そこは霧! 霧の中の戦い
「なに!? 敵と接敵したのか!」
側近からの報告を受け、公王イジャルは戸惑う。
地表を覆う白い霧が 全ての視界を奪い現状を把握できないのだ!
文字通りの五里霧中!
敵の位置は!? 敵の数は!? 地形はどうなっている!?
「そうか、なにもかも不明ということなのだな! だが、敵もおそらく同様であろう」
霧の中での遭遇戦、敵も味方も条件は同じはず!
ならば先手を取る 先手必勝!
「皆の者 打って出るぞ! ここは戦場なのだ。勢いがあるほうにこそ! 勝利の女神がほほ笑む」
「「はっ! 御意に」」
公王は立ち上がり、鞘から剣を抜くと、周囲の側近たちも・・・一斉に立ち上がった。
猿たちのボス、ソン・ゴクンやエル兄弟 そして、その他の幕僚たち・・・みな、やる気でみなぎっている。
「よし! 突撃だ。敵が準備するまえに・・切り崩すぞ」
「「ウォー! ウォー!」」
公国軍の兵士たちは全員に・・・ノアから配られた"チョコザイナ"、板チョコを持参していた。
もちろん・・この緊急事態、そのチョコをかじり・・・パワーアップ!
身体を強化したのだ。人によるのだが・・数倍の力が漲ってきている。
これで公国軍8千といえども・・戦力は倍増したはずである。
この霧によって・・公国軍の指揮系統は 依然として機能してはいない。マヒしたままなのだ!
だが、公王イジャル・自ら突撃することによって・・・兵士たちの士気はマックスに向上し、活気が溢れ出すであろう。
そして・・・公王様の後に続けと、兵士たちは命令されずともついてくるものなのだ。
そう、戦いとは勢い、そして、勝利に導く意思と精神!
下手な命令など無用!
重要なことは・・強き武人としての姿を見せること! 兵士たちは強き者にしかついてこないのだ。
「「突撃! 突撃! トラトラトラ」」
古来から伝わりし剣術・蘭影流、
魔導と剣術が融合したという剣技をいかんなく発揮し、一振りにて敵兵を薙ぎ払う公王イジャル!
先頭を切って斬り込んでいくのだ!
一国の公王にもかかわらず一番槍・・・これでいいのか!?
いや! 戦乱の時代ならではの逸話となろう・・武人としてこれはこれで正しきこと!
兵士たちを従わせるのは身分などではなく、武人としての魂!
強き魂を持つ者にのみ・・兵士たちの信頼をかちとることが出来る。
たとえ容姿が可愛く・・・ノアより背が低かろうが、関係ない!
武人としての魂こそが重要なのだ。
ちなみに・・・重厚な鎧をきているため・・イジャルの可愛らしさは見えてはいない!
それどころか、歴戦の勇者にみえてしまっていたりしている。
自ら突進する公王イジャル!
その背後からついてくるのは一般兵士だけではない!
猿の大ボス、ソン・ゴクンに率いられた猿たちも、人間たちに負けずおとらずの活躍をする。
ピッケルハウベをかぶりしその猿たちは・・飛ぶがごとく帝国陣営を走り抜け、カマイタチのように敵兵を切り裂いていく。
猿ならではの軽業、如意棒もどきの槍で地面を叩きつけ、宙を舞う滞空起動!
人間ではできないような動きを演じていた。
これら公国軍の猛突進によって・・・帝国軍に大きな突破口が開かれる。
怒涛の如く突き進んでいく公国軍! しかも先頭に立つのは公王イジャル!
誰にも止められない! 突き進むのみ!
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一方・・・帝国軍は 依然として指揮系統がマヒしてしまっていた。
魔導隊への射撃命令ができない。
弓隊にも指令できない。槍隊の前面押し出しも無理!
白い霧のせいで視界が効かず・・組織的な行動が何もできていない。
そう! 帝国は・・公国に比べてはるかに官僚的な組織、それ故に秩序と統率はとれているが、突発的なアクシデントには弱かった。
このままでは奴らが来てしまう! 帝国軍本営に突入されかねないのだ。
皇帝直属の近衛部隊は少数・・・精鋭であれども数が少ない!
ユゼン皇帝の御身に危機が迫る・・・しかも意識がなく動けない状態なのだ。
薬の投与もしたのだが・・いまだ回復せずにいた。
皇帝側近の参謀長ダンテルは焦る。
皇帝陛下を連れて・・すぐにでもここを脱出せねばならない。
だが・・陛下の意識がないのだ。
担架に乗せ・・すぐに運ばねば!
ダンテルは叫ぶ! だが・・・時は遅かった。
すでに公国軍は・・本陣の手前まで来ている。
陣幕がまくれ上がり・・・若干、霧が晴れてきたせいなのか・・・ダンテルの目線の向こうに驚異的人物を見た。
背が低いが、重厚な鎧をきたその人物は、一振りで・・・兵士たちを薙ぎ払い吹き飛ばす。
普通の剣技ではない・・・魔導の技だ!
そう、ダンテルは・・・公王イジャルの姿を目撃したのである。
「あれは、ま・・・まずい!」
震えながら魔法の杖を握るダンテル。
彼は魔導師なのだ。しかも上級!
それなりの能力を有しているはずなのだが、目前の強敵・・イジャルの姿を見て腰が引けた。
威圧だけで・・見ただけで負けてしまっている!
彼の人生・40年の中で最大の強敵だと感じた。
魔導師としての本能が逃げろと・・囁く!
そう、奴と戦うな! 奴は危険だと!
しかし、逃げ出すわけにはいかない!
彼の側には、負傷し・・意識を失った皇帝陛下が、寝かされているのだ。
「へ、陛下の御身を・・絶対にお守り致します」
半分、涙声となるダンテル、破局の予感・・・
陛下とともにここで・・死ぬかもしれない。
だが・・臣下として、最後まで戦うのが宿命なのだ。
そんな覚悟を決めた彼の手が突然、掴まれた。
驚くダンテル、後ろを振り向くと・・・
剣の鞘を杖代わりにして、立ち上がる皇帝の姿があった。
「待て! ダンテル・・・心配をかけたな!」
「おっ・・へ、陛下!」
わずかだが・・ダンテルの口元に笑みがこぼれる。
ふらつき気味ながらも、皇帝は身体を動かした。
本調子とはいえないが・・・薬の効果で少しは回復したようだ。
・・・皇帝陛下の身体が動けるとなると、この危機からの脱出も可能となるであろう。
ダンテルはそう考え・・・皇帝陛下に、すぐの脱出を促したのだが、そんな余裕はなかった。
その危機が目前で演じられていたのだ。
本営が・・血で染まる。
皇帝直属の近衛兵たちが・・次々と切り伏せられ、陛下の足元に転がりおちたのだ。
参謀のダンテルは・・血の気が引く!
「一体なにが起きている!?」
だが・・・誰も答えない。周囲を見わたすと味方がいなかった。
側近は逃げ出し・・近衛兵は全滅していたのだ。
そして・・・そんな所行をおこなった・・一人の鎧武者が目前で剣を構えていた。
それは黒き鎧の武者・・・すなわち公王イジャル!
彼の目は・・据わり、狂気じみた雰囲気を醸し出していた。
戦場の殺戮によって・・ナチュラルハイになってしまっているのだろう。
「ふっ! おまえは・・・・そうか、見つけた」
皇帝ユゼンと公王イジャル、二人の視線が互いに交差し・・殺意がぶつかり合う。
そして、何の躊躇もなく・・イジャルの剣が横なぎに振りおろされた。
「お覚悟・・・めされよ」
「ほぉ! お主は・・」
公王イジャルは目前の敵が帝国の総大将、すなわち皇帝だと、認識した!
・・と同時に、皇帝ユゼンも目前の鎧武者が・・・敵の総大将、公王であると理解する。
戦場を二分する若きリーダー、公王と皇帝・・・二人の一騎打ちが今! 始まろうとしていた。
横なぎに振られた剣の軌道を予測した皇帝ユゼンは一歩さがって避けるとともに、
手に持っていた鞘から剣を抜く。
その剣は・・・装飾された儀式用ではなく実用性、いや! 実戦向きの剣であった。
禍々しく黒く・・危険な波動を放つ魔剣、通称・・"魔龍神剣"
皇帝ユゼンは目前の鎧武者・・その首筋を狙い、殺意をこめて下段から上段へと素早く魔剣を振り上げた。
首を切り落としてやる!
その魔剣は・・・まるで鞭のように反りかえり、ソニックブームを発生させながら鎧武者・イジャルへと迫る。
だが、その剣筋を見極めた彼は、巧みに避け・・さらに 大きく隙を見せた皇帝ユゼンの腹めがけて蹴りを叩き込んだ。
「うっ 油断したか!」
皇帝は 少し吹き飛ばされたものの・・姿勢を低くし・・再び剣を構える。
皇帝ユゼンの持つ魔剣はかなり危険!
軽快に振り回し、一見すると軽そうに見えるのだが・・その実、打撃力は重い!
普通の剣で斬り結べば おそらく折れてしまうだろう。
公王イジャルは そう予感し・・・斬り結ぶのは 絶対に避けるべしとした。
この二人の対決・一騎打ちに、参謀長のダンテルが 突然介入した。
そう、皇帝陛下を危険に晒すわけにはいかない。
援護をするのだ!
彼は、イジャルを睨み・・即座に詠唱! 魔弾を連射した。
皇帝陛下の「 やめろ! 」という言葉を聞いた時には時遅く・・すでに撃ち放った後であった。
青白い魔力の塊・魔弾の数々が・・・
イジャルへと飛翔していく
だが、この程度の攻撃! イジャルにとっては、たいしたことではない!
蚊にたかられるようなもの・・・
彼は冷静に剣を振り・・飛翔してくる数多くの魔弾を真っ二つに破壊していった。
「ふっ!」
ニヤリと口角を上げるイジャル、そして彼は近くのテーブルに置かれていたワイングラスを、即座に掴みとり、勢いよく投げた。
パリーン! 心地よく響き渡る音色!
ワイングラスはダンテルの頭部に命中し・・崩れるように倒れ込む。
「おい!」
あっけなくダンテルが脱落・・・一応、上級の魔導師のはずなのだが、予想外に弱かった!?
ついでにいうと彼は気絶しているだけなので、命に別状はない・・・・皇帝ユゼンはその事を知って、ほっと一息をついた。
だが・・・油断はできない。
強敵との対決は まだ始まったばかりなのだ。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)