一撃必殺、エレキテル砲
ズドォォオォン ゴッオオォォォ
轟音と白煙、舞い散る瓦礫、噴き出す炎
兵士たちは駆け走る。
ここは公国の国境・アリツ砦、駐屯軍司令官サリュマは ヴルティリア帝国軍からの遠距離砲撃に苦慮していた。
我らの射程外から砲撃されているのだ。いわゆるアウトレンジ攻撃!
一方的に損害を受け・・・塁壁や城門、櫓などが次々と破壊されていく
魔導障壁を展開しても焼け石に水、防ぎきれない!
修復が・・修理が間に合わない! 破壊されていく方が早い。
このままでは、塁壁に穴が開き・・丸裸にされてしまうだろう。
落城の危機だ!
「奴らめ!」
先日の戦いで帝国軍に手痛い打撃を与えたまでは・・良かった!
だが・・帝国軍は馬鹿ではない。
砦への直接攻撃を断念し・・より時間はかかるものの安全な戦法、遠距離攻撃に切り替えたのだ。
「ちっ! やっかいな戦法だ。こちらからの反撃ができん」
司令官サリュマは苦々しく、2ロキルかなたに存在する帝国軍陣営を睨みつけた。
そう、その陣営から・・砲撃されているのだ。
遠すぎる! 砦から出撃して・・敵陣に突入し長距離砲を破壊するのは至難の業! それこそ敵の罠!
我らがすべきことは・・・この砦で守りを固めること!
粘りつづけ・・守り通すのだ!
公王様の本隊が敵の背後をつけば・・間違いなく我らの勝利なのだから・・・
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一方、帝国軍は・・砦への直接攻撃は諦め、新型魔導兵器を投入したのであった。
輸送と設置に時間がかかるものの・・・無駄な損害を出すよりはましである。
この魔導兵器は・・・異世界風に言えば中世時代の大筒
見た目は、カルバリン砲にそっくりとも言えるだろう。
歴史マニアにはたまらない形をしているはず
ちなみに・・大砲原理は火薬ではなく、魔導による爆発力を利用している。
そんな魔導兵器(魔導砲)を20門ほど用意して砲撃していたのであった。
射程距離は3ロキル・・有効範囲内
問題は・・多々あるのだが、破壊力はOK!
確実に砦の設備を破壊している。
「ふむ! うまくいっているようだな」
皇帝ユゼンは・・・この兵器の有効性に満足していた。
このまま、断続的に撃ち込み続ければ・・・勝てる!
砦を破壊することができるだろう。
ズドォォオォン ゴッオオォォォ
基本的には城門に狙いを定めているのだが、いかんせん命中率が低い
中世時代の初期大砲と同様に、この魔導砲はどこに飛んでいくのかわからないのだ。
その上、発射速度が遅かった。
一発を撃つごとに、砲身を冷やさないといけない。
連射をすれば、すぐに砲身がダメになってしまうだろう
それでも徐々に城門を・・塁壁を・・破壊しつつある。
「待てば良い! 焦るな! 焦ると碌なことにならないのだ!」
皇帝ユゼンの発言に、側近のダンテルも頷いた。
「陛下のおっしゃる通りです。じっくり攻め上げ、敵兵に恐怖を与えてやりましょう」
「恐怖! そうだな、敵は勝手に逃げ出すかもしれんからな!」
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たしかに! アリツ砦側の公国兵士は恐怖していた。
司令官サリュマの一括で・・・士気の低下を防いでいるが・・どこまで保てるであろうか!?
「恐れるな! 怯むな! 城門の破壊は想定内だ。敵を砦内に引き込み撃破する! いいな! 準備はおこたるなよ」
司令官たるもの・・どのような状況であろうとも、平気な顔をしなければならない。
全ては・・予定通り! 全ては計画通りだと・・兵士たちに思わせるものなのだ。
「「お~! お~!」」
空元気でも威勢をはる兵士たち・・・かなりの疲労、辛そうだ! そろそろ限界かもしれん!?
なにか手を打たないと・・これは不味いぞ!
司令官サリュマは空を仰ぎ見て、考え込むと・・・
光が差す雲の切れ間から、何かが降りてきた。
フワフワとゆっくり・・・まるで神の降臨のごとく
「んっ!?」
サリュマは一瞬、錯覚かと頭を振り・・よくよく見てみると・・・
それは箒に乗った二人の少女だった! おまけに手のりサイズのドラゴンまでいるではないか!
「ノア ここにて参上!」
疲労困憊となってしまっている兵士とは真逆・・実に元気良い声が響きわたる!
そして・・・花吹雪を巻きちらし スポットライトに照らされるがごとく着陸する。
自己顕示欲もばっちしな着陸であった。
司令官サリュマだけではなく、兵士たちの注目も集めた。
ちなみに、スポットライトも花吹雪もシルンちゃんの幻影魔法である。
砦側の設備が各所で破壊され、いまにも落城寸前、兵士たちの動揺も見て取れたので・・・
ここは・・・兵士たちの士気高揚もかねて、ちょっとした演出で降り立ったのである。
・・・ということにしておこう(本当のところは中二病)
司令官サリュマは、すかさず駆け寄り臣下の礼をとった。
セェルンの町にて悪評を垂れ流していようと・・ノアはキヨウラ公国の重鎮であり、しかもイジャル公王の妹とされているのだ。
( 司令官サリュマも、もちろん、ノアをイジャル公王の妹だと思っている )
サリュマにとって、ノアは主君の妹君、いわば準主君なのだ。
しかも、かなり強力な魔法を操る魔導師だとの評判!
もしかすると、この砦の危機を救うための秘策を携えてきてるのかもしれない。
「ノア様! よくぞまいられました!」
「これは、わざわざの挨拶、恐れ入ります!」
ノアは司令官サリュマに対して一礼し、周囲にいる兵士たちを見渡した。
見たところ、かなり疲弊した様子だ! これはかなり追い込まれているようだ。
それに・・ときおり聞こえてくる爆発音、吹き飛ぶ瓦礫が見てとれる。
しかも、細かい破片が空から舞い落ちてきているのだ。
それは帝国側からの砲撃であり・・・断続的に砦への攻撃をつづけている。
「これは・・緊急を要しますね! 喜んでください! 新兵器を持ってきました」
一瞬、その言葉に兵士たちは戸惑う。意味が分からない!
どこにそんな兵器があるというのだ!?
ノアたちは・・手ぶら! 箒以外、武器らしきものは見当たらない
もしや、馬鹿にしているというのか!? わずかに怒りを滲ませる兵士もいた!
しかし、ノアはしたり顔・・「ふっふふ! 驚かないでくださいね」
見せつけるようにして時空ストレージ内から、とある巨大兵器を" ドカーン "と取り出した。
それは・・大きく、太く、重く・・とんでもない物体!
一見すると何が何だか分からないのだが・・・凄いものだということぐらいは理解できるであろう!
「「どぅおっおおおお こ、これは一体!?」」
兵士たちは驚き・・どよめく。
時空ストレージという未知の魔法に困惑すると同時に・・・出現した巨大物体!?
複雑な配線と複雑な機構・・ある種の危険性を内包した巨大必殺兵器。
これは見るからに強い! 威力もありそうだ!
士気が低下し、意気消沈していた兵士たちにとって、この巨大兵器は・・・起死回生の光となったのである。
「お~勝てるぞ! これなら勝てる!」
それは少女ヒラガ氏によって提供された特性巨大兵器だったのだ!
そう、ノアがここに来る前に、少女ヒラガの住むシドン村に立ち寄ったのである。
そこで、ヒラガからゴーレム解析についての進捗状況を聞くと同時に、対ゴーレム射撃に最適な兵器はないかと尋ねてみた。
「そうじゃの~ 場所は取るのだが・・こういうのはどうじゃ」
「それは、ちょっとというか・・・大きい いや! 巨大!?」
それは、兵器というには・・あまりにも" ぬりかべ "すぎた。
大きく、太く、重く・・・無駄なぐらいデカイのだが・・・ノアにとってはノープロブレム!
そう、時空ストレージに納めることさえできれば・・・輸送に問題は無いのである。
重かろうが、大きかろうが・・・ぬりかべだろうが、問題なしであった。
そして、そんなヒラガ制作の巨大兵器を・・・・時空ストレージから取り出し、兵士たちの前にお披露目したのである!
それは・・大きく、太く、重い・・・・エレキテル砲!
ヒラガさん特製兵器・・そして、とある爆発事故によって使用禁止となったという・・あれな兵器でもあった!
ちなみに、この兵器の代金は無料! タダでくれました♡
ヒラガさんの主張によれば・・色々なあれあれの兵器らしく、代金はいらないそうである。
いわゆる、タダより怖いものはないということだろうか!?
兵器の見た目は・・直径10ルトメをした凹面鏡。
もちろんそれは・・ぬりかべではなく鏡・・太陽を反射するミラーなのだ!
眩しいほどの輝き、日光の光を余す事なく照り返している。
そして・・その照り返された光は、とある一点、ある種の魔導石に注がれることになる。
少女ヒラガの弁によれば、この魔導石は特別性・・・ヒラガ氏による長年の研究によって作られたとのこと。
この魔導石を熱すれば熱するほど・・・電気という謎の力を生み出すという。
このあたりの説明を聞いて・・・ノアはサッパリわからなかったのだが、シルンちゃんは頷き理解していたようである。
要するに・・・これはソーラーシステム!
日光の光によって発電された電気を魔導石によって充電し、蓄電し・・貯めていくのである。
そして、充電し満タンとなった電力パワーを再び魔力に変換させることによって 究極兵器・魔導弾頭として放出するのだ!
ちなみに・・魔導力を電力に変換させ・・再び魔導力に戻すって・・!
そんな二重手間、エネルギーロスしてるのじゃないの!?・・という気もするのだが,そこんとこは関係ない!
そう・・・逆にロストさせないと大変なことになるぐらいのエネルギーを放出するとのこと!
これは・・・人類が生み出した究極破壊兵器! なんという恐ろしい兵器を作ってしまったのだろうか~!
「・・・・と、ヒラガさんから貰ったマニュアルに書いてます」と何気に説明するノアであった。
というわけで、さっそくの試射であるのだが・・・これまた簡単にはいかなかった。
ミラーの調整などなど・・細々とした仕事があるのだが・・・そこんところは兵士たちの御協力が必要である。
それに・・このような兵器を 彼ら兵士たちによって運用し反撃したとなれば・・・兵士たちの使命感、やる気、士気の向上につながるであろう。
司令官サリュマも・・素晴らしき兵器を持ってきてくれたと・・ノアに感謝するのであった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)