国王 VS 王太子
カイラシャ王国・王都ルヴァへと向かう一軍の軍団。
その先頭に立つのは、覚醒し若返った国王ヴァルト
黒髪をたなびかせ、筋肉隆々の長身はまるでスーパーヒーローのように力強く、さすが国王という風格を漂わせている。
そんな国王に従うのは・・子供の頃の苦い思い出を暴露され、何某かの恐怖を感じてしまっているデルテニア邦伯。
もはや邦伯は・・王太子派ではなく、国王派に鞍替えは決定済み!
よく分からない情報力と力強さは・・・王太子エルドラートなどと比べるべくもないのだ。
どうせ、あの王太子は廃太子されるであろう・・人徳もカリスマもないのだから・・
ちなみにヴァスティーナ姫はサガノ城でお留守番であるw
下手すると・・王太子派と一戦、交える可能性があったからであった。
「そうだな・・戦闘か! ふっふふ 戦ってくるのなら、それはそれで好都合! 勝負を一挙に決められるのだからな!」
青年となった国王ヴァルトはそんなことを口ずさむ。
自らの魔導力に自信を持ち・・一騎当千で勝つつもりなのだろう。
一応・・使いすぎには注意しているものの、魔導・"全能なる世界の書庫"にて王太子エルドラートのことを調べ・・この国の危機的状況であることを把握したのである。
そう、この王太子こそが、この国を傾かせ・・反乱多発の元凶であると・・
・・・というか、こんな最低な奴を王太子にした俺って・・いや! 以前の俺はどうにかしていたのか!?・・などと疑問を持つ。
記憶を失くしてしまっている以上、どんな事情で王太子にしたのやら!? って単純に長男だったからかw
(長男を王太子にするのは法典によって定められています)
どちらにしろ・・俺が国王として復活したのだ。この国を救わねばなるまい。やらねばなるまい!
記憶は失っていても・・国王としての責務、義務感は心の奥底に深く刻みこまれていたのだ。
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力強く若々しくなったヴァルト国王・・・もしかしたら、息子でもある王太子より
若くなったのかもしれない!?
親が子供よりも若くなる・・まさにファンタジーならではの出来事とはいうものの・・そんなことはめったに起きないものだ。
王太子エルドラードは、はたして・・どう反応するのか!?
王都ルヴァの近郊にて、病気回復した父親たる国王ヴァルトに自ら出迎えにいった王太子一行は・・ここで父と子の対面をする。
「なんと! あれが父上だと・・・」
王太子が驚きの声を上げたのと同様に・・
王族としての記憶を失ったヴァルト国王もかなりの緊張を強いていた。
そう、我が子でありながら・・見知らぬ人物、初対面とも言えるような状況になっていたのである。
だが、決して記憶を失っていると・・思わせてはならない!
この国を救うため、国王の責務をはたすためにも・・偽りつづけなくてはならないのだ。
ヴァルト国王は、威厳を保ちつつも・・親し気に、王太子へと声をかけた。
「エルドラードよ、健やかに過ごしておったか?」
それに対して王太子は戸惑ってしまう。
そう、若干の違和感どころなどではないのだ!
ありえないほどの若返り・・まるで年下、弟のようだ。
本当に父王なのかと疑いつつも・・・とにかく返答をする。
「ち、父上のご病状回復、心より喜び申し上げます」
「そうかそうか 久しぶりの我が子に会えてうれしいぞ」
「しかも、若返られたようで、父上の姿・・見違えるほどでございまする」
「秘薬のおかげだそうだ。これで当分は・・・元気にくらせそうだな。はっはは」
国王と王太子は互いに違和感を抱えながらも、ぎこちなく会話を続けた
もちろん・・王太子の心の中は疑念に満ちあふれていた。疑いまくっていたのである。
本当に父王なのか!? 若くなりすぎてまるで別人のようだ。
いや! たしかに父親の面影はあるし、というか、俺の顔に似ている。
(親子ですからw)
・・・とはいうものの何か証拠のようなものはないのか!?
こんな時に、最も頼りになるあのデルテニア邦伯がいればと・・・思っていたら、
王太子の目線の先に、その邦伯の姿を確認できたのである。しかも国王の後方で控えているではないか!
「お、おい邦伯! なぜそこに・・・」
それに対して、デルテニア邦伯は目線を少し上げて軽く礼をした。
「これはこれは、殿下! わたくしは国王陛下の忠実なる臣下にございますれば、この場において国王陛下に従うは当然のことにございます」
その邦伯の言は明らかに・・王太子派から国王派への鞍替えを宣言するに等しい言葉だったのだ・・つまり見限られた。
そう、裏切ったのである。
「き、きさま!」
王太子は思わず激高しようとした瞬間、国王の言葉が遮った。
「エルドラートよ、控えよ…」
「ぬっ!」
「さて…久しぶりの親子の再会もここまでだな。さて、分かっているのだろうな! 我が王国をここまで衰退させた原因を・・」
ヴァルト国王の顔は一変し、鬼のような形相に変わった。
「エルドラードよ、お前の罪は重い! 好き勝手にやり過ぎたようだな!」
「なん・・・と」
王太子の背中に冷たい汗が流れた。
思い当たる節があまりにも多いのだ。
しかし、何とか弁明しなくてはならない。
「そ、それは臣下や軍人たちが無能で、俺の指示に従わなかったからだ!」
王太子の震える声が むなしく響きわたる。
見た目が若いにもかかわらず・・・そのヴァルト国王の威圧感は、彼の心に恐怖と焦燥感を呼び起こしていたのである。
「臣下や軍人に罪をなすりつけるとは・・それが王太子としての答えなのか」
やはりというべき凡庸なる答えに、国王は冷徹な目を向け、予定通りの行動をとることにした。
「エルドラードよ! 余は、お前を見限る! 廃太子だ。全ての権限を剥奪する」
「うっ」・・・その衝撃的言葉に王太子、いやエルドラードは耳を疑い、国王を凝視した。
「次の王太子は・・・次男のサンジャーラでよかろう」
間違いない・・なんてことだ! エルドラードの顔色は瞬く間に土気色に変わった。
「いや! なぜに・・俺が何をしたというのだ! だいたい・・お前は本当に父王なのか!?」
エルドラードは・・感情を爆発させ、心の中の疑問を吐き出したのである。
姿が変わり・・・しかも、俺より若くなっているのだ。
そんな年下のような奴が父王だと!?
しかも、廃太子などと・・ほざく!
「ふざけるな! 俺はお前を・・父王だと認めない。」
怒りと混乱が入り交じり、エルドラードの冷たい目が火花をちらす。
それに対して、何でもないような表情のヴァルト国王は・・ゆっくりと片手を上げたのだ。
するとその瞬間、目前に黒き霧が出現・・そこから一匹の異界の生物が浮かびあがって来た。
それは"アンドラゴア"と呼ばれる・・手のひらサイズの可愛い!?二足歩行の動く植物
またの名をマンドレイクといい、ついでに、いらぬことを呟く特性を持つ
そう、この"アンドラゴア"という名の召喚生物(植物)は・・エルドラードを"バシッ"と指差し
「 こやつは悪党じゃ! 多くの者を殺め、処刑した! 悪いこと一杯した 」などと連呼しまくったのである。
言動が正直すぎて扱いづらい召喚生物、迷惑極まりない存在ではあるのだが・・・
その一方、名指しされたエルドラードは、奇妙な生物に呆気にとられ・・あげくに体をこわばらせていたのであった。
さて、この召喚魔法は、かつての若き日(・・といっても今現在、すっかり若返っているのだがw)のヴァルト国王の得意とした魔導の一つ、
しかも無詠唱で発動するという離れ業を・・再び披露したのである。
周囲に・・驚きと騒めきが走る!
特に老齢な者たちからの声が上がったのだ。
かつて・・若き頃の国王が 頻繁に使用した魔導だったからである。
そして、その正直すぎる召喚植物によって数々のトラブルを振り巻きまくった実績があったのだw
「このような迷惑な、いや! 素晴らしき生物を召喚できる方は・・・やはり!」
「「そう、だ、確かにこの方は…ヴァルト国王陛下でございます!!」」
この召喚魔法を無詠唱で行使できる者は、ただ一人。間違いなく国王陛下なのだ。
「ふむ、どうやら、この中の何人かは、余のことを国王だと認めたようだな!」
ヴァルト国王の声には確固たる自信が宿っていた。
それに対して、エルドラートの目線は泳ぎ、周囲を見渡すと、老齢な者たちを中心にして、あの者を、どうやら国王だと認めていることが分かった。
見た目が若くなっても、その魔導能力は失われず、威厳も・・変わらなかったのだ。
さらに・・謎の召喚植物"アンドラゴア"も・・「この人は国王だよ! 国王だよ!」と連呼しまくっていた。
一応・・正直が売りの植物なのである。
「うっえっ・・本当に父上ですか!?」
ヴァルト国王は大きく頷き、あらためてエルドラードを睨む。
そして・・ニヤリと口角が上がった。
「そうだな! 不詳の息子ながら最後の機会をあたえてやろう。この王都ルヴァを敵の手から死守するのだ。守り通せ! これは試練だ!
見事に守りきれたのなら、お前の武勇を認め、王太子としての地位を再び与えよう」
国王のその言葉に僅かな光明を見出したエルドラートは、声を震わせながら答えた。
「ま、まことですか!?」
「国王に二言はない」
ごくり! エルドラートの心中は、希望と絶望が交錯し絡み合う。
だが、やらねばならないのだ。罪を帳消しにするためにも・・・
「俺が…この王都を守ってみせる。できます。やってみせます!俺の実力をお見せいたしましょう」
「まかせる! 見事に守り通すのだ」
「はっ!」
エルドラードは深く礼をした。
「ふむ、そなたがこの地を守っている間、余は東に赴き、反撃できる体制を整え再び戻ってくる。 それまで、なんとしても守り通すのだ! これは国の存亡にかかわる重大な任務であるのだぞ」
「命に変えましても、必ずや守り通します」
高鳴る鼓動・・エルドラートは決意する。そう、この任務を達成し再び王太子として、返り咲くのだ。
しかし、ヴァルト国王の胸には別の計画が秘められていた。若返った姿の彼は、この機会を利用して新たな策を講じていたのである。
実は、ヴァルト国王の真の計画は、王子エルドラートを囮にし、王国東部に新たな根拠地、つまり遷都を目指すことだった。
ここまで戦乱が拡大してしまった以上、もはや鎮圧は至難の業だった。
それならば、王国の根拠地を東に移動させる方が賢明だと考えたのである。
王都ルヴァを含めた王国西部は元々の領土ではなく、征服地であったのだ。
そう、ヴァルト国王は元来の故地、王国発祥の地に戻ることを決断したのである。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)