オペレーション" 春はあけぼの "
目の下に傷があり、癖のある黒髪、そして殿下と呼ばれた人物
カイラシャ王国のエルドラート王太子は・・・執務室にて大激怒中であった。
「な・・・なんだと! 壊滅だと! どういうことだ! 司令官は何をしていたのだ。
そうだ、クーラス! 司令官にしてやったクーラス! 奴をすぐに呼び出せ!」
机を蹴り上げ、ワイングラスを投げつけてくる王太子の所業に・・怯え狼狽える報告官。
「そ・・それが行方不明でして・・」
「なんだと・・この無能者め! クーラスを見つけだせ! 奴は処刑だ!」
報告官の胸ぐらを掴み上げ、床に叩きつける。
さらに足で腹を蹴りつけても、その怒りを収めることはできない。
「どいつもこいつも・・あてにならん!」
あの憎きフィレノアーナ! そしてキヨウラの連中・・・
奴らめ・・・忌々しい奴らだ。
王太子は・・いらつき、部屋の中を荒々しく歩き回った。
我が王国軍・・主力部隊が撃破されるなど・・あってはならないことなのだ!
それをよくもよくも・・・
だが・・ここで王太子はふと気づいた。
フィレノアーナやキヨウラ・・そう、奴らの真の目的に。
「ま、まさか、この俺を殺すことか! この王都へ・・攻めよせてくるというのか!」
王太子の背中に冷たい汗が流れる。
クソっ! 何とかせねばならん!
「軍務卿だ! ラリュスを呼び出せ! 早急に対策を立てさせるのだ!」
だが・・誰も返答しなかった。王太子の周囲に誰もいなかったのである。
報告官を始めとした側近たちは、怒り狂う王太子からの被害を避けるため、執務室の外へと避難していたのであった。
「おいっ 誰もいないのか! くそっっ どいつもこいつも役にたたん!」
何もかもがうまくいかない!
イライラする・・むしゃくしゃする
すると・・なぜだか、目の下の傷が痛みだすのだ。
心のバランスを崩すと・・神経に負担が行くのであろう。
針で刺されるかのようにチクチクと痛むたびに・・・王太子の心にあの恐怖が蘇ってくる。
フィレノアーナのあの冷たい笑顔!
ニコニコ笑いながら、俺の体をバラバラにしたサイコパス!
まるで悪魔・・魔王! 人ならざる者
そして・・再び奴が襲い掛かってくるのではないかという恐怖
「フィレノアーナめ! フィレノアーナめ!」
一方・・王太子の最側近でもあるデルテ二ア邦伯は、その王太子から距離を離し、地方視察という名目で出かけていたのである。
・・・というのも、とある情報を密かに入手したからであった。
そう、デルテ二ア邦伯によってスカウトした神聖魔法の使い手にして勇者レシプロン!
どうやら、そのレシプロンによって決起、反乱、そして6万もの王国軍が壊滅したらしいとのこと。
しかも! 彼は・・自らの兵団を組織し、レルンドの町を占領!
レルンシア総主国と名乗り独立を宣言したというのだ。
不味い・・不味すぎる!
わたくしがスカウトした人物によって・・独立反乱!
そんなことが王太子に知られてしまっては・・・乳兄弟、最側近といえども処刑されかねない事態なのだ。
わたくしの破滅・・・デルテ二ア家の改易、いや・・・一族全員が処罰されてしまう。
「そろそろ潮時か・・・腹を括る時がきたのかもしれん」
大体・・あの王太子はダメだった!
自我ばかり強く・・周りを配慮しない。敵ばかり増やしていく。
乳兄弟のわたくしでも・・あきれ果てていたのは確か・・
縁を切るべき時かもしれん。
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カイラシャ王国軍主力軍団の壊滅は王都ルヴァの防衛に危機をもたらすことになった。
独立宣言したあのキヨウラ公国軍が東征してくる可能性が高まっていたからだ。
軍務卿ラリュスはアルゲルン地方に警備隊と称して派遣していた2個師団・12000の兵を急遽、王都方面へと転進させるとともに、
予備役の徴集を開始した。
しかし・・この警備隊2個師団の転進は・・・アルゲルン地方に大きな空白を作り出すことになった。
そして、素早く動いたのは 同地方でゲリラ活動をおこなっているビリアーナ解放戦線。
彼らは即座にアルゲルンを占拠し・・ビリアーナ王国として独立宣言をした。
国王はエイラル・セイメイ。
彼の一族、エイラル家の念願・・150年の時を経て再び王国を復活させたのである。
その他、もろもろの地域でも、不穏な動きが活発化し、ドミノ倒しのごとく広がっていく。
王国軍主力の壊滅は・・・反体制派を勢いづけた。
しかもキヨウラ公国、レルンシア総主国、ビリアーナ王国と独立宣言が相次ぎ、
"この後に続け"と言わんばかりに各地で決起、独立宣言が行われる。
特に南方地域での独立宣言は凄まじく、まるで某異世界の戦国時代を彷彿させるほどの複雑さを呈し始めていた。
カイラシャ王国・・200年に及ぶ征服事業のツケが・・・ここで一挙に噴き出し始めたのであった。
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現在、カイラシャ王国軍は壊滅状態であり、その戦力はほぼ皆無と言ってもいいだろう。
そう、今こそ攻撃のチャンスなのだ!
イジャル公王率いるキヨウラ公国軍15000の兵士たちは、即座に行動を開始した。
公王の狙いは・・カイラシャ王国王都ルヴァの攻略!
そして、一族を滅ぼしたエルドラート王太子の首を取ることなのだ。
「復讐の時が来た。一族の恨みをはらしてやる。よし・・出撃だ!」
「「ウォー ウォー ウォー」」
兵士たちの士気は高い。
意気揚々と出陣していく公国軍なのだが・・・しかし
そう、出陣への準備期間が、あまりにも短すぎたため、物資や食糧の調達に不安が残る。雲行きがあやしい。
ならば・・最終手段をとるしかない。略奪だ!
王都への進撃過程で占領した町々での略奪も、止むを得ずの覚悟とした。
この世界・・中世文化の常識として、占領した町の略奪は当たり前だとされている。
「僕としては、その後の占領政策を考慮すると、略奪は避けたいところだが、背に腹はかえられない場合もあるのも確かだ!」
そう、イジャル公王も中世時代の人間なのである。
略奪を絶対悪だとは考えていない・・それどころか兵士たちへの恩賞の一つだとも考えていた。
キヨウラ公国軍15000の兵士たちは東へと向かう。
東征計画・・オペレーション" 春はあけぼの "が発動されたのだ。
南方地域とは違い、東には平原地帯、作物豊な地域が広がっていた。
そして、その平原の真ん中には、公国軍の目指すべき最終攻略地点、王都ルヴァが存在している
そう、その進撃路というべき平原地帯には数多くの町々が点在し、物資の調達、つまり略奪も可能というわけであった。
一方・・キヨウラ公国の南方の山岳地帯にて、先ごろ独立宣言をしたレルンシア総主国。
キヨウラ公国は そのレルンシア総主国に対して・・共通の敵、対カイラシャ軍事同盟の打診をしているところであった。
ずばり言うと・・共に戦おうという趣旨なのである。
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東へと進撃するキヨウラ公国軍のその上空では・・・ノアたち箒組が遊弋し・・周囲の警戒をしていた。
(兵士たちと共に地上をテクテク歩くと疲れてしまうので、空を飛んでいた方が楽ですよ・・・などと決して口には出しません!)
ちなみに、あのメテオ騒動、カイラシャ王国軍自滅事件が起きた後・・ノアたちは、すぐにUターンし、イジャル君と合流したのです。(あ~あっ いそがしいw)
まぁ、そんなこんなで・・今回のノアたちのお仕事は・・・
「 付近の索敵はうちらにおまかせ~よ! 」である。
空飛ぶ箒による上空からの警戒、その上 サテライト魔法での・・監視もしているので、敵からの奇襲を受ける心配なんてありやしないのだ!
ノアたちのディフェンスは完璧である。
なぜなら・・・すでにすでに! さっそくとばかり、敵を見つけたからだった。
『 ノア様、あれっす・・森の木々が不自然にゆれているっす。間違いないっす!敵っす 』
そう、シルンちゃんは・・・チビとはいえども、やはりドラゴンなのだ。
食物連鎖の頂点、いかなる獲物だろうが、即座に発見・・捕捉するのである。
シルンちゃん情報によれば・・・
ノアたち空飛ぶ箒が遊弋する正面真下、街道沿いの森林地帯に、敵軍が隠れているらしいとのこと
行列をなし行軍するキヨウラ公国軍に対して いきなりの奇襲に最適なポイントなのだ。
伏兵するに最適な場所である。
ノアたちは・・敵の姿を確実に捕えるため・・ サテライト魔法で映像をズームアップすると、確かに敵兵を発見した。
森の中で、背を低くし、身をかくしているのだが、残念! 空から丸見えなのよね~
敵兵の数は400名ほど、魔導師などもそろえており武装もしている。
おそらく、この付近を領有する領主の兵たち、自領を守るため・・徹底抗戦をする気なのであろう。
ノアは地上を行軍するキヨウラ公国軍に対して・・・" 敵発見、数400 "を知らせる手旗信号を送った。
パタパタバタ♪ 赤白の旗を振る。
この世界に・・・電波も無線もない。
あるのは手旗か・・狼煙ぐらいのものなのだ。
ノアからの手旗信号に対して・・・公国軍から " 了解 "の信号が返って来た。
どうやら上手く・・伝わったらしい。
「よしよし・・・これで後の対処は 向こうがやってくれるだろう。」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)