レルンド襲撃
アリツ砦にてキヨウラ公国軍とヴルティリア帝国が対峙していたその頃・・
イジャル公王率いる8千の兵は、北方から大きく迂回し、敵に悟られず西進していたのであった。
現在のところ、帝国軍の目はアリツ砦に注がれている。
イジャル公王率いる本隊の動き・・いや! その存在すら帝国は把握していないであろう。
「我々は勝利の道を歩んでいる! 危険なれど栄光への道! 危険なれど名誉への道!」
イジャル公王は叫び・・兵士たちを鼓舞する。
道なき道を歩む公国軍、なんとしてもこの山岳地帯を突破するのだ!
そう、ここは秘境!、知る人ぞ知る秘境、谷あり崖ありの蜀の桟道、獣道のような間道をつたって 公国軍は西へ西へと突き進む・・・
過酷な進撃なのだ!
これは言わば・・・某異世界におけるハンニバル・アルプス超えのような軍事作戦!
ローマ軍の意表を突きイタリア半島になだれ込んだ奇策!
イジャル公王は、そのような過酷な作戦をおこなっているのであった!
「うまくいけば・・敵の後方へ回り込める! あわよくば帝国軍への奇襲をも狙えるだろう」
ちなみに失敗した例としては・・インパール作戦がある。兵糧切れ、意思疎通の欠如、不破が原因なのか!?
うまくいくとは・・思うなかれ!
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
一方、こちらはセェルンの北方、シドン村
この村の領主にて、魔導技師のヒラガ少女!?は、ノアが持参してきた王国軍のゴーレム(真っ二つとなった残骸)の解析を受託した。
「このゴーレムは、わしの手にあまるのは間違いないのじゃが・・なんとかしてやろうじゃないか!」
このゴーレムの制作者は、おそらくレシプロン!
ゴーレム制作のプロフェッショナル! 王国の・・いや! 人類最強のゴーレムマスター!
そして、ウッドゴーレムのような初歩的技術をヒラガに教授した人物でもあったのだ。
だが・・ヒラガの専門分野はエレキテル関連であるため・・・ゴーレム技術に関しては、ほぼ素人、レシプロンのような知識はない。
どこまで解析できるかが問題であった。
「ヒラガさん・・・おねがいします」
「ふむ、まかせるのじゃ」・・・と言いつつ不安気味の顔となるヒラガ。
そんなこんなで・・・ヒラガ少女に後事を託した後、
ノアとシルンちゃん、コサミちゃんは空飛ぶ箒にて、王国軍が駐屯しているという"レルンド"の町に急行するのであった。
公国情報部・影忍たちからの情報によると・・公国へと侵攻していた王国軍6万は一旦、退却し"レルンド"の町に駐屯しているとのこと。
敵の狙いが良く分からないが・・休息中なら、襲撃するに絶好のチャンス!
◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇
一方その頃、レルンドの城門をくぐり、王都方面へと去っていく一団があった。
彼らは、かつての軍司令官プライバン伯や幕僚のプルゥーリなどの幹部たちなどの面々、王太子の勅令によって解任された者たちだった。
そう、このレルンドの町に、新たに任命された司令官や幕僚たちが到着し、そして後任としての引き継ぎを行ったのである。
新司令官はまだ若く、笑みをたたえつつプライバン伯に礼をした。
経験豊富な伯の立場を立てつつも・・嘲りの心が見え隠れするような人物のようだ。
はたして、この程度の人物に6万の兵を預けていいものかと不安になったのだが・・勅命なのだから仕方がない。
引継ぎなどをおこなった後、彼らプライバン伯たちは即座に、この地から去っていったのである。
ちなみに、元参謀・シラヤ子爵は、横領の罪によって王都に護送されることになっている。
レシプロンを始めとした勇者たちの処遇には、変化はない。
王太子からの直接要請によってデルテ二ア邦伯が直に集めた勇者たちだからだ。
勇者たちの地位と身分は王太子と邦伯によって保証されているのであった。
だがそんな勇者たちの中で・・レシプロンだけは 新任の司令官に疎まれ・・いや!それどころか殺意まで持たれていた。
たしかにレシプロンは いい意味でも、悪い意味でもよく目立つ!
筋肉隆々で大柄、見た目もマッスルなナイスガイ。
しかも、27体のゴーレム軍団を率いているのだ。
嫉妬されてしまうのも仕方がない!
だが、新任司令官に殺意をもたれた理由は、そんなものではなかった!
彼・・・新任司令官の名はクーラス・・・フロスネン侯爵家の嫡男、
そして、亡くなったルイーブル書長の兄にあたる人物・・・
そう、レシプロン(またはゴーレム)によって惨殺(正当防衛)してしまったルイーブル書長は、今、ここにいる新任司令官の弟だったのだ。
つまり、恨まれて当然の理由がそこにあった。
デルテ二ア邦伯によって事件そのものを、もみ消されたのだが、人の心までもみ消すことはできない!
そう、新任司令官クーラスにとって・・レシプロンは弟の仇なのだ!
「よくもよくも可愛い弟を・・・・復讐してやる! 絶対に殺してやる!」
司令官として赴任した直後・・奴の名を知って、驚き・・そして殺意と怒りが込みあげてきたのだ!
だが、奴は・・王太子の最側近・デルテ二ア邦伯に目をかけられている! 下手に手を出すことができないのだ!
もしも手をだせば・・邦伯の、いや! 王太子の怒りを買うであろう
それに・・クーラス自身も王太子派に属しており、王太子の意向に逆らうわけにはいかなかった。
それならば!、戦闘中のどさくさまぎれに・・・・背後からの暗殺
奴には贅沢だが名誉の戦死にしてやろう!
クーラスは目を細め・・とある陰謀をめぐらすことにした。
そう・・クーラスの実家たるフロスネン侯爵家直属の暗部組織・フクロウ三人衆を呼び寄せ・・そして命じたのである。
「 やれ!」
「はっ おおせのままに!」
素性を頭巾でかくすその3つの姿・・黒く影に染まり・・闇へと帰っていく。
彼ら三人衆は影魔法の達人・・暗殺を専門とする暗部!
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その後、間もなくして暗殺の機会が到来した。
王国軍が現在、駐留している"レルンド"の町全体を揺るがす地響きと大音響、住民たちは何が起きたのかと・・路上へ駆け出し右往左往をする。
ズドォォオォンン! ドッドドド・・・
軍の駐屯基地、並びに関連施設が同時に崩壊、城壁も崩れ落ちた。武器庫が爆発し、火花が夜空を照らす。町の各所からも火災が発生しているようだ!
そう、これはノアたちによる空爆!
コーヒーバブルボムによる魔導攻撃の連射
レルンドの北方 4ロキル上空で旋回する空飛ぶ箒からの・・長距離投射攻撃をおこなっていた。
そう、制空権は完全にノアが握っているというか・・・この世界で空を飛べるのは、おそらくノアたちのみ!
圧倒的すぎるほどのアドバンテージを保有している。
まさに空爆のし放題!
ただし・・以前のように、レシプロンゴーレムによる反撃、石礫攻撃があるかもしれない。
警戒を厳重にしつつ・・町からの距離も それなりにあける必要もあった。
「警戒は必要だからね!」
『 はいっす! 』
一応、一般住民に配慮し住宅地は 狙っていないのだが、命中率が悪いせいで、住宅地に着弾、多数の建物が崩壊している。
住民たちは、おそらく逃げ惑っているであろう。
だが・・ノアはあえて考えないことにした。
これは戦争なのだ。全ては勝つため! 勝つためならすべてが許される!
そう、ここは中世、このような考え方がまかり通る時代なのだが・・・後ろに乗るコサミちゃんの表情は複雑だった。
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一方、レルンドの町に駐屯している王国軍は大混乱を起こしていた。
いきなりの爆発・・・いきなりの倒壊!
遠く地平線付近から飛来する謎の投射物によって破壊、倒壊が発生しているのは明らか!
これは敵からの攻撃! 襲撃なのだと・・即座に判断、直ちに臨戦態勢が取られた。
司令官からの的確な指示はないが、兵士たちは持ち場へと走り、町の守りを固める。
もちろん勇者たちも例外ではなく・・各自、自分たちの成すべきことに励むのである。
そして・・・レシプロンはゴーレムたちに命じた。
「全力をあげ・・降りそそぐ敵の弾頭を迎撃せよ!」
『 了解いたしました! 』
いつもの機械音声で返答すると同時に・・地面に落ちている石礫を拾い上げ・・即座に上空へと投げ込むゴーレムたち。
もちろん彼らゴーレムたちの形態は千手観音モード!
幾つもの手が動き・・幾つもの手から放たれる幾つもの石礫・・・
それは・・まるで対空機関砲! まるで近代戦!
次々と石礫が空へと舞い上がっていき・・・ノアから放たれたコーヒー弾頭が片っ端から撃ち落とされていく。
ドン! ドカン! ドッドドドド
閃光が煌めく。
そう! 本格的にゴーレムたちが動き出すと・・・大多数のコーヒーバブルボムが防がれてしまった。
それどころか! その石礫が大量に、ノアが乗る空飛ぶ箒へと飛来してきたではないか!
「やはり・・反撃してきたか!」
『 大丈夫っすノア様! 自前にイージスシステムを稼働していたっす! 迎撃開始っす! 』
シルンちゃんはすかさず空中パネルを操作し・・・迎撃態勢をとった。
『 全てターゲットロック完了っす! 迎撃弾を放出 』
パシュンパシュン!
つるべ打ちのように放出される迎撃弾は 箒に向かってくる石礫たちを確実に撃ち落としていくのであった。
完璧なディフェンド・・絶対防衛のイージスシステム!
鉄壁の守りで空飛ぶ箒を守る!
「いけそうね!」
ノアはすこし安堵したが・・世の中はそんなに甘くなかった。
そう! 石礫は全て迎撃しているものの・・・なにせ、数が多すぎる!
敵は飽和攻撃を仕掛けてきているのだ!
一応、ギリギリで対応しているが・・かなりヤバい!
『 このままでは、ジリ貧っす! いずれ撃ち漏らしてしまうっす 』
シルンちゃんの判断によって・・一旦、戦線から離脱することにしたのだが・・・
ここでおとなしく撤退するのって・・面白くないよね!
最後の置き土産というべきなのか!?・・・地上のゴーレムたちを目標に・・あるったけのコーヒーバブルボムを放ったのである。
「うちからの最後のプレゼントよ・・感謝してね!」
ゴォォォッッォ
青空を背景にして、数多くの・・大量の飛行機雲が空を横切っていく・・・
恐ろしく、美しい・・・破壊と爆発を撒き散らす弾頭、それはノアが放った・・ありったけのコーヒーバブルボムたちだった。
ターゲットはゴーレム! 一点集中の飽和攻撃を仕掛けてきた!
ズドォォオォンゴォォン ドンドン
空気を震わす轟音、町の上空に衝撃波が走る!
ノアが放った弾頭が・・ゴーレムたちによって迎撃されているのだ!!
レルンドの町を守る兵士たちは空を仰ぎ見て・・驚き戸惑う。
そう、破裂しているのだ!
轟音を響かせながら、空が破裂し・・黒い雨を降らす。
そして、地面を暗黒に染めあげていく・・(コーヒーの雨ですw ついでに良い香り)
狙われたゴーレムたちは必死となっての迎撃作業!
AI知能が焼き切れんばかりとなって石礫を投げ続ける。
コーヒーバブル弾頭の集中連打! 一点飽和攻撃!
外せば・・・撃破されるのだ! AIとはいえ、必死の迎撃!
しかし・・ノア側のような完璧イージスシステムというわけにはいかず、
いくつかの弾頭が迎撃されずに着弾!
3体ほどのゴーレムたちが撃破され・・・倒れた。
「な、なんてことを! 俺の・・俺の・・・!」
ゴーレムたちの迎撃姿を固唾を飲んで見守っていたレシプロン・・彼の顔がゆがむ。
仕方がない! 俺が直に対処する!
これ以上、ゴーレムを倒されるわけにはいかないのだ!
レシプロンは立ち上がり・・・片手を上げ、力をこめた。
・・体内の魔力が徐々に片手へと集まっていく!
淡く光る・・神聖魔法の青色! 片手が光っているのだ!
そう! 彼は秘儀を発動させようとしていた・・・
だがだが・・・その時!
風を切る音がした。何かが猛接近
そして・・・悪寒! プレッシャーが背中を押してくる。
「後ろに敵なのか!?」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)