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邦伯の陰謀


一連の事件や魔導師イヨナの騒動があったものの、

キヨウラ公国軍の1万5千の兵士たちは予定通りカイラシャ王国の王都ルヴァへと向かう。


「打倒カイラシャ王国! 王都に我らの旗を立てるのだ!」


公王イジャルの力強い声が響き渡り、その言葉に兵士たちの士気が一気に高まった。


黒き鎧に身を包んだ公王イジャルは、可愛い見た目を隠し、まるで歴戦の勇者のごとき姿となって兵士たちを引きつれ出撃する。

もちろん、ノアやコサミちゃん、そしてシルンちゃんも同行するのだ。


ちなみに、猿たちの大ボス、ソン・ゴクン率いる猿軍団は、本隊に先んじて出発し、敵への攪乱工作を行っていた。




◇◆*◇◆◇◆*◇◆


キヨウラ公国軍が南下を開始した頃、その王都ルヴァの王宮に・・急ぎの伝令が駆け込んできた。

その伝令がもたらした情報は、公国軍に関するものではなく、予想外の知らせだった。


それは・・カイラシャ王国における最高権力者にして統治者・・ヴァルト国王の回復!

深刻な病に苦しんでいたのだが、奇跡的にその病を克服し、さらには若返ってきたという・・

・・・ある種、意味不明の衝撃的な知らせだった。


いくら魔法とファンタジー世界であっても、軽々しく若返りなどできるものではない。

ヒラガ・ケールナイという実例はあるものの、そうたやすく出来るものではなかったのである。



王太子のエルドラートもこの知らせを聞いて困惑というか、焦りに包まれた。

父親たる国王が病気で伏せていることをいいことに 好き勝手に権力を振り回していたのである。

そう・・・ノアやイジャルの祖父、キヨウラ公爵の処刑なども含めて、多くの専横を行っていた。


「いったいなぜ今更・・いや! 実にめでたい・・めでたいことなのだが・・父王の若返り!? それはどういうことなのだ!?」


恐れと戸惑いが、入り混じった王太子の問いに・・答えることができる側近はおらず、皆が黙り込んでしまっていた。


誰にも分からない!

王宮に届いた情報は断片的なものであり、正式な伝達ではないからだ。

ヴァルト王が療養しているサガノ城からの・・第一報に過ぎなかったからである。


確認の早馬はすでに・・折り返し派遣はした。

詳しい情報は、いずれは舞い込んでくるとはいうものの

この不可解な知らせに、エルドラート王太子以下、側近たちも困惑していた。


「と・・とにかくだ! 父王の帰還、快気祝いの準備を命じておく」


「はっ! かしこまりました。すぐに準備に取り掛かります」 


王太子は深呼吸し、冷静さを取り戻そうと努めた。

父王ヴァルトの帰還の知らせに・・困惑、動揺してしまっているなどと・・周囲の者たちに思わせてはならないのだ。



-- -- -- -- -- -- -- -- -



ガンガンガン!


執務室にもどった王太子は・・椅子を蹴り上げ、思い切り机を叩いた。


「ちっ、何たることだ!」


王太子は焦り・・戦慄する。おまけに目の下の傷も痛みだす。


まさかのまさか、父王の病気が回復するとは!

もはや先がない・・寿命が尽きると信じていたはずが・・・


「そうなると・・まずいぞ! まずいぞ! 特にキヨウラの一族を処刑したことが知れれば・・・」


そう、父王たるヴァルト王は・・かつてのキヨウラ公爵を高く評価し信頼していた。

内務省の効率化、不正の取り締まり、賄賂の摘発などの実績は数えきれず・・

国王の片腕として、その手腕を発揮していたのだ。


そんなキヨウラ公爵を処刑したことが知れれば・・・間違いなく廃太子となるであろう


どうすればよいのだ!? どう対処すればよいのだ!?

だが・・今、最も信頼すべき側近、デルテ二ア邦伯は地方視察に出かけており不在、他の者では、あまりにも頼りなかった。


「ちっ! 邦伯・・肝心な時にいないとは・・すぐ帰ってきてもらわねば困るのだぞ!」


王太子は怒りに任せて机を勢いよく叩いた。

バァン! バァン!




-*- - - - - - *-


王宮に国王帰還の第一報が届く数日前の出来事・・・


あの王太子エルドラートから、ある種の信頼を勝ち取っていた・・デルテ二ア邦伯は、夜の帳が降りる中、密かにサガノ城へと足を向ける。

彼はできるだけ、人に見られて欲しくはなかった。


目的は・・このサガノ城で療養しているヴァルト王への謁見。

ただし・・この時のヴァルト王は病に伏しており・・病状は極めて深刻、しかも意識はなく魔導による点滴によって命を長らえていたのである。


意識がないのに・・・謁見とはいかなることなのかと!? 訝しがるところだが、それはそれ!

織り込み積みのことなのだ。



デルテニア邦伯は、城の正門を避け、裏手門のそのまた裏・・・岩と土、立札などによって巧妙に偽装された隠し扉を探し出し・・

そして静かに開けた。

そこは・・極少数の者しか知らされていない隠し通路であり、万が一の時のための脱出経路にもなっていたのである。


このサガノ城の元々の持ち主は・・デルテ二ア邦伯家のものだったのだが・・先々代の頃、王家にこの城を献上したのである、

それ故に・・彼はこの城の内部構造を知っていたのであった。


デルテ二ア邦伯は一人・・・この隠し通路を進んだ。

通路は暗く・・湿っている。 おそらくこの数十年・・この通路を使用した者はいないはず。

所々に蜘蛛の巣が張り巡らされており・・彼の足音だけが静かに響く。


そして、この通路の行きつき先は、この城における・・とある執務室の・・とある巨大絵画!

実は隠し扉だったのだ。


ギッギッギキギギ


邦伯は・・静かにゆっくりと扉を開いた。

 

時間にして深夜・・もちろん、この執務室は無人のはずだが・・

しかし、月明りに輝く窓際にとある女性が一人・・立っていたのである。


邦伯は思わず・・息をのんだ。

窓際に立つ女性の長い黒髪は夜の帳に溶け込み、その美しい容姿と深い紫色の瞳は暗闇の中でもはっきりと浮かび上がっていたのである。


「おっとこれは失礼、姫様! このような夜分の訪問をお許しください」


邦伯の慇懃無礼すぎるほどの深いお辞儀と仕草・・いつもながらの芝居がかった様子に少し呆れながらも その姫は微笑み返した。

彼女は・・王太子エルドラートの異母妹にあたるヴァスティーナ姫。またはノアの姉に当たる人物でもある。


「いつもの通りですね・・デルテニア邦伯様、お久しぶりです」


そう・・邦伯は、この城の者で唯一、ヴァスティーナ姫にだけは、この城内への侵入を伝えていたのである。

王太子と同様・・姫様とは子供のころからの幼馴染、国王との謁見を頼み込んでいたのである。


ちなみに謁見といっても・・国王に意識がないため、会話を交わすことはできない。

そう、別の目的があったのである。

それは・・ヴァルト国王にとある秘薬を飲ませることだった。


ただしこの秘薬は・・かなりの貴重品!

デルテニア邦伯家に伝わる家宝にて・最後に残った唯一の一ビン

かつて、この地上に繁栄を謳歌した超古代文明の遺産でもあったのだ。


唯一の一ビンとなったこの薬の特性は・・・若返り!

その者の身体と精神を時間的に逆回転させるのだ。

そう、時を戻すことによって・・病気になる以前の健全な状態に戻す奇跡の薬なのである。


ただし、この薬には重大な問題があった。

時間を巻き戻すことで、その人物の記憶さえも同時に巻き戻してしまい・・ それ以降の出来事を忘れてしまうのである。

しかも問題は・・・どれぐらいの時間を巻き戻してしまうかが不明なのだ。

最悪・・・幼児にもどってしまうということも考えられた。



それ故に・・・危険!

しかも、あの王太子であるエルドラートは、そのまま父・国王の崩御を望んでいるため、この秘薬の使用は断固反対したであろう。

そこで邦伯は、王太子派の者に見つからないよう・・こんな夜分に城の隠し通路から訪問したのである。

そして、秘密裏に・・この薬の投与を行おうというわけであった。



一応・・表向きには!


邦伯の本音としては・・レシプロンによる反乱事件の失態を覆い隠すべく・・若返った国王を旗印にして・・王太子派に反旗を翻すつもりだったのである。

できるだけなら10歳前後ぐらいまで・・若返ってほしい所だが、ここはかなりの賭け要素であった。

もしも子供なら・・・傀儡として利用するに最適であろう。



ヴァスティーナ姫には もちろん、このような邦伯の真意は一切伝えていない。

あくまでも善意を装っているのである。


そして一方、姫は兄でもあるエルドラート王太子による悪政が、カイラシャ王国の崩壊を招くのではないかと危惧しており・・

そのためにも、父でもある国王の回復を切に願っていた。

いや! 娘として父親の回復は・・当然の思いでもある。



-*- - - - - - *-




デルテニア邦伯はヴァスティーナ姫に導かれ、真夜中の薄暗い通路を歩む。

城内は寒く・・すれ違う者もいない。

ここはおそらく王族区画なのだろう。警備兵の姿も見当たらなかった。


通路の所々で淡く輝く魔導光と、窓から差し込む月光が、歩む二人の影を交互に揺らす。



果たして、上手くいくのだろうか?

夜の静寂が彼の心を揺さぶる。


しかし・・・ここまで来た以上、後戻りなどできないのだ。

そう、決断の扉が目前に迫ってきている。


そして・・邦伯は姫とともに国王ヴァルトの寝室に入って行くのであった。







--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)



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