ノアは何故、王宮から追放されたのか・・・過去編
ノアが記憶を失う以前、フィレノアーナ王女として王宮で生活していた頃・・・
「ふっ! 平民の分際で・・・」
王太子エルドラートは下級官僚の一人を掴み上げ、そして・・おもっきり床へと叩きつけた。
歯が折れたのであろう・・赤い血が床を流れる。
「貴様の血で汚れたではないか!」
王太子はもう一度、足蹴りをして、相手の顔を踏みつけた。
痛みと恐怖でうずくまり、息を荒くして苦しむ姿を見て・・彼はあざ笑う。
・・・実に平民に相応しい滑稽な姿だ。
王太子は、わずかに満足し、その場を立ち去った。
彼の暴力は日常茶飯事だった。何かに不満があれば、手近な者を殴る蹴るの暴力
数日前には 顔が気に入らないからと言って女官の一人を殴りとばし・・・それが原因で彼女は流産をしている。
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表立って口には出せないが・・・王太子の評価は最低最悪だった。
殴り蹴るなど暴力は当たり前、王太子として・・当然の権利だと考えていた。
しかも・・素行の悪さはこれだけではない。
彼は自分の欲望に従い国有財産に手をつけ、税金を横領し、貴族や商人から賄賂を受け取る。
さらに、気に入った女性などを強奪し、自分の宮殿に連れ込んでいた。
彼は国の法律や道徳を無視し、勝手気ままに権力を振りかざしていたのである。
内務卿のキヨウラ公爵は、彼の悪事を追及しようとしていたが、なかなか証拠が掴めなかった。
王太子という立場ゆえに、彼におもねる者も多く、逆らう者はほとんどいない。
しかも、直属の部下や手下に命令して、証拠を隠蔽したり、証人を口封じなどしていた。
だが・・・そんなある日、王太子の最側近でもあるゲルンラン城伯がとんでもないミスを犯した。
城伯領の隣接するリセル子爵領・・・城伯領に比べれば、遥かに小さく村程度の領地なのだが、
その地には有力な銀鉱山が存在した。
そう・・・ゲルンラン城伯は その銀鉱山の採掘権を奪おうとしたのである。
まず、権力を利用して・・自分の子息を無理やり、子爵の養子にした。
次に、子爵を暗殺し、自分の子息を後継者とする。
こうして、子爵領を乗っ取ったのであった。
しかし・・・その暗殺が内務省の捜査によって発覚した。
内務卿のキヨウラ公爵は、王太子の最側近でもあるゲルンラン城伯を逮捕することによって
王太子陣営の切り崩しができるチャンスと見た。
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ゲルンラン城伯は慌てたように 王宮のとある部屋に駆け込んだ。
「殿下! これは大変です! どうかお助けを! このままでは私は縛り首、一族が滅んでしまいます」
「わかってる! あの公爵は本当に厄介だ・・・いつも邪魔ばかりしてくる!」
「くっ、キヨウラ公爵! やつのせいで・・・」
自業自得ということを理解できないゲルンラン城伯は・・拳を握りしめ歯ぎしりをした。
「落ち着け・・・城伯! 俺の息がかかった者たちに裏工作をさせている。安心しろ!」
王太子は自信ありげに城伯をなだめる。
「おっ~、すでにですか! さすがです」
「ふっふっ! 大船に乗ったつもりでおればよい」
王太子の言葉によって 城伯の顔色が少し良くなったようだ。
「おっおお! 私は感服いたしました。まさに殿下は・・・この国の王となるにふさわしき人物です!」
「あっはは・・そう、褒めるなよ! だが、お前とは違い、あの公爵は俺を王太子の座から蹴落とそうとしている!」
「あの公爵なら・・考えそうなことですな! この国を統治するに最もふさわしい人物が誰なのか 分かってはいない!」
「そうだな! 俺を邪魔する者は消すにかぎる!」
王太子の口角があがった。
「・・・もっ、もしや!?」
城伯も口元がゆるむ。
「今は・・・父王が病で伏している。邪魔は入らないだろう! 公爵を始末するに今がチャンスなのだよ!」
「そうですな! 私も公爵には・・・この世から退場してもらいたいものです・・・ふっふっふっ」
「そうだろ! そうだろ!」
密室にて、二人の会話がなされていた・・・その二日後
キヨウラ公爵の屋敷に王室直属の近衛部隊が突入した。
そして・・・その近衛兵の先頭に立つのはゲルンラン城伯。
目的は公爵の捕縛、その罪状は・・・内務省における公金横領、外国勢力への情報流出、
さらには国王ヴァルト陛下の食事に毒を混入し暗殺しようと企んだ疑惑。
これらの罪状は一つとして軽くない。 これこそ・・・国家反逆罪だった。
この事件を暴いたのは内務省所属の職員アズマアル。
彼は愛国心が高く、内務卿キヨウラ公爵が行っていた陰謀に気づき、王太子に密告したのだ。
「我が国に アズマアル君のような信義にあふれる者がいて・・・余は誇らしくおもう」
王太子のありがたいお言葉を、職員アズマアルはたまわった。
しかし・・・これは全てシナリオ通り・・・嘘で固めた演技である。
すでにこの時点で・・王太子の根回しは完了していた。
キヨウラ公爵に味方する者には・・・全て脅しをかけていたのだ。
どんな人間でも叩けばホコリは出る・・・小さいミス、ちょっとした犯罪、または親類縁者たちを調査し・・・
脅迫するネタを探し出したのだ。
そして・・彼らを説得した! キヨウラ公爵に味方しないようにと・・・
実に良心的であろう。
もはや・・・公爵に味方する者はいない。
王宮内どころか・・・内務省内部にも手をまわすことに成功している。
王太子に逆らう勢力など存在しないのだ。
近衛騎士を率いて公爵邸に乗り込むゲルンラン城伯。
彼は満面の笑みを浮かべていた
ほんの前日まで・・・内務卿である公爵によって窮地に立たされていたのだ。
だが今や、立場は逆転し・・・反逆罪として追い込む側に回った。
「これはこれはお久しぶりです。キヨウラ公爵殿」
「貴様は・・ゲルンラン城伯! おまえの指金か! いや、背後にいるのは王太子だな!」
「殿下に対して無礼ですぞ! まぁ 私としては聞かなかったことにしてあげます。私は優しいですからね!」
「お前が優しいだと! リセル子爵の暗殺の証拠はあがっているのだ!」
「根も葉もないことをおっしゃるのは 身のためになりませんぞ! 公爵殿、私はこのカイラシャ王国の忠実な僕、犯罪なんておこないません」
「ぬけぬけと! 厚顔無恥とはお前の事だ」
「ふっ・・! 負け犬の遠吠えとは・・・落ちぶれましたね・・公爵!」
うすら笑うゲルンラン城伯は・・・近衛兵に命じて公爵とその一族を捕縛、
そして・・・貴族専用の監獄、涙の花園と呼ばれるコルン城へと連行された。
キヨウラ公爵は白髪交じりの髪をした中肉中背の男性。
彼は優秀な内務卿として 国内の悪事を次々と暴いてきた。
しかし・・王太子を敵にするには、あまりにも権力基盤が弱すぎた。
しかも国王が病に伏し・・・後ろ盾を失っている。
味方がいない。四面楚歌に陥っていたのであった。
その後・・・公爵はまともな裁判もかけられず・・一族もろともコルン城で殺された。
公的には病死ということになっている。
目の上のたんこぶ・・・キヨウラ公爵を排除に成功して、王太子は一安心をした。
おなじく・・ゲルンラン城伯も胸をなでおろした。
だが・・・一応、念には念をいれ公爵の一族を全員、排除しようと考えた。
公爵の血を引くもので唯一、罪に問われていないものがいたのだ。
エルドラート王太子の異母妹・・・フィレノアーナ王女である。
王女の母親は・・キヨウラ公爵の娘でありヴァルト王の側妃であったのだ。
残念ながら・・王女の母親は早くして亡くなっており・・この王宮内で公爵の血を引くものは王女だけであった。
そして、王太子にとっては フィレノアーナ王女は目障りな存在でもあった。
王宮内でのフィレノアーナ王女の立場はかなり悪く・・・いや! 最悪になっていた。
母方におけるキヨウラ公爵の反逆事件によって、腫物を触るがごとく避けられてしまう。
しかも世話をする侍女さえもだ。
王宮内での人たちは・・・なんとなく真実は理解していた。
公爵は王太子に陥れられて殺されたのだと・・・
しかし、それを言えば命が危ない。
それどころか・・・王太子は王女に危害を加える可能性もあったのだ。
その巻き添えになりたくないゆえに 周囲の人たちは王女との距離をとるしかない。
そして・・・・フィレノアーナ王女も気たるべき破局に備えるべく準備をしていた。
「キヨウラのおじい様・・・必ず復讐いたします。返り討ちにいたします!」
今は亡き母親からゆずり受けた魔導具の数々・・・
これらを使用して・・・我が身の安全を確保するのだ。
そして・・復讐。
もしかしたら・・・亡き母はこの事態を予想して、
娘のためにこれらの魔導具を用意してくれてたのかもしれない。
王女は・・・残念ながら魔法の特性を持っていなかった。
王族としては珍しいことだったので、
念のため、魔導協会で測定してもらったが やはり特性の確認はとれなかった。
( ちなみに特性とは・・その本人が行使できる魔法の種類、たとえば、火系魔法、水系魔法などの分類である )
魔法が使えない! それは仕方がない事だ。
それならば・・・これらの魔導具に頼ればよい!!
母親からゆずり受けた・・これらの魔道具を・・・
フィレノアーナ王女は、着用しているドレスのあちらこちらに・・・。
というか大半をスカート内に隠した。
(レッグホルスター的なものに 差し込んでいます。それはまるで西部のガンマン!
そう・・この魔道具の見た目は・・某異世界の某飛び道具に似ていたのである)
そして・・・ついにその日が来た。
あの王太子が・・・私の世話係をしていた侍女に接触してきたのである。
近頃・・・私との接するのを避けまくっていたあの侍女。
もはや侍女としての仕事を放棄しているといってもよいだろう。
そんな侍女に王太子は接触してきたのである。
「どうだ!? フィレノアーナが国王陛下に毒を仕込もうとしたと証言してほしいのだ! もちろん見返りも用意している」
「な、なぜ、王太子殿下・・・でも私は・・」
「断るというのなら・・お前だけではなく親族へも累がおよぶぞ・・
たしかお前の兄は、近衛騎士団に配属してたな!」
「えっ!?」
「お前が了承するなら・・・その兄にそれなりの地位を用意してやる。お前にも褒美をやろう!」
「まっ・・・・まことですか!?」
「ああ、約束する! 」
侍女は小さく頷いた。
「よし! お前は賢いぞ・・なら、さっ そくっ・・・ えっ!?」
その時、王太子は目を見開いた。
そう・・・二人のすぐそばにフィレノアーナ王女がニコニコ顔で立っていたのだ。
「お・・・おまえ!」
「フィ…フィレノアーナ・・・さま」
侍女は驚きと恐怖で声を詰まらせる。
「お兄様・・・いえ、罪人様! お久しぶりです」
フィレノアーナ王女は嘲るように話すと・・王太子は眼光鋭く王女を睨む。
「俺を罪人だと・・・その言葉・・・そのままお前にかえしてやる」
「へっぇ~ そうなの!?」
つまらなそうに返答する王女に対して・・すでに勝った気である王太子。
「フィレノアーナ! お前の悪事は明らかになった! この娘がお前の陰謀を証言することになったのだ。俺の勝ちだな」
「勝った!? 罪人様は・・・勝つということを理解しておられないようですね」
「なに!?」
王女はわずかにスカートをめくり 金属製の巨大な物体を取り出した。
いや! スカートになぜ・・・そんな巨大物体を取り出せるのだ!?
普通そんなものは入らないぞ! 無理だ! 無理!
目前で起きる・・理解不能な現象に困惑する王太子など気にせずに王女は言い放つ。
「勝つというのは…最後まで生き残ることですわよ。そう! 死ねば・・・敗者!」
そう、その巨大物体・カールグスタフ(無反動砲)を肩に担ぎ・・そして、王女は引き金を引いた。
ズドォォォォォォォォ―ンンッッ
後方へと噴き出す火炎・・バックブラストによって、壁に掛けられていた絵画が燃え上がる。
人がいなかったのは幸いであった。
フィレノアーナ王女が放ったのは無反動砲のはずなのだが、その反動によって 彼女は後方へと吹き飛ばされてしまった!
やはり、体格的に扱うのは難しかったようだ。
・・・とはいうものの、弾頭は間違いなく撃ち放った! 前方に向けて飛翔する黒い物体!
もはや、王太子に回避する暇もない。目前に迫る死の恐怖!
ドゥオオオォォォン
異世界のとある戦車をビックリ箱にしてしまうその威力が・・・次元を超え・・この世界で再現される!
そう! この無反動砲は、今は亡き王女の母親が・・・かつて、どこかの世界に行っていた時に 手に入れた魔道具だったのだ!
ちなみに・・・王女のスカートの中は魔導具によって時空ストレージになっており、
この程度の無反動砲なら納めることも可能だったのである!!
ガタガタガタ・・・突如、襲った地震のような揺れ、
舞い散る埃と白煙、様々な人々の叫び声、
ガラスが割れる音ともに・・・王太子のいた場所は壁ごと吹き飛ばされ・・・外から丸見えとなった。
「あっはははは・・・・これぞ天罰! これぞ正義! おじい様の仇! フィレノアーナ・・・王太子を討ち取ったなり!」
甲高い声が響き渡る。
王宮は大騒ぎとなった。
緊急事態! 駆けつける衛兵たち・・・だが白煙で何も見えない。
いったい何がおきているのか困惑したまま、周囲を警戒する。
そんな中を白煙の中から飛び出してくる少女!
スカートをめくりあげ・・笑い声を上げながら駆け走っていく・・・「きゃはははは~」
「フィレノアーナ王女様!?」
衛兵たちは驚いて声をかけたが、王女は一切無視して走り抜け・・・
そして、王宮から姿を消した。
それが、王女を見た最後の姿だった。
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「た・・・大変だ! 王太子様が・・・」
衛兵は叫ぶ・・・だが、その声は絶望へと沈んだ。
ダメだ! 亡くなられている! これでは助からない!
王太子の下半身は消滅しており・・残骸は肉片となり果てていた。
手足もバラバラとなっており、辛うじて顔の半分だけは原形をとどめている。
そのおかけで・・・王太子だと判明したのだ。
もちろん・・意識はない。
そんな死体の横では・・・腰を抜かしへたり込む侍女の姿があった。
どうやら、奇跡的に助かったようである。
衛兵たちは、王太子様の無残な死を目の当たりにして、動揺していたが、
ひとりの衛士だけは 気転をきかせ・・ある所へと駆け走っていった。
この日・・・この王宮には、たまたま治療魔導師が訪れていたのである。
しかも、天才と呼ばれ・・巷では聖女と称えられていた。
いかなる傷をも治すという奇跡の治療魔法を行使できる人物。
100年に一人の逸材ともいわれた。
名前をジャックリーヌ、黒髪と白い巫女服が印象的な若い女性である。
衛兵は王宮の一室にいたその治療魔導師・ジャックリーヌに助けを求めた。
もちろん・・・話を聞いた彼女はすぐさま立ち上がり、王太子の元へ急ぐ。
そして・・その現場の悲惨さに息をのんだ。
「こ・・これはいけません! すぐに魂を戻さないと」
ジャックリーヌは長い呪文を唱え始めたのである。
すると・・・周囲にばら撒かれていた王太子の肉片や血などが、集まりだし、
まるで逆再生するかのように・・・体が修復していく。
だが・・・これだけの惨事、普通の治療では追い付けない。
しかも、魂が肉体から離れてしまっている。
すぐにでも 連れ戻さないと、いくら治療しても死んでしまう。
それには・・・大量の魔力が必要なのだ。
患者が王太子でなければ・・・あきらめてしまうのだが・・・
ここで貴重な魔導アイテム・・・エンシェント魔石の使用に踏み切った。
このエンシェントには・・・大量の魔力が封じ込められており・・・その魔力を使って治療をするのである。
ただし・・・かなり高価であるので・・・某漫画の医者のようにバカ高い治療費を要求しなければなるまい!
というか材料費、必要経費ですからね!
ジャックリーヌは汗だくとなり・・・丸一日の間、呪文を唱え、
しかも貴重アイテム・エンシェント魔石を10個も使い潰していく。
そのおかげもあり・・・王太子の下半身は元に戻り、手足も修復、一応、治療は完了した。
少し・・・体に傷は残るが・・・数年すれば、自然に消えるはずである。
こうして・・・ジャックリーヌ、別名ホワイト・ジャックリーヌは、また一つ伝説を作り上げた。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)
P.S. ・・・ ホワイト・ジャックリーヌを呼びに行ったあの衛士はその後、
「奴を生き返らせるようなことをしやがって」などと陰口を叩かれることになる(かわいそ!)