白き魔導師イヨナ
ノアから照射される・・サーチライトのような魔法、それが魔流電子加速砲!
別名・・"チョコビーム"
光速に迫る速度で・・ターゲットを確実に照射し続ける。
視線が通る限り、有効な術なのだ。
そんな指向性魔術に照射され、なんとか逃れようと・・
白き少女はホワイトグリーンの長い髪をたなびかせながら屋根伝いを駆け走る。
しかし、逃げ切ることはできない。このライトは確実に彼女を照射し続けているのだ。
「ちっ! しつこい」
それにしてもなんだか・・・体がおかしい! 魔力の切れが落ちてきてやがる。
身体強化魔法の質が低下って・・まさか! おいおい・・やばいぞ
彼女は・・このライトのとんでもない特性に気づいた。
「魔力を吸い取られている!」
なんて卑怯! なんて邪道!
それにそんな魔導があるなんて・・聞いたことがない。
彼女は・・・戦慄した。
「だが、あたいは負けはしないよ!
あの糞オヤジ・・ありがたくも殺してくれたキヨウラに! お礼回りぐらいはしてやらないとね!」
そう、彼女はこのツイガルの町の元領主・ロッカル伯の娘・・イヨナ
・・・ということになってはいるが、扱いは庶子以下という待遇。
正室や側室との間にできた子ではなく・・とあるワケあり女性魔導師との関係から生まれてきたのであった。
もちろん・・彼女の境遇は厳しく、周りの目は冷たかった。
父親のロッカル伯も・彼女を公の場で認めることはなかった・・・とはいえども生活費は十分に与えられていた。
完全に愛情がなかったわけではなかったのだ。ゆえにその分の恩はある! 復讐してやらねばなるまい!
「フン! キヨウラに最低限程度のプレゼントを贈ってやるよ」
敵大将が鎮座するキヨウラ本陣屋敷へと向かって走る白き少女・イヨナ
単独での切り込みだ! ただし自殺願望ではない。
魔導力に自信があるからだ!
だが、そんな自信を揺るがす事態になっていた。
「あたいの魔力が・・吸われている!」
白き少女・イヨナに照射し続けてきている謎の光魔法! あれはまずい!
未知の魔導だ! 対処法がわからない。
とりあえず・・射線を切るようにして逃げ切るしかない。
だが、奴らはしつこく追いかけてきていた。
あたいと同じく・・屋根に駆け上がり、追尾しながら照射してくる。
あの魔導師二人、そして上空にはチビドラゴン! とんでもない組み合わせの連中だ。
不味い! 不味い!
このままでは、魔力を吸い尽くされてしまう。
「しかたがねぇなぁ! 煙幕をはる」
イヨナは素早く呪文を唱えた。
「スモーク・・・!」
シュウゥゥゥ
何かが噴き出る風音・・それは噴煙!
舞い上がる水蒸気、辺り一帯を白く染める。ホワイトアウト・霧の中!
視界が真っ白! 方角さえ分からない! あげくに無音・・・音まで遮断したのである。
イヨナ自身、そしてノアたち共々、視界が効かなくなってしまい・・・あの光の照射は消えた。
どうやら上手くいったようだ。
現在、イヨナの魔力は、まだ半分は残っている!
まだまだやれるはず! 勝負はこれからだ。
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『 まずいっす! 』
「ノア様! 霧が発生してます」
「うにゅ~ なんてことだ! チョコビームが・・・」
ノアは嘆いた。
白き少女・イヨナによって放出されたスモーク(霧)は辺り一面を真っ白に染め上げ、ノアの視界を完全に奪った。
見えない。敵が見えない!
敵との視線が外れ、ビームを照射できないのだ。
ノアの心中は穏やかではない。
しかも、ここは屋根の上。一歩間違えれば落ちてしまうのだ!
(ノアたちは、身体強化しているので、この程度の高さから落ちても、たいしたことはないのたけどね♡)
それならばと、ノアは周囲の状況を確認するため・・サテライト魔法を発動してみた。
だが、あまり良くない。
魔法によって映し出された映像は真っ白、上空から眺める鳥瞰図でも霧を透過できなかったからだ。
「これじゃあ、意味がない・・」 ノアは舌打つ。
それでも敵の位置程度なら、黒い点で表示されるので 方角ぐらいならわかるのだが、霧が深くて追跡ができなかったのである。
上空を遊弋するシルンちゃんは事態を解決するため・・サイコキネシスパワーで霧を吹きとばそうと悪戦苦闘!
だけど・・・
『 わっちもがんばってるっすが・・魔動拳では霧を吹き飛ばせないっす 』
・・・ちょっと無理のようであった。
ならば・・コサミちゃんに期待と言いたいところだが・・・・風系魔法は取得していない。
もちろん・・ノアも!
-*- - - - - - *-
白き少女・魔導師イヨナは、霧に包まれたノアたちと同様・・動きがとれなくなっていた。
魔力がまだ半分残っていると、意気込んでみたものの・・方角がわからないのでは仕方がない。
それに・・・屋根から落っこちてしまっていた。
バシャ~ン! ボコボコボコ
そこはどうやら露天風呂らしい。または温泉!?
実にいい湯だ! 芯まで温まる。いつまでも入っていたいよね!・・・なんて言ってる暇なんてない。
水も滴るいい女ではなく、完全に濡れネズミなのだ・・・鎧も下着もびしょびしょ
イヨナの周囲は今だに 霧というか、湯けむりが立ち込め、視界はぼんやりとしている。よく見えない。
ならばこのまま身を隠しつつ・・脱出してしまおう。
あの連中が追跡してくるかもしれないからだ。
イヨナは湯をかきわけかきわけ・・ここから出ようとした時、湯煙の中から朧げながらも女性の姿が現れた。
そう、ここは露天風呂・・おそらく入浴中の人だろう。
ヤバイ!・・・見られたかと危惧したが、ここは霧というか湯けむりで視界が悪い。
相手の方も、あたいを怪しく思っていないはず、何気なく露天風呂から出ようとした。
ところが、ふと気になり・・その女性を横目で見てみると、「うっ!」・・おもわず息を呑んだ。
その裸体は大変美しく、肌は絹のように滑らかで、プロポーションも素晴らしい!
すこし胸が小さいように見えるが・・・そんなことは些細なことだった。
「これはなんて・・ドまぶい!」
イヨナは、同じ女性であるにもかかわらず、その素晴らしき裸体に見とれてしまった。
だが、そんなことをしている暇などない!
気をとりなおし・・すぐにでも湯舟から出ようとすると・・・その女性から声を掛けられた。
「君は・・・イヨナ君だよね!?」
いきなり名前を呼ばれたイヨナは驚き、振り向いた。
なぜ、あたいの名前を知っているのだ!?
知り合いなのか? だが・・こんな美しい女性の知り合いなんていないぞ!
「驚いているね! 君はロッカル伯の御息女・・イヨナ君、お久しぶりといっていいかな」
「誰だい!?」
イヨナは警戒した。
こんなとんでも美人に・・一度会えば絶対に忘れるはずがない。
だが・・見たことも会ったこともないはずなのに、名前と身分を当てられ・・しかも"お久しぶり"とまで!
いや! 会ったことがあるから"お久しぶり"と呼ばれているのだ!
ついでに言うと・・令嬢と呼ばず、息女と呼んだところを見ると・・あたいの境遇も知ってるってことだよね!
彼女の眉間にしわが寄る。
誰だ!? 分かない! 分からなさすぎる!
味方なのか敵なのかすら分からない。
イヨナは目前の女性を睨み・・・白き魔導杖を構えた。
相手は湯舟に浸かっており、文字通りの丸腰・・・
武器類は持っていないはずなのだが、警戒せずにはいられなかった。
「僕の事・・忘れたなんて酷いなぁ・・しかも僕の町でえらく暴れてくれて・・・
大事な兵士に死傷者まで出してくれたそうじゃないの!」
そんな発言を聞いたイヨナは 少し唇を噛み・・魔法杖を強く握りしめる。
この女性はキヨウラの関係者・・そして、あたいの敵!
ならば対決するしかない! イヨナは即座に魔弾を撃つ!
だが・・遅かった。撃てなかった。
そう、撃つ前に目前の女性は、水しぶきを巻き上げながら飛び上がり、そして半回転!
身体をよじりながら・・イヨナの腹を蹴り上げたのである。
「うっ・・・」
かなりの一撃だ!
彼女は転がるように宙を飛び・・露天風呂の壁に激突した。
背中を強打してしまったのか・・・息が苦しい。ゲホッ ゲホッ
だが、そんな苦しさの中でイヨナは見た!
あの女性・・全裸の下の部分を・・!
「あうっ! 男なのか~!! その容姿で!?」
信じられん! マジ!?
おもいきり見てしまったではないか! でも・・ちょっと目の保養♡
いや! まてよ! 以前にも同じようなことが・・!
あの身のこなしに、女性のような顔立ち・・・そうか、奴か!
「あんたはイジャルだな! 剣士のイジャル! よりによってなぜこんな所に・・!?」
しかもしかも、ますます・美女になってしまっているではないか!
(なんてうらやましいw)
「いや~ やっと思い出してくれて ありがたいよ! でも、逮捕するね! キヨウラ公王として・・・」
湯けむり美女のイジャルは・・したり顔でニヤリ、倒れ伏すイヨナを、即座に羽交締めにした。
うぐっっぐぅ・・・イヨナは慌てる焦る。
全裸男の美女が間近に・・いや! そんなことはどうでもいい!
目前の男が公王、しかもあの剣士イジャル!・・そう、あたいの暗殺ターゲットであると・・・!
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)