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第一次王都防衛戦


若返りし青年となったヴァルト国王とその一行が、新たなる拠点を設けるべく東方の地へと旅立った後、

王太子から・・普通の王子へと降格してしまったエルドラードは、父王ヴァルトの命に従い、

王都ルヴァの防衛を固めるために奔走することになった。



しかし、人材がいないのである!

王位継承・・つまり王太子という地位の剥奪により、派閥は半壊、多くの者が離れていってしまった。

王太子派に属する面々は・・将来、王位をエルドラードが就くことを予想して集まった者たち(いわゆる腰巾着w)

ゆえに、国王から突き放されてしまった以上、この派閥に属する気持ちが失せてしまったのである。


しかもヴァルト国王は・・エルドラードよりも若くなってしまっている。

寿命も延びたであろう。つまりあと数十年は・・ヴァルト国王の治世がつづくことになるのだ。


自己中心的で横暴、暴力的な性格を持つエルドラードから 次々と側近が離れていくのは当然であった。



エルドラードにとっての一番の痛手は、最も信頼しており有能で、幼馴染でもあるデルテニア邦伯が、

国王ヴァルトとともに東へと去ってしまったことであった。


「邦伯め・・裏切りやがったか!」


エルドラードの怒りは、烈火のごとく煮えたぎり・・何度も何度も叫ぶ。

「奴め! 奴め! 奴め!」



だが・・エルドラードの元から去っていったのは彼だけではなかった。

カイラシャ王国における軍事部門の長・・軍務卿のラリュスも、国王とともに東へ去っていった。

彼の場合・・・国王の直属臣下であるのだから仕方がなかったのである。


他に・・・軍人として名高きプライバン伯も軍務卿ラリュスとともに東へと向かった。

その幕僚、参謀、文官、武官もあとに続く。


そう、有能だと思われる者たちのほとんどが・国王の後を追っていったのであった。


我がままで自己中心的、しかも廃太子されたエルドラードに・・将来性は無い。

それに対して・・・若さを取り戻した上に寿命が延び・・その後の治世の長さを考えみれば・・国王に従うのは当然の選択なのである。


つまり・・王都には"残りカス"しか残っていなかった。




エルドラードは、その事実を知り愕然とした。

壁を叩き・・今後の行く末に絶望してしまう。


「ど・・どうすればよいのだ。これで死守しろというのか!」


現在、王都にて滞在している最高級軍人は・・・シラヤ子爵。

かつて・・プライバン伯率いるキヨウラ討伐軍の参謀を務めていた人物、

ただし現在は・・横領の罪で謹慎中のはずなのだが・・堂々と王太子の前に現れたのである。


「王都の危機だと知りおよび、急ぎ参上いたしました」


そう、まさに! その言葉・・そのセリフ・・・

藁をも掴みそうな・・その言の葉にエルドラードは僅かな希望を見いだしたのだ。


シラヤ子爵は・・・不幸にも小さく些細な罪で謹慎を受けていたらしいが、そんなことはどうでもいい。

必要としているのは、軍人としての能力、武力、知力・・そして、俺への忠誠心なのだ。


シラヤ子爵は、それらに全て該当する優秀な人物!

しかも、彼は若々しく知的な風貌を持ち、ハリス峠の勇者として名を馳せていた。


もしかするとあの・・・裏切り者・邦伯に匹敵する人物やもしれない。なんと素晴らしきことよ!

( これはエルドラード個人の主観であるw  )


エルドラードは深く息をし、声を張り上げた。


「よくぞよくぞ!来てくれた。君の有能さは・・俺の耳にまで入ってきている」


それに対し・・子爵はゆっくりと一礼し、穏やかな声で応じた。

「お褒めいただき、光栄でございます。微力ながら、全力を尽くしてお役に立てる所存でこざいます」


「おっおお・・」


執務室の淀んだ空気に、シラヤ子爵の誠実な言葉は一瞬の清涼感をもたらした。

エルドラードにとって、彼の到来はわずかな希望の光なのだ。


「しかるに・・この王都における武官の中で、最高位は、おそらく私のようであります。

もし私を防衛司令官に任命いただければ、必ずや敵を・・あの憎きキヨウラの者どもを撃破してみせましょう。」


「あのキヨウラを・・・! ふむっ キヨウラか! キヨウラ!」

エルドラートは拳を握りしめた後、一拍置いて・・即座に決断した。


「シラヤ子爵、汝を王都防衛司令官(ラクシャアーナ)に任じる。みごとに守り抜く、いや! キヨウラを・・敵を・・撃破するのだ。よいな!」


「はっ、御意にございます。必ずや敵を撃破し・・槍先に敵大将の首を捧げて見せましょう」


シラヤ子爵の力強い言葉に、エルドラートは勝利を確信した。

彼の有能さと頭脳明晰さは、全てを任せるに相応しい!

そして、父王の期待に応え、王太子として再び認められるためにも、必要な男なのだ!


「よし、たのむぞ!」


シラヤ子爵は即座に、執務室から退室した。

心は引き締まる。これから忙しくなるのだ。

軍の編成、組織改編、そして物資の調達…やるべきことは山積みだ。




-*- - - - - - *-



王都ルヴァの防衛戦力は充実さに欠けていた。


これまでの軍事責任者、軍務卿ラリュスの尽力によって集められた正規兵、予備役、傭兵たち。

しかし、その大半は国王ヴァルトとともに東へと向かい、残されたのはわずかな者たちだった。


これではダメだ!

「急ぎ、徴集せよ!」と命じた結果、およそ三万人を集結させたのである。

そう、確かに数は揃えたが、その兵士たちの練度や士気、忠誠心に多くの問題があったのだ。



いわば・・烏合の衆ともいえる・・徴兵した兵たち・・・

そんな、名ばかりだけの兵士たちが、王宮前広場に溢れ返っていたのである。


彼らの多くは農民や職人から徴兵され、剣の扱いもままならぬ者たちばかり・・・つまり、彼らは数合わせの要員、期待はあまりできない。

それに反して、わずかではあるが、戦力として期待できるのは正規兵と予備役、傭兵。

彼らの存在によって、軍の体裁を保っていたのである。


これらの戦力が、新任された王都防衛司令官(ラクシャアーナ)・シラヤ子爵の指揮下に置かれることになった。

その戦力は3万ともいえども、ほとんどがハリボテ、実動できる戦力はおそらく四千に満たないであろう。


だが、子爵は決して悲観してはいない。

秘策・・とある計画を考えていたからであった。





---- リューム降誕暦680 雪月の後一日(12月21日)----



王都ルヴァの天候は、冬の訪れを告げるような肌寒さが漂い、空は灰色の雲に覆われ、小雪がちらほらと舞い散っていた。

人々は厚手の防寒着に身を包み、寒さに震えながら・・いや! 戦闘に巻き込まれまいと街道を走る。



そう、ここは戦場!

寒空の下、王都近郊の河川を背後にして陣を敷くのは、シラヤ子爵率いる王国軍3万余・・・これは俗にいう背水の陣なのだ。


後背は河川、しかも寒く冷たい川、入れば凍死するのだ。

すなわち、後ろには逃げられない! 逃げることは許されない!

兵士たちは何が何でも・・前進するしかないのだ。

死にたくなければ進め! 突進あるのみ。いやがおうにも戦わなければならない事態に追い込んだのである。


そう、王国軍は寄せ集めの烏合の衆、統率すらできていない徴集兵たち。

そんな彼らでも、やる気(必死)にさせ、奮闘させてしまう戦法(裏技)なのだ。


「これしかない! 我が軍が勝つためにも背水の陣! 死に物狂いで戦うのだ!」


シラヤ子爵は寒風の中、前方から攻め寄せてくる敵軍を鋭く睨んだ。その目には決意と覚悟が宿っていた。



王国軍と対峙する敵はキヨウラ公国軍ではなく、別の勢力・・・ルーラウ伯軍であった。

統治機構が崩壊しつつあるカイラシャ王国に対して・・

領主ルーラウ伯は反旗を翻し独立を宣言! 王都へと攻め込んできたのである。


ルーラウ伯の思惑は・・キヨウラ公国よりもはやく王都を占拠し、この一帯の覇者として君臨すること。

そして、ルーラウ一族の悲願、カイラシャ王国に併呑されてしまった・・かつてのルーラウ王国を復活するのだ。


「つっこめ! つっこめ! 王国軍など徴集兵のかき集め・・恐れるに足らず」


ルーラウ伯の雄叫び! 

あるったけの資金を投入し・・かき集めた1万の傭兵たちは小雪が舞い散る中、駆け走る。


「敵を撃破し・・王都へなだれ込め! 略奪は許可する! 奪え!殺せ!好きなようにせよ!」


「「ウォォ―! ウォォ―! ウォォ―!」」


傭兵たちの士気はあがる。

中世時代において略奪は悪ではなく・・・報酬なのだ! しかも士気とやる気をださせる起爆剤にもなる。



-- -- -- -- -- -- -- -- -- --


一方、シラヤ子爵率いる王国軍も即座に対応した。

まずは正規兵に属する魔導師隊が陣形前列へと進み、一斉に魔導の力を放つ。


ドットドドドドッッッドォォォ


数多くの火線が万華鏡のごとく空へと駆け登り、そして雨のように降り注いだ。

ズドォォォォ――――ン

噴き上がる炎は、まるで暴れる龍のごとく・・ルーラウ軍全体を包み込んだのである。


そう、炎弾による一斉射撃!



魔導師の数が少ないルーラウ軍にとっては・・致命的一撃となった。

防御しきれなかったのである。

多くの兵士たちが巻き込まれ・・悲鳴と絶叫が響き渡った。


そして・・ルーラウ軍全体の勢いが削がれ、動きが停止してしまう。



「よっしゃーあぁぁぁ!」

その瞬間、シラヤ子爵は勝利を確信し、片手を高く上げた。


これは突撃の指図!

王国軍の正規兵が同時に抜刀し、一斉に走り出すと、その勇壮な姿に誘われるかのように、徴収兵も走り出す。


総勢3万の突撃が始まったのだ。


敵のルーラウ軍は炎弾によって勢いは消失し、しかも逃げ腰、軍としての秩序が崩壊しつつあった。

それに対して王国軍は意気軒昂、雄叫びを上げながら突き進む!


そう、王国軍に後退の選択などない。

前進するのみの悲壮感と戦場における熱狂が交錯する中で、王国軍は一心不乱に突進を続ける。


ウオオオォォォッッッ


しかも彼ら徴収兵たちは・・勝てそうな戦いにおいて・・その数の暴力が遺憾なく発揮されるのだ。

個人個人の武勇は無くても・・槍先を突き出し突進させれば・・恐るべき槍衾、かなりの驚異となる。




「予定通りだな! 戦いは勢いと精神力、勝利という名の波に乗ることこそが肝要なのだ! 小賢しい策など無用!」


シラヤ子爵も鎧をまとい、突進・・総崩れを起こすルーラウ軍の中央を突破する。

彼は・・小悪党のように横領などする悪癖はあるものの・・やはり心の中は武人!

勇猛果敢な姿を兵士たちに見せつけたのである。


「我に続け! 突進! 突進! 突進!」


壮絶な斬り合い! 剣と槍が交差し・・魔弾と弓矢が舞い散る。


そして、敵の中枢へと躍り出たシラヤ子爵は、最終ターゲットたるルーラル伯を発見、即座に首を跳ね飛ばしたのであった。

「敵将! 討ち取ったなり」


ここで勝敗は決まった。王国軍の勝利!

討ち取った首級を槍先に突き刺し、高々と掲げると・・周囲からは大きな歓声が湧き上がった。

勝利の雄叫びである。


ウォォッー ウォォッー ウォォッー

その歓声は、兵士たちの士気を高め、勝利の喜びを共有せしもの、

彼ら兵士たちが一丸となって戦った成果であり、徴収兵たちも自らの勇気を誇れることになるであろう



だが、まだ浮かれてはいられない。

戦いは、まだ始まったばかり・・油断をせず今後のことも考えねばならないのだ。

そこで、シラヤ子爵は王子エルドラートに要望書を出す。


「我が軍勝利! この戦いで活躍した徴収兵全員に士尉の位を与え、武人として称えてもらいたい。

次なる戦いのためにも・・彼らの忠節は必要なのです」


横領などする小悪党ではあるものの、シラヤ子爵はかつて参謀として活躍し、今は王都防衛司令官(ラクシャアーナ)を任されている。

ゆえに次なる戦い、キヨウラとの戦いに勝利するための必要な要素を熟知していたのである。

それは兵士たちの士気、モチベーションの維持である!

恩賞となるべきものを、兵士たちに渡し、やる気を引き出すのだ!



-- -- -- -- --


勝利を告げる伝令が・・王宮に到着した。


「勝利、勝ったのか、よくやった! さすが子爵だ! 要望は全て許可する」

エルドラートに希望の光が降り注ぐ。

いける!いけるぞ!


かのシラヤ子爵は、やはりできる男なのだと! 再認識したのである。

この王都を守るためにも欠かせぬ人物、子爵の要望は全て許可する。


全てはこの王都を守るためなのだ





--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)



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