻撃力455、日本全国を見ても高校生としては最高値だぞこれは」
仲間たちにそう言われて。
もう、我慢の限界だった。
そして決意した。
(スキルを使おう)
今まで封印してきたスキル。
もう使うしかないと思った。
俺のスキルは【ステータススワップ】。
使ったことはないが、ステータスを交換するスキルだ。
自分の攻撃力と防御力を入れ替える、みたいなスキルじゃなくて
自分の攻撃力と他人の攻撃力を入れ替える能力。
ただし条件がある。
その条件とは【相手に交換を申し込む】というもの。
これがキツすぎる条件だった。
普通に交換を申し出ても断れるのは目に見えてる。
実際1度別のヤツに交換してくれと申し出たことがあるが、当たり前のように却下された。
当然無言で交換を申請しても普通は気味悪がって却下される。
ならどうやって頷かせるか。
俺が考え出した答えはこれだった。
この世界の操作パネルは基本的に他人には見えない。
俺は自分の操作パネルを呼び出して操作する。
【項目を選択してください】
→スキル
→ステータススワップ
【どの項目をスワップしますか?】
→攻撃力
・防御力
【攻撃力を誰のどの項目とスワップしますか?】
→安元
→攻撃力
・防御力
・木村
【あなたの攻撃力と安元の攻撃力をスワップしますか?】
→YES
・NO
そこで俺はいったん操作を止めて安元に目を戻した。
そうして聞く。
「安元くん、アイドルが好きって言ってたよね?」
「あぁ。KBS48のことか」
「推しのメンバーがいるとかって話してたよね?」
「金松かな。俺はあいつが好きだ。金松のためなら死ねるぜ俺は」
そんな話をたまにしていたのを覚えてて用意してたものがある。
ゴソゴソ。
ポケットからとあるものを取り出した。
「そりゃおめぇ」
聞かれて答えた。
「金松さんのチェキってやつかな?いつも迷惑かけてるからプレゼントに買ってきたんだ」
ニチャァッ。
急に気色悪い笑顔を浮かべる。
「気が利くじゃねぇの、時雨ちゃんよぉ。受け取ってやっからほら、とっとと渡せよ」
俺はこう言った。
「ごめん、アイテムポーチの底の方にあるからさ、交換機能を使ってくれない?そっちの方が簡単だからさ。石ころと交換でいいよ」
俺はそこら辺に落ちてる石ころを指さした。
「石ころで?いいぜ別に。俺もお前からぶんどったとか言われても後で困るしよぉ。いちおう交換にしようか」
(馬鹿が……)
内心ほくそ笑みながら
俺は操作パネルに目を戻した。
【あなたの攻撃力と安元の攻撃力をスワップしますか?】
→YES
・NO
YESを押す。
「今交換申請届いてるはずだからさ、YESを押して欲しい。」
「おうよ」
ポチッ。
押したようだ。
「チェキチェキ〜」
ご機嫌なような安元を見ていると笑えてくる。
こいつは未だに何をされたのかについて気付いてない。
だが、次の瞬間やっと気付く。
【攻撃力:24を渡しました】
【攻撃力:455を貰いました】
「あん?」
交換後の表示は相手にも見えたのだろう。
俺を見てくる安元。
「お、おい、なんだよこれ!答えろよ時雨!」
俺は思いっきり口元を歪めて答えてやることにした。
「はは、はははは。引っかかった!傑作だこりゃ!君はとんでもない馬鹿だな」
ユラっ。
立ち上がって近くの壁を左手で掴んで思いっきり握りしめた。
バキッ!
パラパラ。
岩壁が粉々になって崩れていく。
「さすが攻撃力455だね。すごいや」
「な、何しやがった、てめぇぇぇぇぇ!!!!!」
俺は呆然としている木村に目を向けた。
「なぁ、木村。こいつどうする?安元くん攻撃力24だってよ。無価値な数字だったっけ?」
笑いながら聞いてやる。
あー。おかしい。
ほんとに面白いな。
真っ赤になってる安元の顔を見て聞いてやる。
「今の気持ち聞かせてくれないかい?一瞬にして強者から弱者になったときの気分を、さ」
「くそがぁあぁぁあぁぁぁ!!!!!」
怒り狂って殴りかかってくる安元を、
蹴り飛ばした。
ドカッ!
バキッ!
今までの鬱憤を晴らす。
こいつに溜めさせられたストレスを返品してやる。
もう、こいつらじゃ俺は止められない。
桁外れの攻撃力さえ手に入れてしまえば俺のペースだ。
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