渋滞しすぎた橋
青空を背景に、上空を遊弋するのは・・ノア、コサミ、シルンちゃんの空飛ぶ箒組
そして、その眼下には、地平線まで続く大河トーラスと・・そこに架かる石造りの巨大な大橋が広がっていた。
ノアはその大橋を鋭く睨み、決意を込めてターゲットに定める。
「あの橋を狙う。王都への物資供給を断つ・・いくよ!」
「は・・はい! ノア様」
『 やるっす! やるっす! 楽しみっす! 』
コサミ、シルンちゃんは同時に頷き、答えた。
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音もなく空を横切り、そして雨のごとく落下していく・・・謎物体!
その日、大河トーラスに架かるルヴァ大橋は黒く染まった。
甘く、美味しく、香りよく、そして粘つく。
まるで接着剤、いや! または某ホイホイのごとく・・虜にされる。
これぞノアの得意魔法・・チョココーティング
そう、ルヴァ大橋を渡ろうとしていた多くの荷馬車が、この黒き物体に絡め取られ、動けなくなってしまったのだ
一度へばりつくと、もう逃れられない!
狭い橋の通路で・・多数の荷馬車が立ち往生し、大渋滞を引き起こしていた。
しかも動けないのは荷馬車だけではなく、馬や人間さえも絡め取られて動けなくなってしまっていた。
「なに! どういうことだ」
「動かんぞ! 荷馬車が・・・いや、俺たちも、馬も動けん!」
そう、動けない荷馬車を、なんとかして動かそうと多くの人達、または橋を守っていた守備兵たちが集まってきたものの、
・・足元に広がるチョココーティングに絡め取られてしまい、その人達も動けなくなってしまったのである・・まさに二重遭難
人も荷馬車も絡み取られ混乱している間にも・・東西から続々と大量の荷馬車が橋へと殺到していき、より混迷を深めていく
そう・・一台も動けない。動かせない。
動けない荷馬車で橋の上はひしめき合い・・・人々の怒号、馬の叫びが鳴り響く。
そして・・大橋に繋がる街道に沿って長々と・荷馬車の渋滞が続いていくのであった。
「こんなとこで渋滞とは!」「戦争中にこれはないだろ・・」
「まずい! 今日中に王都までいかないと・・商品が腐ってしまう」
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そんな地上の様子を眺め・・ノアは高みの見物!
しかも・・悪辣な表情となりニヤリと笑う。
それはまるで・・災厄をもたらす魔王のごとくw
「下界の者たちよ、苦しめ!苦しめ!苦しむがよい! ほっほほほ」
こんな中二病的発言をするノアに・・・コサミちゃんはドン引きしてしまっていたのだが、シルンちゃんのほうは・・
『 いつもの ノア様っすね! 』・・とニッコリだった。
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王都ルヴァへと通じる東の街道上を・・地平線かなたまで渋滞してしまっている荷馬車の長い列・・しかも動く気配もない
そう、"マーケットブリッジ作戦"とは・・ルヴァ大橋を先頭にして、荷馬車による大渋滞を引き起こすことだったのだ。
それはすなわち、破壊も略奪もせずにして、王都への物資の流入を防ぐという狙いであった。
・・・と言いたかったが、略奪は起きていたのである。
それはソン・ゴクン率いる猿軍団・・または影忍たちのよるものなのか!
街道沿いで停止している幾つかの荷馬車が・・猿たちの襲撃を受けている様子が見てとれた。
商人たちも応戦しているようだが・・・如意棒を振り回す猿たちにはかなわず、逃げ惑っている。
そんな彼ら猿たちの 活躍または略奪によって・・・キヨウラ公国軍の物資が潤い・兵糧も潤沢。
まさに影の功労者なのであった。
ノアたちによる・・第一次作戦は見事に成功した。
計画通り、ルヴァ大橋は大渋滞に見舞われ、事実上の通行不能となったのだ。
・・・とはいえ、チョココーティングの接着力が永遠に続くわけではない。
いずれはチョコは溶けて・・いや、この寒さではなかなか溶けないかもしれないものの、いつかは溶けてしまう。
そう、問題はチョコが溶けてしまうまでの間、王都へ送る物資は停滞、停止してしまうことだった。(一種の兵糧攻め)
さてさて、王国側はこの事態にどう対処することになるのやら・・・
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王都防衛司令官・シラヤ子爵はこの事態に困惑した。
東方地域からの大動脈、街道の重要拠点・・ルヴァ大橋における妨害工作はあきらかに策略!
おそらくはキヨウラの手によるものであることは容易に想像できた。
そう、キヨウラ公国軍が迫ってきているのは間違いないのだ。
そして我らが・・橋の状況を打破するために・・幾らかの王国軍を出撃させたところを・・待ち伏せ攻撃するつもりなのだろう
「これは罠だ! もちろん分かっている! 理解しているとも! だが、決して放置するわけにはいかぬ」
このまま推移すれば、王都は物資と食糧の不足に見舞われ、住民たちの間に暴動が起こるだろう。
「対策を立てねば・・・ならん」
シラヤ子爵の心に深い焦燥感が広がる。
時は味方しない。なんらかの作戦が必要となるであろう、だがその前に敵の情報が欲しい。
しかもより詳しい情報、敵の位置や戦力、本陣の位置など・・・
「とにかく・・索敵だ。偵察部隊を送り出すしかない」
だが後日・・・その偵察部隊からの情報は、ほとんどもたらされなかった。
そう、偵察部隊の多くが・・猿の影忍部隊によって壊滅されたのである。
影に潜む彼らは、静かに忍びより、一人一人消し去られていく・・・
「まさか! 猿のぶんざいで!」「こ・・この猿は、やばい!」
「ぐわぁぁぁぁ」
偵察兵たちの無常な叫びがこだましたという。
しかも、この偵察部隊は・・王国軍にとって貴重な戦力・・正規兵によって編成されていた。
そう、偵察のような困難な任務は、正規兵にしか任せられなかったからである
「うっ 貴重な戦力を・・・ これでは戦場の霧、何もつかめないではないか!」
シラヤ子爵は敵の・・キヨウラ公国の諜報能力またはセキュリティの硬さに脅威を感じた。
間違いなく侮れない相手なのだ!
それであっても紆余曲折、かなりの損害は出したものの・・ある程度の情報を手に入れることに成功したのである。
敵の本陣は王都の東、ラクロットに構えており、イジャルと名乗る者が公王と称している。
魔王と呼ばれるフィレノアーナ元王女の姿は確認できなかったが、そのイジャルの妹らしき者・・・ノアという人物は怪しき魔導師、凄まじき波動を有しているとのこと。
「ノアか・・うむ、確かに怪しい。もしやノアは・・元王女なのか!?」
子爵は、ノアという人物に対してある種の疑問を抱いたが・・そんな一個人のことなど、どうでもよかった。
敵の要、公王と名乗るイジャルこそが、最大の脅威であり・・最大の敵。
「そう、我らの敵は・・・キヨウラ公国軍、そしてその中心人物、公王イジャル・・・」
子爵は呟き、拳を握り締めた。
敵の本陣はある程度・・判明したのだ。
そこで子爵は正規兵だけで編成した少数部隊による奇襲攻撃!・・を敢行すべきかと思案していた
戦力としては4000・・・数が少ない分、行軍も速やか、一挙に敵の懐へと駆け込むことができるであろう。
( 某異世界の桶狭間の戦い )
一か八かの勝負! かなりの賭けとなる。
子爵は呟き、副司令官に任命したムラディンにこの作戦案を語ってみたところ・・厳しい表情で首を横に振った。
「偵察部隊の損耗率からしても、敵の警戒は極めて厳重です。敵に知られず奇襲攻撃を行うことは、至難の業と存じます」
その意見に子爵も同意するのだが・・だからといってこの奇襲作戦を捨てるわけにはいかない。
そう、敵に気取られずにして敵の本陣へと駆け込む策を必要なのだ。
なにか良い策はないかと子爵は思案するのであった。
かくして、王国軍としての大規模な作戦行動は一時保留となった。
差し当たっての策として 損耗しても良い程度の兵数をルヴァ大橋に派遣し、事故処理!? 渋滞解消などに努めることにする。
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とりあえず・・・ノアたちによる第一次"嫌がらせ作戦"は成功したのである。
そう、戦争とは相手が嫌うことをすることなのだ。
そして・・次なる"嫌がらせ"作戦が始まろうとしていた。
「うちらの使命は・・・陰でこそこそと相手に見つからず、陰険で卑怯なことをすることが第一なのよ」
ノアによる子悪党発言・・・もはや主人公とは思えないほどの小物感
もちろん・・こんなことを聞いたコサミちゃんはドン引きしてしまっていたのだが、シルンちゃんの方は・・
『 いつものノア様っすね! 』・・とニッコリだったw
ノアたち空飛ぶ箒組は・・王都ルヴァの付近上空に接近していたのである。
青空に輝く太陽の光が、ノアたちの姿を王都から隠してくれる。しかし、これ以上の前進は危険であった。
王都の城壁には、いわゆる魔導結界・・・青白き障壁によって守られており、遠くからでも分かるほどの輝きを放っていた。
そしてさらに接近をすれば、障壁によって感知されてしまう可能性があったのだ。
「そんなに接近する必要はないのよね・・ここからで十分」
"マーケットブリッジ作戦"第二弾!?発動・・・・
イジャル君の了承もしているので問題なしw
「じゃぁ~ シルンちゃん・・お願いね」
『 はいっす! 』
そして始まる・・恐るべき魔導攻撃!
王都を震撼させ、多くの者たちを狂わせたあの悲劇の幕が開かれようとしていた。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)