追撃せよ!
アリツ砦の兵士たちは忙しく動き回っていた。
先ほどまでの士気の低下など・・嘘であるかのように、活気づいている!
兵士たちは・・勝機を感じているのだ!
そう! その原因はノアが持ち込んだ・・ヒラガ製エレキテル砲!
この超巨大大砲の運用には・・・まさにマンパワー、人の力が必要なのである。
日光を反射させるためのミラーの設置から調整、目標ターゲットへの測量と射撃計算、そして・・この巨砲自体の操作
( 第二次世界大戦中の某ドイツ・グスタフ列車砲なみの人員が必要なのであった )
もちろんのこと・・・兵士たちは巨砲を撃つべく懸命に働く!
帝国軍からの一方的射撃にさらされてしまっており・・砦の兵士たちのストレスは倍増!
もはや、なんらかの反撃・・そう! 強烈な一撃を帝国軍に加え、" 目にもの見せてやる! "というような心構えとなってしまっていた。
「「おっ~ 絶対に仕返ししてやる!」」
-*- - - - - - *-
そして・・・その日、人類は見た!
エレキテル砲が火を噴く瞬間を・・・
ズドォォオォン ゴッオオォォォ グゥォォォォォォォ
全ての音を奪う・・・轟音!
全ての空気を薙ぎ払う衝撃波!
同心円状に広がる突風、空気の震えに巻き込まれ・・ノア、コサミちゃんは背後へと転がった! コロコロと・・・
いや! 間近で目撃していた屈強な兵士たちさえも 同じく転がっているのだ。
それほどの衝撃波!
白い煙をまき散らし・・・まるでロケットのように撃ち上がるエレキテルの弾頭!
ゴッゴゴゴッゴッッゴゴコゴッッッ
「な・・・なんてものを作ったのだ・・ヒラガさんは! 」
ノアは叫び・・・そして、そのヒラガさんの才能を再認識した。
只の性転換若返り少女マニアではなかったのだ! 魔導技術者としては・・・やはり一流だったのである!
エレキと魔力によって形成された魔弾は・・・とある電磁の加速パワーによって勢いよく放出された!
磁界とエレキとローレンツ力! 某異世界では、電磁砲と呼ぶらしい。
そんな魔弾は白い煙、ソニックブームを撒き散らしながら・・・帝国陣営へと向かって駆け飛ぶ。
もちろん、音速を遥かに超える速度でだ!
エレキテル砲! それは恐ろしくも素晴らしき兵器・・・ヒラガ氏の究極加速砲!
ただしというか、やっぱしの欠陥も同時に発生してしまっていた。
そう! このエレキテル砲が禁止となった最大の原因・・・爆発!
砲身が・・みごとに吹っ飛んだのである。
ドカー―――ン!
幸いなことに被害者はいなかった。
一応・・ヒラガ氏からの警告によって、爆発の危険性は知らされていた。
それゆえに・・それなりの安全対策・砲身の周囲20ルトメを無人地帯にするとともに防壁で囲っていました。
「ヒラガさんの言った通り、やはり・・・爆発したね」
『 そうっすっね! 早すぎたっす。技術的に・・・未来すぎったっす 』
圧倒的ともいえる電磁パワー、それにともなう膨大な熱量!
そう! 砲身が熱に耐え切れなかったのである。
あとついでに言うと 太陽光を集約させていた魔導石も、ドロドロに溶けてしまい
使用不可能になってしまっていたのであった。
このエレキテル砲は・・・まさに使い捨て兵器だったのである。
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エレキテル砲は、使用不能になった。
修理もできないだろう。
だが、そんなことはどうでもよい!
それよりも重要なことは 敵陣の様子なのだ。
砦の塁壁上に立った司令官サリュマは・・拳を握りしめ、喜びを噛みしめていた。
司令官の目に映ったものは・・・白い煙に覆われていく帝国陣営だった。
「ふっふふふふ! 」
ゴッゴゴゴッズドォォォォンンン
鼓膜を撃ち破るような・・振動と轟音が帝国陣営に襲い掛かる。
まるで・・世界の終焉! 白い埃が舞い上がり、頭上からは土砂が降り注ぐ!
一体何が起きたのか!?
兵士たちは叫びながら走り回る。
しかし・・・白い霧、いや! 埃に阻まれ、視界が効かない! 状況の把握が出来ないのだ!
「なんだこれは!」「敵の魔導なのか!」
ノアたちが放ったエレキテル砲の弾頭は・・わずかに目標をはずれ・・・帝国軍陣営の手前に着弾したのである。
だが・・・これは超高速弾頭、外れたからといって安心できるわけではない!
そう、着弾と同時に地面を・・いや! 地殻そのものを大きく削り取り・・
土砂や瓦礫、巨大な岩から・・巨木まで 全ての物を あたかも噴水のごとく上空へと・・・舞い上がらせたのだ。
・・それはまるでメテオ! 隕石落下・・
直径50ルトメの巨大クレーターを作り上げてしまう。
そして・・・舞い上がった土砂は・・重力にひかれ・・帝国陣営内へと襲い掛かった!
いわば、それは山津波・・・あらゆるものが落ちてくる!
危険な巨木から・・巨石まで・・・
「ぐっ」「いっ‥いたい」「た、たすけて」
至る所で・・悲痛な叫びがこだました。
土砂に生き埋めされ助けを呼ぶ声・・・それを助けようとする者。
多くの医療班が駆けずり回る・・・だが、その医療スタッフさえ、負傷していた。
誰もかれもが・・何らかの傷を負っているのだ。
これでは・・だめだ! 戦争どころではない! 絶望した空気が陣営内を漂ってきていた。
そして・・・
皇帝ユゼンも例外ではなかった。彼の頭上から降り注ぐ巨石によって負傷し・・頭から血を流しているのだ。
朦朧とした意識の中・・敵にしてやられたという後悔に苛まれる。
敵も我らと同様に魔導砲・・いや、それ以上のとんでも兵器を使用したに違いないのだ!!
なんらかの対策をせねばなるまい!
皇帝ユゼンは声を出そうとした・・・だが声が出ないのだ。いや! 体すら思うように動かせない。
これは・・まずい! かなりの重症を負ってるに違いないのだ。
" 余は・・ 余は・・こんなところで死ぬわけにはいかない! まだまだ成すべきことがある! "
そう、帝国の未来がかかっているのだ。馬鹿どもに好き勝手させるわけにはいかない。帝国を滅亡させるわけにはいかないのだ
若い皇帝は・・涙する。
だが・・・涙がでない。体も声も・・・もう、だめなのか!?
「陛下! しっかりしてください。気を確かに持つのです!」
そんな皇帝の手を握りつつ励まし・・・あらん限りの声をあげ・・兵士たちに指示をだす参謀長のダンテル。
少しパニック気味・・焦りの表情を浮かべる彼の姿が見て取れた。
皇帝の身を案じ・・涙を流すダンテルを見て・・皇帝ユゼンはすこし安心する。
そう・・・お前だけは余を見捨てないのだな! 良い家臣を持った・・・ものだ!
そんな思いを抱きながら、皇帝ユゼンの意識が遠のいていく。
「皇帝陛下を安全な場所にお連れするのだ!」
参謀長ダンテルの指示のもと・・・担架に乗せられた皇帝は後方へと移動を開始した。
混乱しているがゆえに、親衛隊による護衛は完璧とはいえない。
それでも周囲を固め、可能な限りの護衛を施す。
皇帝ユゼンの負傷は、あきらかに敗戦である。士気の低下も予想される。
そう、この地に留まるのは危険なのだ。すぐにでも帝国軍を後退させねばならない。
参謀長のダンテルは諸将の協力をもとにして・・・秩序ある撤収を開始した。
たしかに混乱をおこしてはいるが・・恐慌状態には陥っていない。
軍としての指揮系統は失われていないのである。
素早く、落ち着きながら・・敵にさとられず退却するのだ。
しかも好都合なことに 帝国陣営は白い霧に包まれている。
撤収作業は困難ではあるが・・敵に気づかれにくいはず。
「そうだ! 霧に紛れて撤収せよ!」
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だが・・アリツ砦の塁壁上にて・・敵の様子を窺っていた司令官サリュマは見逃さなかった。
白い埃に包まれているとはいえ・・帝国軍の動きを察知したのである。
ついでに言うと、ノアの魔法・サテライトでも、敵の動きを感知していた。
このサテライト魔法は鳥観図のように空から 覗き見ることができるのである。
しかも敵兵の位置もばっちし把握済み!
「敵は・・撤収するようね」
「そうだな! よし! 追撃だ! 追い打ちをかける! 敵に打撃を与えるぞ」
アリツ砦の城門が開いた。
用意した兵力は4000! 守備兵1000を残した戦力である。
逃げる敵を追撃するのだ! 湿地帯を貫く街道を公国軍が駆け抜ける。
先頭で剣を振りかざすのは司令官サリュマ、司令官自ら・・突撃を敢行した。
敵を逃がすな!
追い討ちをかけよ!
追撃こそ・・最大のチャンス。帝国軍に大打撃を与えるのだ
だが・・・帝国軍側もこのことは予測していた。
そう、撤退戦には殿部隊を備えるものである。
撤収する自軍を守るため・・盾となるための決死隊が・・・公国軍に立ちふさがったのだ。
やはりこの街道の左右は湿地帯・・・防御側だった公国軍にとってこの湿地帯は 大変ありがたい味方となっていたのだが・・・
今や状況は逆転し追撃戦となる。
攻める公国軍側にとって、この湿地帯は敵に味方する障害物となり果てていた。
ゆえに戦闘は・・狭き街道通路に陣取る帝国軍・殿部隊、その数5000名との激突。
戦力的には公国軍を上回り・・しかも決死の覚悟で待ち構えているであろう。
戦いは遠距離からの魔導の撃ち合いから始まった。
火弾と魔弾が激しく飛びかい、そして・・・大量の弓矢が、雨のように降り注ぐ。
耳をつんざく爆音・・・地を揺るがす振動
熱風が荒れ狂う。
両軍とも魔導障壁を展開するが・・防ぎきれるものではない!
各所で魔弾による爆発が生じ・・・兵士たちの何人かは吹き飛ばされ命を散らしていく。
この程度で怯むわけにはいかない。司令官サリュマの号令の下・・槍隊、抜刀隊が突撃していく・・ついに白兵戦の始まりとなった。
一番槍をねらう強者たちの叫び声! 剣と槍先が撃ち合う金属音・・・旗指物が激しく揺れる。
公国軍は・・なにがなんでも帝国軍を撃ち破ろうとするのだが・・数的に不利!
帝国軍を打ち崩せない。戦闘は一進一退・・・ほぼ拮抗していた。
ノアは・・・この状況を打開すべく、コサミちゃん、シルンちゃんとともに空飛ぶ箒にまたがり・・空へと舞い上がった。
空からの支援爆撃をするつもりである。
制空権は・・公国軍が握っているのだ・・・というか空を飛べるのは、おそらくノアたちのみだろう。
空爆のし放題である。
ただし・・まずいことに・・敵と味方が近すぎる。接近戦に突入しているのだ。
少し間違えば・・フレンドリーファイヤーをしかねない。
味方への誤爆は絶体にさけるべし! 兵士たちの信頼を損なうわけにはいかないのだ。
それにノアは・・イジャル公王の妹ということになっている。
ノアの不手際は・・・公王の不手際とされかねないのだ。
「う~ん! 攻撃は慎重に・・・」
ノアの得意魔法・コーヒーバブルボムの準備をはじめた。
この魔法は・・コーヒー球体の液体に高熱を発生させ、水蒸気爆発をひきおこす。要するに爆弾である。
ノアたちは・・空飛ぶ箒にて敵の後方上空に接近していった。
敵からの攻撃・・弓矢や魔法を撃ってこないところを見ると 気づかれていないのであろう。
上空への警戒はしてないようだ。
『 ヨーソロー! ヨーソロー! 』
シルンちゃんの小さい手で空中パネルを操作し・・・空飛ぶ箒を固定位置で浮遊させた。
いよいよ攻撃開始である。
敵である帝国軍は・・戦闘正面、狭い街道にて公国軍相手に一進一退の激戦をしていた。
そんな激戦の最中・・・意図せぬ方向、真後ろ後方に大規模爆発が発生すれば・・・帝国軍の士気を一挙に下げることが出来るであろう。
そう・・この爆撃の目的は・・敵の撃滅ではなく・・士気の崩壊と混乱をもたらすことなのだ!
「よし! 爆撃開始」
ノアの放ったバブルボムは、弧を描きながら帝国軍部隊の後方へと着弾した。
ズドォォォォゴゴォォォォン
もちろん、その後方地域には 公国軍兵士はいないはず
フレンドリーファイヤーなど気にせず。おもっきり撃てるのであった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)